↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末に転生したら近衛家の姫でした。まず屋根を直します【累計350万PV/80万UU突破‼ 幕末経済戦記】  作者: 1009


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
235/239

二百三十五話「糸子のお嫁入り編―退き際」

一

 弥生十四日の朝、江戸城の御用部屋にはまだ夜の冷えが残っていた。


 庭の桜はもう葉ばかりで、風が渡るたびに白砂の上へ赤い蘂を落としていく。坊主が夜明けに掃き清めた砂目のあいだに、もう同じだけ溜まっていた。


 火鉢には炭が足されている。老中たちは膝の前に書付を置いてめいめいの用を片づけており、紙をめくる音と筆を硯へ戻す音のほかには、ほとんど何も聞こえない。


 堀田正睦も自分の座で書付を読んでいた。昨年の暮れからまた痩せて、袴の腰の余りは坐っているだけで分かる。それでも読む速さは変わらず、読み終えたものから順に脇へ回していく。


 敷居の外で、坊主が膝をついた。


「外国奉行、一色山城守様、お見えにございます」


「通せ」


 一色直温は膝で進んで堀田の前で頭を下げ、懐から畳んだ紙を一枚出した。


「昨夕、某の役宅へ届きました書付の写しにございます。近衛様より」


「近衛様からじゃと?」


「はい。筑後守殿とも検めましてございます。御一覧を」


 堀田は紙を受け取って開いた。


『弥生十五日、横浜本村増徳院にて、英国代理公使ニールと面談。先の談判の折に申し入れし詫びの儀につき。江戸を発つのは十四日。』


 差出には、朝廷御使者、近衛糸子とある。堀田の目が、日付のところで止まった。


「届いたのは、昨夕と申したな」


「はい。暮れ方に町人の身なりの使いが門番に預けて参りました。返事は要らぬと申して、そのまま帰ったそうにございます」


「江戸を発つのは、十四日」


「……今朝にございます」


 一色はそう答えて口をつぐんだ。


 堀田は写しを膝の上へ下ろした。今から人をやっても、姫君はもう一橋の門を出ている。横浜へ向かう道の途中で呼び止める筋も、こちらにはない。


 師走の談判の座で、姫君が英国の書記官に、代理公使の詫びを約させたことは、一色と水野から聞いていた。そのときは、言葉の上だけで済む約束だろうと思った。三月(みつき)近く経って、英国の代理公使が本当に詫びに来る。その座まで、姫君が自分で決めている。


(まさか、本当に英国の代理公使に詫びを入れさせるとは……)


 霜月の末、この同じ御用部屋で、堀田は姫君を談判の座に出すことに反対した。あの御方が口を開かれるのは、こちらが負ける筋になったときだけだ。開かれれば必ず勝たれる。勝った談判の始末は、そのあとに残る者が付けるものだ――そう申し上げて、反対したことを平岡の筆に書き留めさせた。


 その始末を、姫君は自分で付けに出向いている。


 届けが前の晩に着き、出立は翌朝。評議を開く間はない。それでいて外国奉行が承っている以上、御公儀は知らなかったとは言えない。後で誰に問われても、英国に向かっても諸藩に向かっても、初めから承知していたという姿勢を貫くほかなかった。


 御公儀の面目まで、先に勘定へ入れてあるのだった。


(相変わらず、やり方がうまいというか……小ズルいというか……)


 乾いた笑いが一つ、堀田の口から漏れた。一色が顔を上げ、隣の座で書付を読んでいた板倉勝静が、細い目を一度だけこちらへ向けた。


 笑いの終わりが咳に変わった。堀田は袖で口元を押さえてしばらく動かず、それから懐紙で口を拭って、畳んで懐へ戻した。白い紙の端に色が残っている。この一年、何度も見てきた程度の色だった。


 座敷の誰も、そちらを見なかった。それが、この御用部屋の作法になっていた。


「山城守」


「はっ」


「承った。追って沙汰すべきことがあれば、こちらから申す」


 一色が頭を下げて膝で下がっていくと、堀田は写しをもう一度読み、書付の束の上に重ねた。


二

 下城したのは、八つを過ぎたころだった。


 西の丸下の役宅へ戻ると、堀田は着替えだけ済ませて書院の文机に向かった。城から持ち帰った書付が三つと、佐倉の藩から回ってきた伺いがいくつかある。日の落ちる前に灯を入れさせ、一枚ずつ片づけていった。


 庭の桜も葉ばかりになって、若葉が暮れていく空の下で黒く沈んでいた。去年の夏、この庭には百日紅が咲いていた。葉月の初めに勝麟太郎が縁側から顔を出して、長州を列座に加えてくれと言ってきたのも、あの花の下だった。


 四つ目の書付を読んでいるとき、咳が出た。


「ゲホッ! ゴホッ、オホッ、ゲホッ、ゲホッッ!! 」


 いつものように袖で押さえても収まらない。一つ吐き出すと、次の咳が胸の奥から上がってくる。朝、御用部屋で笑ったときの咳が、そのまま続いているようだった。懐紙を出す間もなかった。


「カハッ、ゴッ、ホ、ゴホッ!!! ……げほっ!」


 口元を押さえた指のあいだから熱いものが溢れ、袖を濡らし、膝の前の書付に赤い斑点を散らした。この一年で見てきたどの色より濃く、どの量より多かった。


「カッ、ゴホッ、 ……はっ、ひゅ…」


 文机の縁に手をついた。灯が、急に遠くなった。


  *


 平野縫殿(ひらのぬい)が書院へ来たのは、それから四半刻ほどあとのことである。


 佐倉藩の家老で、江戸の藩邸を預かっている。藩主が老中首座にある以上、藩の用は役宅へ持ち込んで裁可を仰ぐほかなく、この夜も国元から届いた伺いを携えていた。


「殿。平野にございます」


 障子の外から声をかけても返事がない。もう一度呼んでも同じだった。灯は点いている。


 平野は障子を開けた。


 堀田が、文机にうつ伏せていた。片方の腕が机の縁から垂れて、袖の先が畳に届いている。机の上の書付は赤く濡れ、その赤が紙の端から畳へ落ちて、小さな溜まりになっていた。


「殿!」


 書付の束を放り出して駆け寄り、肩に手をかけると、体が軽かった。顔を横へ向けさせる。唇の端に血がこびりつき、灯の下でも分かるほど顔色が白い。浅い息が、まだ通っていた。


「誰か! 誰かある!」


 廊下の奥で、足音がいくつも起こった。


「殿を寝所へお運び申せ。静かにだ。それから医者を呼べ。今すぐだ」


 近習たちが堀田を抱え上げて寝所へ運んでいく。平野はあとについて歩き、寝所の前まで来て、自分の手が血で汚れていることに気づいた。手水を持ってこさせて洗いながら、書院の始末を言いつけた。濡れた書付は捨てずに乾かしておくこと。畳の血は今夜のうちに拭っておくこと。書院には誰も入れぬこと。


 医者が来たのは、半刻ほどしてからだった。藩邸から駆けつけてきたらしく、羽織の紐が片方解けたままになっている。寝所に入るなり脈を取り、まぶたを指で上げ、枕元の盥に吐かれたものを長いこと見ていた。何も言わずに薬箱を開けて煎じ薬を整えさせると、


「今夜は、とにかく動かさぬように」


 と言い置いて、別室へ下がった。


 平野は枕元に坐った。堀田は目を開けなかった。


 夜半を過ぎても平野はそこを動かず、灯の芯を何度か自分で切った。寝息が乱れるたびに身を乗り出し、収まるとまた坐り直す。近習が交代を申し出ても、首を横に振った。


三

 障子が、白んでいた。


 天井が見える。見覚えのある木目で、役宅の寝所のものだった。いつ横になったのかは思い出せない。


「……わしは」


 掠れた声が出た。枕元で、誰かが身を起こした。


「殿!」


 平野だった。堀田の顔を覗き込んだかと思うと、急に目を伏せた。


「殿が……殿が、気づかれた……」


 袖で顔を押さえ、押さえたまま障子の外へ声を張った。


「殿が気づかれた。すぐに医者を呼んで参れ」


 廊下を走っていく足音がした。平野は袖を下ろして膝を正した。目が赤い。一晩、眠らずにいた顔だった。


「縫殿」


「はっ」


「わしは、どうしておった」


「昨夜、書院の文机にうつ伏せになっておられました。血を吐かれて、気を失うておられたのでございます。手前が伺いの書付を持って参りまして、見つけました」


 平野はそこで一度息を整えた。


「すぐに寝所へお運びし、医者に診せました。殿は、今朝まで目を開けられませなんだ」


 文机の上の書付が赤く濡れていたところまでは覚えている。そこから先がない。


  *


 別室に控えていた医者が入ってきた。


 佐倉の藩医で、この一年、堀田の咳を診てきた男である。脈を取り、胸に耳を当て、舌を見る。長い時間をかけ、そのあいだ誰も口をきかなかった。


 医者は、手を膝の上へ戻した。


「殿」


「うむ」


「もうこれ以上の政務は、おやめくださいませ。さもなければ、早晩、御命が持ちませぬ」


 堀田は黙っていた。平野が膝を進めた。


「殿は、どれほどお悪いので」


「今までだましだましやってこられたのでございましょうが、もはや限界にございます」


 江戸の水が合わぬのだと、この医者には何度も言ってきた。医者もそれ以上は問わずに薬を出してきた。堀田自身は、それが気休めだと分かっていた。


「今、わしは職務を離れるわけにはいかんのだ」


 低く、はっきりした声だった。


「幕府は、日に日に弱っておる。わしが……わしが……」


 その先が咳になった。平野が背をさすると咳は短く収まり、懐紙には昨夜ほどではない色が残った。医者はその懐紙を見ていた。


「殿。明日には、御命が尽きているやもしれませぬぞ」


 平野の手が、堀田の背の上で止まった。


「……殿は、それほどまでに、お悪いのですか」


「はい」


 寝所が静かになった。障子の外で雀が鳴いている。


 去年の文月、勝麟太郎はこの役宅で言った。あなた方は潰されようとしているのではない、畳まれようとしているのだ、と。幕府を生かしたまま、幕府の役所のほうだけを少しずつ別のものへ移し替えていく。移し替え終わっても、御公儀はまだそこにある。ただ、動かすものはもう何も残っていない。


 畳むことができるのは一人しかいない、とも勝は言った。その一人は、いま将軍後見職に坐っている。畳み終えるまでには、まだ幾年もかかる。そのあいだ御用部屋が崩れずに回っていなければ、畳む前に器のほうが割れる。だから自分が坐っておらねばならぬと、堀田は思ってきた。


「そうか」


 長い間を置いて、堀田は言った。


「薄々は、感じておった」


 この一年、懐紙の色が濃くなっていくのを一枚ずつ見てきた。袴の腰が余っていくのも、登城の足が遅くなっていくのも、自分で数えてきた。


「……しかし、もう限界か」


「はい」


 医者は同じ答えを繰り返した。


 御用部屋に積まれた書付のことを思った。英国のこと、京のこと、後見職と総裁職のこと。それから、昨日の朝に読んだ写しのこと。あの姫君は今日、横浜で英国の代理公使と会う。何を話し、何を求めるのか、堀田には分からない。分からないまま、こうして床に就いている。


「もう少し……」


 声が、少し緩んだ。


「もう少し、あと少しだけ、見てみたかったんじゃがなあ」


 平野が顔を上げた。医者は目を伏せていた。


(あの姫君の、この国の行く末を……)


 霜月の終わり、御用部屋の廊下で後見職様に、あの姫君を恐れておられるかと問われ、恐れておりますと答えた。その姫君が横浜から何を持ち帰るのかを、自分はこの床の上で聞くことになる。


「相分かった」


 堀田は、そう言った。


「首座を、辞する」


 平野が息を詰めた。


「殿……」


「縫殿。今日は登城せぬ。所労にて、と城へ届けよ」


「……はっ」


「それから、紙と筆を枕元へ」


「殿、今は」


「考えを並べるだけじゃ。並べておかねば、辞することもできぬ」


 平野は口を開きかけて閉じ、深く頭を下げて立ち上がった。医者も薬の加減を言い置いて下がっていった。


 障子が閉まると、寝所には堀田一人が残った。雀の声は、まだ続いていた。


四

 日が高くなるころ、薬が効いてきたのか、胸が少し楽になった。


 枕元に紙と筆は置かれていた。堀田は手を伸ばさず、目を閉じたまま、御用部屋の座を一つずつ思い浮かべていった。


 自分のあとの首座には、板倉勝静を据える。


 備中松山の財を立て直した山田方谷のもとで、数の見方を身につけた男である。小栗がメリケンから持ち帰った鋼の量の話を、あの評定の場でまず数字として呑み込んだのも板倉だった。


 勘定の分かる者が首座にいなければ、これからの御公儀は回らない。財と、異国の仕組みを取り入れる仕事は、板倉に任せる。


 海防と海軍は、松平和泉守がそのまま担えばいい。小栗がワシントンの海軍工廠の話をし、ネジの寸法を揃えることの重さを説いたとき、和泉守は他の老中のように聞き流さなかった。海軍を起こす話を誰より真剣に受け止めてきたのは、あの人である。


 そこへ、新たに二人を加える。


 一人は、いま京都所司代として京にいる牧野備前守忠恭。もう一人は、唐津の世子の小笠原長行。世子の身では老中にそのまま上げられないから、老中格として推すことになる。


 酒井雅楽頭は、今のまま置く。国の勝ち負けが鉄の量で決まるのか、と小栗を笑った人である。その人が、去年の水無月には、率兵上洛を禁じた一条を読んで膝を打った。


 板倉が首座で、財と近代化。和泉守が海防と海軍。牧野が諸藩と国の内の政。小笠原が外交と軍制。酒井が門閥。


 並べ終えてから、堀田はもう一度頭から順に辿った。穴は見当たらなかった。


(この布陣ならば……あの姫様の助けにもなろう)


 目を開けると、障子の外はもう昼の明るさだった。横浜では、そろそろ正午になる。


五

 弥生十五日、老中首座は登城しなかった。


 所労につき、という届けが、朝のうちに御用部屋へ回った。堀田が咳で一日休んだことは、この一年に何度かある。この日、届けを持ってきたのは佐倉藩邸の者で、その顔色が悪かったことを、取り次いだ坊主は見ていた。


 昼前には、廊下の隅で坊主どうしがささやきはじめていた。


「備中守様が、昨夜」


「血を、たいそう吐かれたそうな」


「医者が、朝まで枕元を離れなんだとか」


「役宅の書院の畳を、夜のうちに替えさせたとも聞いた」


「拭わせただけじゃと聞いたぞ」


 話は次の詰所へ、また次の詰所へと伝わり、伝わるたびに、吐いた血の量が少しずつ増えていった。


  *


 奥右筆の詰所では、書付が積まれていった。首座の目を通して印を受けるはずのものが、その日は一枚も下りてこない。届いた順に重ねていくと、夕刻には膝の高さになった。


 一日なら、どうということはない。明日も同じなら、どうするか。右筆は筆を置き、束の厚さを指で測った。隣の机の右筆が、それを横目で見た。


「備中守様は、この一年、休まれても翌日には必ず出てこられた」


「そうでしたな」


「休みの明けた日には、溜まった分を昼までに全部片づけていかれた」


 言った右筆は、それきり自分の書付に目を戻した。束は、どちらの机の脇でも減らなかった。


  *


 御用部屋では、酒井雅楽頭忠績が、空いた首座の座へ一度だけ目をやった。


「首座の御用を、滞らせるわけには参らぬ。御本復までは、月番にて回すほかござるまい。前にも、そうした例はござる」


 誰に言うともなくそう言って、自分の書付へ目を戻した。


 松平和泉守乗全の手元には、海防の掛から上がってきた伺いが三つあった。いずれも、首座の決裁を仰いでから上様へ言上する段取りになっている。


「……これは、どなたへ回せばよろしいか」


 低く尋ねられた板倉は、細い目で表書きを見て少し考え、


「明日まで、お待ちなされ」


 とだけ答えた。


  *


 外国奉行の詰所で、一色直温は筆を止めていた。


「昨日の朝、あの届けを差し上げたばかりで」


 向かいの水野忠徳は、書付から目を上げなかった。


「御様子は、どうであった」


「いつもどおりでござった。咳を一つ、なされただけで」


 一色はそこで言葉を切った。首座が乾いた笑いを漏らしたことは、口にしなかった。


 水野はしばらく黙ってから、


「あの御方は、とうに無理をしておられた」


 と、短く言った。


 一色は窓の外へ目をやった。昼を過ぎた空は晴れている。今日の正午、横浜の寺で、あの姫君は英国の代理公使と向かい合っているはずだった。そのことを口にする者は、この詰所にはいなかった。


  *


 十六日になっても、首座は登城しなかった。


 噂は城の外へも出ていった。大名屋敷の留守居たちが、詰所で聞いた話を屋敷へ持ち帰る。ある屋敷の留守居は、首座が退かれればどなたが上がられるのか、と同輩に尋ね、そこまではまだ誰も申しておらぬ、と返された。


 一橋家の表にも、その日のうちに届いた。


「備中守殿が、血を吐かれて倒れられた由にございます」


 平岡円四郎が書院で告げると、慶喜は、手にしていた書付をしばらく下ろさなかった。


「……そうか」


 口にしたのは、それだけだった。


 奥御殿へは、誰もその話を運ばなかった。奥の主は、まだ横浜からの帰り道にあった。


六

 十六日の夕刻、板倉勝静は西の丸下の役宅を訪ねた。


 使いが来たのは昼過ぎで、「首座がお会いしたいと申しております」とだけあった。板倉はその日の用を早めに片づけ、下城した足で役宅へ向かった。乗全から預かった海防の伺いは、まだ懐にある。


 玄関では、平野縫殿が迎えた。


「わざわざのお運び、痛み入りまする」


「御様子は」


「今朝より、いくらか持ち直しておられます。ただ、長くはお話しになれませぬゆえ」


「心得た」


 奥の寝所へ案内される途中、書院の前を通った。障子は閉まっていて、平野はそこで足を速めた。


 堀田は床の上に身を起こし、丸めた夜着を背に当てて、膝に薄い掛けを載せていた。平野は板倉を枕元へ通すと、一礼して下がり、障子を閉めた。


 床の脇に坐って、板倉は堀田の顔を見た。一昨日の朝、御用部屋の隣の座で見た顔が、二日で一回り小さくなっている。頬の肉が落ち、目のまわりが黒ずんでいた。板倉は口を開きかけて、何も言えずに閉じた。


「よう来てくれた」


 先に口を開いたのは、堀田だった。


「……備中守殿」


「坐ったままで、相済まぬ」


「いえ」


 堀田は膝の上の掛けに手を置いた。


「医者に、これ以上の政務はならぬと言われた」


 板倉の細い目が、わずかに見開かれた。


「……左様な」


「だましだまし来たが、もう限界だそうな。わしも、薄々は分かっておった」


 堀田は小さく息を吐いた。


「それでな、周防守殿」


「はい」


「わしは、首座を辞する」


 板倉は黙っていた。


「わしのあとを……首座を、そなたに頼みたい」


 障子の外で、風が庭木を鳴らした。板倉は膝の上で手を握った。堀田はその手を見ながら続けた。


「御用部屋で、数の分かる者はそなたじゃ。去年の水無月、京から覚が下ってきた朝を覚えておるか。皆が文言の良し悪しを言うておるあいだ、そなただけは黙って銭の勘定をしておった。京の警衛に新しい役を立てずに済む、二万両が浮く、とな」


 板倉は、細い目を伏せた。


「……口には出しませなんだ」


「出さずとも、顔に出ておった。あの朝、あの座で銭を数えておったのは、そなた一人じゃった」


 掛けの上で、堀田の指が一本動いた。


「これからの御公儀は、算盤の合わぬことは何一つ通らぬ。異国の器械を買うにも、船を造るにも、まず銭の出どころが要る。首座には、それの分かる者が坐らねばならぬ」


「備中守殿……」


「それとな。牧野備前守と、唐津の世子の小笠原を、御用部屋へ推すつもりでおる。牧野は老中に、小笠原は老中格にじゃ。理由は、後見職様と総裁職様の前で申し上げる。二人とも、そなたの手を助けられる者と見ておる」


 板倉は、しばらく何も言わなかった。障子の向こうの廊下を誰かが通り過ぎ、足音はすぐに遠ざかった。


 やがて、その細い目から涙が落ちた。板倉は拭わず、膝の上の手に一つ、また一つと落ちるにまかせた。


「……ご苦労でござった」


 かすれた声だった。


「あとは、任せられよ」


 堀田は、板倉の顔を見ていた。


「頼む」


 板倉は深く頭を下げ、そのまましばらく上げなかった。堀田も、もう何も言わなかった。灯が細く揺れ、障子の外が暗くなっていく。庭の桜の枝が、風のたびにかすかに鳴った。


 顔を上げた板倉の目はまだ赤く、声はもう元に戻っていた。板倉は懐から書付を出した。


「和泉守殿から預かった海防の伺いでござる。首座の御決裁を仰ぐはずのものが三つ」


「ここで見よう」


「いえ」


 板倉は書付を懐へ戻した。


「これは、某が見ておきまする」


 堀田は、それ以上言わなかった。


「明日、某から後見職様にお伺いを立てておきまする。備中守殿が、お会いしたいと申しておられると」


「頼む。……登城は、明後日にしたい」


「明後日、でござるか」


「それまでには、立って歩けるようにしておく」


 板倉は何か言いかけてやめ、


「承知いたしました」


 と一礼して立ち上がった。障子に手をかけたところで一度だけ振り返ると、堀田は目を閉じていた。板倉は、静かに障子を閉めた。


 玄関では、平野が見送りに出ていた。板倉は草履を履きながら、平野のほうを見ずに言った。


「明後日、備中守殿が登城なさる。下乗まで、必ず付いて参られよ」


「はっ」


 平野は、深く頭を下げた。


七

 弥生十八日、堀田は登城した。


 平野は朝のうちに何度も止め、堀田はそのたびに首を横に振った。支度のあいだに咳が二度出て、どちらも短く収まった。乗物で役宅を出て、下乗の前で降りる。平野が付き添えるのは、ここまでだった。


「殿」


「案ずるな。昼過ぎには戻る」


 平野は、堀田の背が門の内へ消えるまで、その場に立っていた。


  *


 城の廊下は長かった。


 毎日歩いてきた廊下で、どこで板が鳴り、どこで曲がり、どこで日が差し込むかは、目を閉じていても分かる。その廊下を、今日は角を一つ曲がるたびに足を止めたくなった。堀田は止めずに歩いた。すれ違う坊主が、壁際へ身を寄せて頭を下げていく。


 通されたのは、松平春嶽が日ごろ書き物に使っている小部屋だった。四間ほどの座敷で、床の間には何も掛かっていない。障子は閉てられ、火鉢が一つ置かれている。書役の文机はなかった。


 上座に慶喜、その脇に春嶽が坐っていた。


 堀田は敷居の手前で膝をつき、膝で進んで二人の前に坐った。それだけで、息が少し上がった。


「備中守殿」


 先に口を開いたのは、春嶽だった。


「無理を押して来られたのではないか。話なら、役宅へこちらから伺ってもよかった」


「勿体のうござる。総裁職様に、役宅までお運びいただくわけには参りませぬ」


 堀田は懐から書付を一通出して、膝の前に置いた。


「本日は、これをお願いに上がりました」


 慶喜が、表書きに目をやった。


「御役御免の願いか」


「はっ。所労にて、これ以上御用を相勤めること叶いませぬ。医者にも、そう申し渡されました」


 慶喜は書付を手に取らず、堀田の顔を見ていた。


「医者は、何と申した」


「早晩、命が持たぬと。明日には尽きておるやもしれぬと」


 春嶽の手が、膝の上で止まった。慶喜の顔は動かなかった。


 慶喜は、そこで初めて書付を取り上げた。表書きを確かめただけで、開かずに膝の脇へ置いた。


「受け取った」


「ありがたく存じまする」


 堀田は頭を下げ、下げたまま続けた。


「あわせて、あとのことを申し上げとうございます」


「申せ」


 堀田は顔を上げた。


「首座には、板倉周防守を推しまする」


 慶喜は黙って聞いている。


「周防守は、御用部屋で数のいちばん分かる者でござる。これからの御公儀は、財の勘定が合わねば何一つ動きませぬ。異国の器械を入れるにも、船を造るにも、まず銭の出どころを詰めねばなりませぬ。その勘定を、首座が自分の目でできることが何よりの要にござります。周防守には一昨日、わしから頼みました。引き受けてくれましてござる」


 堀田は、そのまま次へ進んだ。


「新たに二人を、御用部屋へ加えていただきとうござる」


「誰じゃ」


「一人は、牧野備前守。いま京都所司代を務めております。京の朝廷の御様子も、京に集まる諸藩の様子も、この数年、江戸の誰より近くで見てまいった者でござる。諸藩のあいだを取り持ち、国の内の政を回すには、京を知る者が御用部屋に要りまする」


 春嶽が、小さく頷いた。


「もう一人は、小笠原長行。唐津の世子でござる」


 慶喜の眉が、わずかに動いた。


「世子の身で、か」


「はっ。それゆえ、老中格として推しまする。異国の事情に明るく、物を申すのに遠慮のない男でござる。異国との掛け合いも軍制も、御公儀が先に立って進めねばならぬと考えております。外交と軍制は、この者に任せられまする」


 堀田は、そこで一度息を整えた。


「海防は、和泉守が今のまま担いまする。雅楽頭殿も、今のまま」


 言い終えて、膝の上に手を戻した。慶喜はしばらく黙ってから、口を開いた。


「相分かった。牧野を江戸へ呼べば、京の所司代が空く。そちらの手当ては、追って詮議いたそう」


「恐れ入りまする」


「上意は、追って余から取り次ぐ。それまでは、備中守殿は首座のままじゃ」


「はっ」


 堀田は、そこで一つ言い添えた。


「上様へは……わしの口から言上いたしとうござる」


 慶喜は堀田の顔を見た。上様が政を執れぬ身となられてからも、堀田は奥へ上がり、几帳の前で言上を続けてきた。返事のない相手に向かって一つも省かずに述べてきたことを、慶喜も聞き知っている。


「それは、備中守殿にしか出来ぬことであろう。頼む」


「ありがたく」


 堀田は深く頭を下げた。春嶽が、膝を少し進めた。


「備中守殿」


「はっ」


「長いあいだ、ご苦労でござった」


 穏やかな声だった。


「四年お呼びのなかった某を、城へ呼んでくださったのは備中守殿でござる。あの折のことは忘れておりませぬ。……どうか、御身を大事になされよ」


 堀田は顔を上げなかった。


「……勿体のうござる」


 声が、少し揺れた。慶喜は何も言わず、堀田が顔を上げるのを待っていた。顔が上がると、短く頷いた。


「下がって、休まれよ」


「はっ」


 堀田は膝で下がり、敷居の外で一礼した。障子が閉まった。廊下を戻る足取りは、来たときより遅かった。


 下乗の前には、平野が朝と同じ場所に立っていた。門から出てくる堀田の姿を見ると、駆け寄りかけて途中で足を緩め、いつもの歩幅で近づいてきた。


「殿」


「済んだ」


 それだけ言って、堀田は乗物に乗り込んだ。


 上意は、まだ下りていない。御用部屋の首座の座は、この日もまだ堀田のものだった。


八

 その夜、一橋上屋敷の奥御殿には灯が二つ入っていた。


 糸子が横浜から戻って、二日になる。増徳院での会見の翌日に駕籠で江戸へ戻り、留守のあいだに溜まった語学所と会所の書付を片づけてきた。それもあらかた済んで、今日の昼過ぎには文机の上が空いた。


 英国の件は、ひとまず片がついた。あとはニールが本国へ書き、本国が返事を寄越すのを待つだけである。


 糸子は文机の脇の文箱を引き寄せて蓋を取り、底のほうから、濃い紫の袱紗の包みを取り出した。


 如月の末に壬生の手から受け取って、二十日あまり、ここに寝かせてあった。英国の件を先に片づけると決めたのは、自分である。包みを膝の脇に置く。封は、受け取ったときのままだった。


 正月に父へ書き送った、御公儀へ伝える順を、頭のなかで辿る。まず内定を伝える。次に、英国との談判の件を持ち出す。最後に、取り立ての話をする。その一つ目の内定を伝えるのが、この宸翰である。


 如月の末に届いた父の返書には、要るものがすべて書いてあった。御門の内々の御言葉は文案のとおり一字も違えずに記され、英国の品の受け手を天朝とすることにもお許しが出ていた。家々のことは父が引き受けるという。最後に御門の仰せが一行、くれぐれも慎重に動け、と添えてあった。壬生の口からも、同じ言葉を聞いている。


「葵」


「はい」


 障子の外で、すぐに返事があった。


「水無瀬殿を、お呼びしてくださいまし」


「はい」


「水無瀬殿がお見えになったら、しばらく人を近づけないで。葵も、廊下の先で控えてくださいまし」


 障子の向こうで、葵が一拍置いた。


「……承知いたしました」


 足音が遠ざかっていった。


 江戸でこの件を知っているのは、いまも糸子一人である。父への書状にそう書いたとき、葵の名のところで一度筆が止まった。その葵にも、今は話さない。父への書状には、宸翰は水無瀬実光に持たせると書いてある。話すのは、この包みを城へ運ぶその人だけだった。


 やがて、廊下に二人ぶんの足音がした。


九

 奥御殿へ呼ばれること自体は、珍しくない。有職の照会があれば、水無瀬実光は日に一度は奥へ上がる。夜になってから、それも葵殿が自ら離れまで迎えに来たのは、この数年で初めてだった。


 葵殿は座敷の手前で膝をついて障子を開け、実光が入ると外から閉めた。足音が、廊下のずっと先まで遠ざかっていく。


 姫様は文机を背にして坐っておられた。膝の脇に、濃い紫の袱紗の包みがある。実光はそれに一度だけ目をやって、姫様の前に坐った。


「夜分に、お呼び立てして相済みませぬ」


「いえ」


「横浜へ参っておりますあいだ、留守を守っていただきました」


「わたくしは、何もいたしておりませぬ」


 姫様は少しだけ笑われ、すぐに笑みを収められた。


「水無瀬殿。今夜はお願いがあってお呼びいたしました。その前に、お話ししておかねばならぬことがございます」


「伺います」


 姫様は、膝の上で手を重ねられた。


「去年の皐月、沖田殿が京から父上の書状を持ち帰ってくれました」


 その書状のことは、実光も覚えている。山南殿から託され、沖田殿が東海道を歩いて持ち帰ったもので、式目の清書もそのなかにあった。実光はその清書を受け取り、関白様の御決裁を経た正式な式目という体裁を整えて、麻布の勅使宿舎へ届けたのだった。


「その書状のなかに、御門の内々の御意がございました」


 いつもの照会に答えるときと変わらない声だった。


「儲君、祐宮様の后に、と」


 実光は、すぐには何も言えなかった。


 儲君の后。


 有職の家に生まれ、入内の儀の次第は幼いころから幾度も書き写してきた。女御の宣下も、入内の日取りも、行列の順も、前例を引いて組むものである。その前例の、まだ書かれていない次の一行に、いま目の前に坐っている姫様の名が入る。


「……姫様が」


 思ったより低い声が出た。


「お受けいたしました。この正月に、父上を通じて御門へお返事を差し上げておりまする」


 実光は両手を畳についた。何か申し上げようとして、言葉が出てこない。姫様は、それを待っておられた。


 去年の葉月、一橋殿と姫様が半日向かい合った座敷の隅で、実光は、聞いてはならぬものを聞いているという気がしていた。あのとき姫様は、中身を別の器へ移すという話をなさった。そういうことをしてはならぬというところから、有職の学問は始まっている。


 その姫様が、いま、御所のいちばん奥の器に坐ると仰せになっている。


「水無瀬殿」


「……はっ」


「このことは、披露のときまで、決して他言なさいませぬよう」


 実光は顔を上げた。


「披露は、儲君が御位に即かれるときとなります。それまでは、どなたにも。京でこのことを知るのは、御門と父上のほか、ごく限られた方々だけ。江戸では、わたくしと、今夜からは水無瀬殿だけでございます」


 挙げられた名のなかに、侍女の名がなかった。


「侍女の二人にも、でございますか」


「はい。誰にも、申しておりませぬ」


 実光は、もう一度頭を下げた。


「承知仕りました。この実光、決して」


 姫様は小さく頷かれ、膝の脇の袱紗の包みに手を置かれた。


「お願いというのは、これでございます」


 包みが両手で持ち上げられ、二人のあいだの畳の上へ置かれた。


「御門の御宸翰(しんかん)でございます」


 濃い紫の袱紗の合わせ目から、白い紙の端がわずかに覗いている。その端に、封がしてあった。


「御宛所は、将軍後見職、政事総裁職、老中首座の御三方。水無瀬殿には、御門の御使いとして、これを御三方へお届けいただきたいのです」


 実光は、袱紗から目を上げられなかった。宸翰を、幕府の要の三人へ。


「……伝奏衆も、所司代も…介さず、直接に御三方へ?」


「はい」


 姫様は、それ以上の説明をなさらなかった。安政の年に関白の手を経ずに水戸へ降りた勅が何と呼ばれ、そのあとに何が起きたか。有職を学ぶ者で、知らぬ者はいない。実光も、それ以上は訊かなかった。


「御文の中身は、封のままゆえ、わたくしも拝見しておりませぬ」


 姫様は言葉を継がれた。


「ただ、父上を通じて願い上げましたのは、わたくしの后の件を御三方へお知らせいただくこと。そして御文の中には『仔細は左大臣忠房に問え』とあるはずです。御三方が念を押そうとなされば、その問いはすべて父上のもとへ参ります」


「……幕府が后となるべき姫を異人との談判の席へ引き出し、後始末をさせたなどと、父上のお耳へ入ることになれば、御公儀にもお考えいただくことが増えましょう?」


「ですから——此度の件を穏(・)便(・)に収めるためにも、御公儀には、わたくしが進めるこれからの御用に、存分に力を尽くしていただきたく存じます」


 仔細は左大臣忠房に問え。実光は、その一句を胸の内で繰り返した。


 それから、袱紗の包みに両手を伸ばした。持ち上げると軽かった。中にあるのは、御門のお筆によるものである。実光は包みを額の高さまで押し戴き、胸の前に下ろした。


「確かに、お預かりいたしました」


「お願いいたします」


「日取りは、いかがいたしましょう」


「水無瀬殿にお任せいたします。こうした作法は、わたくしよりあなたのほうがよくご存じでしょうから」


 実光は、胸の前の包みに目を落とした。


 御城へ上がれば、取次の坊主が名を聞き、右筆が筆を執る。御門の御使いの公家が、伝奏衆も所司代も通さずに登城したという一行が、城の帳面に残る。


「姫様。御城へは、上がらぬほうがよろしゅうございましょう」


「……と、申されますと」


「御宛所のお一人は、この御屋敷の主にございます。まず一橋殿にお目通りを願い、残るお二方を、こちらへお招きいただきとう存じます」


 姫様は、しばらく実光の顔を見ておられた。それから、少しだけ笑われた。


「灯台下暗し、でございますね」


「はっ」


「一橋殿へは、何と」


「有職の照会につき、と申し上げまする」


 去年の葉月、一橋殿とのお目通りを整えたときと同じ名目である。照会は、いまも実光の役目のうちにあった。


「お二方をお招きになる名目は、一橋殿にお任せいたしまする。座は表の書院にて、書役は置かず、封は御三方がお揃いの座で切っていただく。それだけは、手前から願い出ておきまする」


「はい。それでお願いいたします」


「明日にも、平岡殿を通じて、一橋殿へお目通りを願い出まする」


「はい」


 姫様の肩から、少し力が抜けたように見えた。


「水無瀬殿」


「はっ」


「よろしゅうお頼み申し上げます」


 実光は包みを胸に抱いたまま、深く頭を下げた。


十

 離れへ戻ると、実光は灯を一つだけ入れた。文机の上を片づけ、袱紗の包みを真ん中に置いて、しばらくその前に坐っていた。


 去年の葉月の末、一橋殿と姫様が半日向かい合った座敷から戻った夜、実光はこの文机で一行だけを書いた。公議式目の作法につき、有職の照会これあり。滞りなく相済み候。嘘は一つもなく、それ以上のことも何も書かなかった。


 あの一行は翌日麻布へ届け、誰かが綴じて蔵へ納めたはずである。十年経てば、誰も開かない。


 今夜は、筆を執らなかった。硯の蓋も開けなかった。


 明日の朝には、平岡殿へ取り次ぎを頼まねばならない。口上は、有職の照会につきお目通りを願いたい、の一つだけである。去年の葉月と同じ口上で、嘘は一つもない。


 夜が更けていく。障子の外で、庭の桜の枝がときおり鳴った。


 実光は包みを文箱に納めて蓋をし、灯を吹き消した。


 第二百三十五話 了

最後まで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m


面白いと思ってくださった方は、下のブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると、執筆の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。