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幕末に転生したら近衛家の姫でした。まず屋根を直します【累計350万PV/80万UU突破‼ 幕末経済戦記】  作者: 1009


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第百五十九話「京洛布陣編―初太刀」

一

 卯月八日の宵は季節を一つ飛び越えたような生ぬるさで、濠川の面を撫でてきた風が伏見の町の低いところに溜まり、日中に温んだ水の匂いをそのまま抱えたまま動かなくなっていた。土手の草は根元まで湿っていて、踏めば足の裏へ水が滲み上がってくるほどであり、その湿りの底から蛙の声が絶え間なく湧いていた。


 一匹や二匹ではなく、数えようという気の起こらぬほどの数が、川筋のあちこちで代わる代わる鳴き交わしており、夜そのものが喉を持って鳴いているようだと、この町の者たちは春から夏へ移るこの時期をそう言い慣わしていた。


 南浜の通りには灯が乏しく、船宿の軒行灯が二つ三つ、油の焦げる細い匂いを曳きながら灯っているだけである。船着場に繋がれた三十石船は艫を並べて眠り、綱の擦れる音がときおり水音に混じった。昼のうちは大坂から上ってきた客と荷とで身動きの取れぬほど賑わうこの浜も、日が落ちて二刻も経てば人の影は絶え、犬の一匹も歩いていない。


 寺田屋の二階にだけ、灯りがあった。


 障子越しに人影がいくつも動き、押し殺した声が上下している。表からは何を話しているのかまでは聞き取れないが、話が途切れないこと、そして時折その声の塊が一つにまとまって低く唸ることだけは、通りに立てば誰にでも判った。唸りのあとには必ず短い沈黙が来て、その沈黙を破るのはいつも同じ声である。落ち着いた、よく通る急がない声だった。


 その通りの、灯の届かぬ角に、山南敬助は立っていた。


 髷も着物も、この町の商家の番頭と変わらぬ拵えである。近衛柿色のだんだら羽織は、この夜、誰一人として着ていない。伏見は所司代の膝元であり、朝廷の武力がここで刃を振るったという形を残すわけにはいかなかった。それは第一義には政の都合であって、山南はその理由を前夜のうちに隊士たちへ説いてある。


 もう一つの意味のほうは、説いていなかった。


 羽織を着ないということは、暗がりで倒れている者が味方か敵か、屈み込んで顔を確かめるまで判らないということでもある。彼はそれを、口に出す必要のないことだと考えていた。口に出せば隊士は倒れた者を確かめに行きたがるし、確かめに行けば持ち場が空く。空いた持ち場から線は破れる。だから言わなかった。


 前の晩、伏見の借宿の板間に三十三名を集めて割り振りを渡したとき、山南は同じ図面を三度組み替えた。表口を厚くすれば裏が薄くなり、裏を厚くすれば水路が空く。屋根と船着場と街道の口は、どう組み替えても一人か二人しか置けなかった。三度目に紙を置いて、彼は自分の引いた線がそれ以上よくならないことを認めた。三十三という数を最も効率よく配れば、必ずこの形になる。効率がよいということは、どこにも余りがないということでもあったが、その晩の彼はそれを欠点として数えなかった。


 隊士は音を立てずに散っていった。


 滝助三郎は振り売りの担いを橋の袂へ置き、街道の口へ回って草履の紐を結び直す形でしゃがみ込んだ。この男は五年ものあいだ京と伏見のあいだを野菜と塩魚を担いで歩いており、街道のどの辻に誰が住んでいて夜のどの刻限にどの戸が開くかを、帳面を持たずに諳んじている。


 三好辰次は酒屋の小僧の身なりのまま南浜通の角へ立ち、町方の見廻りが提灯を振りながら遠ざかっていくのを、欠伸をこらえる子供の顔で見送っていた。彼の役目は斬ることではなく、見廻りがこの筋へ戻ってくるまでにどれだけの間があるかを数えることである。前の晩は四半刻ごとに通った。今夜は少し遅い。


 山本権七は隣家の屋根へ猫のように上がり、瓦を一枚も鳴らさずに寺田屋の庇へ渡って、二階裏手の窓が見下ろせる位置に腹這いになった。大工道具屋に化けて三日通い、この庇の勾配と瓦の緩んでいる箇所と、踏めば必ず鳴く一枚がどこにあるかまで、彼は覚えている。


 田中健蔵は船頭の形で舟に乗り込み、艫綱に手を掛けたまま身じろぎもしない。京組では最も口数の少ない男で、割り振りを聞いたときも「へえ」と一言だけ返した。


 山田幸助は裏口の暗がりに背を預け、腰の物の鯉口だけを静かに切って、あとは水路の匂いを嗅ぐようにして待った。


 権藤凱山は橋の袂に立ったまま、遊軍としてどこへでも走れるように足を休めている。予備の五名は町屋を一軒借り上げて、明かりを落とした部屋に膝を崩して座っていた。彼らは今夜、使われないはずであった。


 山南は、集まった者たちに前夜と同じ一行だけを繰り返した。


「持ち場を離れるな。離れねばならぬときは、離れる前に報せよ」


 それは生きて帰ることを前提にした指示であり、この場の誰もそれを疑わなかった。三十三名という数は、権七の測った間取りと山南の引いた線の上で、過不足なく建物を包んでいるはずだった。


 前の晩、割り振りの紙を回されたとき、鈴木源次が一つだけ問うている。

「二階に三十人からいるという話でしたら、こちらが表と裏に分かれてしもうたら、数の上では負けるのではありませんか?」と。


 若い者らしい真っ直ぐな問いに、山南は柔らかく笑って答えた。


「一度に斬り合える人数というのは、場所が決めるものです。あの階段は幅が人ひとり分しかありませんし、通り庭も三人並べば埋まります。向こうが三十人おろうと、こちらに向けられるのはいつも一人か二人でしかありません」


 その答えは正しく、事実この夜、二階の三十人が一斉に降りてくることは一度もなかった。ただ山南の計算には、こちらへ向けられる一人が、こちらの三人分の重さを持って降りてくるという項が入っていない。入れるべき項があることを、彼はまだ知らなかった。


 佐藤勘兵衛が荷を担いで表口をくぐったのは、その少し前である。


 小柄で、髷にはとうに白いものが混じり、腰には刀よりも算盤のほうが似合う男だった。旭狼衛の諸士調役として、彼は人を斬るためではなく人を数えるために雇われている。隊士の給金、京の宿の払い、刀の研ぎ代、死んだ者の家へ送る金の額――そういうものを合わせるのが彼の仕事であり、二十年前に大坂の商家で帳付けをしていた頃から、彼のやり方は一つも変わっていない。数の合わない帳面を、この男は生理として許せなかった。


 荷の中身は醤油の樽であり、伝票も本物である。伏見の醤油屋の名を借りるために、彼は三日かけて話をつけてあった。


 帳場に女将のお登勢がいた。三十を少し越えた、目の大きな、声の張った女である。


「町年寄さんのお使いが、さっき表を探しておいででしたえ」


 勘兵衛は樽を下ろしながら、世間話の続きのようにそう言った。嘘ではあったが、嘘の作りは丁寧だった。町年寄の名も、その用向きも、この十日で調べ上げてある。お登勢は眉を寄せ、二階を一度見上げ、それから前掛けを解いた。


「あの人らのことどすやろか」


「わたしにはわかりまへんけど、こんな刻限にお呼びやいうのは、急ぎの話やないでしょうか」


「そうどすなあ。……ほな、ちょっと行てきますわ。あんた、あとで番頭はんに樽の数、ちゃんと言うといておくれやす」


 言いながら、お登勢は帳場を出ていく足を一度だけ止めて、天井を見上げた。二階からは相変わらず声の塊が降りてきていて、床板の隙間から灯りが細く漏れている。


「……あの人ら、もう五日も泊まってはるんどす。うちは船宿どすさかい、お客に何をしはるんかは訊きまへんけど」


 その言い方に含まれていたのは咎めではなく、諦めに近いものだった。伏見の船宿の女将というのは、大坂と京のあいだを行き来する人間の言い分をいちいち量っていては商いにならない。勘兵衛は帳面を閉じるように会釈を返し、余計なことは一言も言わなかった。


 女は下駄をつっかけて出ていった。表の戸が閉まる音を、勘兵衛は背中で聞いて、一人、と胸のうちで置いた。


 板場の二人には、蔵の樽を検めてほしいと頼んだ。醤油屋の手代が数を間違えたので照合したいという理屈は、彼らの職分にぴたりと嵌る。二人は面倒くさそうな顔をしたものの、勘兵衛が明朝の膳の話を持ち出して今のうちのほうが楽でしょうと言い添えると、渋々ながら提灯を提げて裏から出ていった。


 三人。


 女中三人には、井戸端の片づけを頼んだ。明朝の分の桶が足りないと言えばこの宿の女中は素直に動くもので、三人は口を尖らせながらも笑っており、裏木戸を抜けていくときには誰かの噂話をしていた。


 六人。


 最後に、小僧である。まだ十二か三の、鼻の頭に汗をかいた子供だった。明朝の魚の手配で川端まで走ってくれと言い、駄賃に小銭を握らせると、その子は嬉しそうに顔を上げてから駆けていった。


「おおきに、おっちゃん」


 七人。全部出た。


 勘兵衛は指を折って確かめた。女中三人、板場二人、小僧一人、女将一人。合わせて七人で、この宿にいた奉公人の数と一致する。彼は帳面に印をつけるようにそれを心の中で読み上げ、それから、自分がまだここに立っていることに気づいた。


 二階から足音が降りてきていた。


 階段は土間の中ほどに一本きりで、幅は人ひとり分しかない。その下り口の前に二人分の影が立ち止まって何かを話し込んでおり、土間を横切って表へ抜ける道も裏へ抜ける道も、その影に塞がれていた。勘兵衛は樽の陰へ身を寄せると、漬物部屋の暗がりへ半歩だけ退いて、大黒柱の影に背を張りつけた。土間の土は昼のあいだも日の入らぬ場所で、素足に触れれば冬のように冷たい。


 急がなかったのが、彼の仕事の仕方だった。急がず、疑われず、一人ずつ出す。その丁寧さの分だけ、彼自身の出る間が失われていた。


 そのとき、蛙が鳴き止んだ。


 川筋のあちこちで鳴いていたものが、示し合わせたわけでもないのに順に喉を閉じていき、あとには水の流れる音だけが残った。その音は先ほどまで蛙に埋もれていたのだと、そこで初めて知れた。


 山南は角の暗がりで顔を上げ、右手をゆっくりと下ろした。


 その手の動きを、表通りの軒下に伏せていた者たちが見ていた。轟鉄之助が息を吐いて大身の刀を鞘ごと抱え直し、朽木弦一郎が親指の腹で鯉口を押し、浅黄隼人が左右へ目を配って三人ずつの並びを確かめる。誰も声を出さなかったが、七人ぶんの呼吸がそこで一度だけ揃った。蛙の鳴かなくなった夜は思いのほか静かで、自分の心の臓の音が耳の裏で鳴っているのを、鈴木源次は生まれて初めて聞いた。


二

 表と裏を同時に破る。それが唯一の形だった。


 寺田屋は表口から裏口まで土間が一本で貫通しており、この通り庭を片側からだけ押しても、押した端から反対側へ人が抜けていく。権七の測った間取りが教えていたのはそれで、山南の線はその一点から引かれていた。


 江戸組と鈴木源次が表から入り、山田幸助が裏を塞ぐ。


 最初の三十を数えるあいだ、それは計算どおりに進んだ。


 表の戸は、内側から心張り棒が掛かっていなかった。宿である以上、遅い客が来ることを見越して戸を落としきらないのが伏見の船宿の習いで、権七の報せにはその一行も書かれている。壬生影明が戸の隙間へ指を差し入れて音もなく引き、江戸組が土間へ滑り込んだ。


 帳場に残っていた二人は、刀に手をかける前に押さえられた。鳴海次郎が小太刀の峰で肘を落とし、もう一人は源次が背後から羽交い締めにして口を塞いだまま土間に引き倒している。若い源次の腕は震えていたが、手順は前夜のうちに何度も繰り返してあり、頭より先に体が動いた。


 店の間で横になっていた三人は、起き上がろうとした中途で崩れた。壬生影明が畳を鳴らさずに入り、三人の首筋へ順に手を伸ばしただけである。声は上がらなかった。壬生の仕事はいつも音がしない。


 浅黄隼人が低く声を出した。


「扇に開け。階段口へ線を作る。鴨居の下から出るな」


 その声に、江戸組は澱みなく動いた。店の間から奥の間へ、鴨居の下をくぐる形で扇が開き、階段の下り口へ向かう一本の線が引かれていく。天井の低い座敷を選んで進めということは、前夜のうちに繰り返し叩き込まれていた。


 沖田総司が階段口へ着き、斎藤一がその二歩後ろへついた。鷲尾勘兵衛は野太刀を肩に担いだまま奥の間の入口を塞ぎ、朽木弦一郎は表口の内側で腰を落として、鯉口に親指を掛けたまま動かずにいる。


 裏では幸助が戸を蹴り開け、土間の奥へ向かって声を張った。裏口を押さえたと表へ知らせるための、決めておいた叫びである。


 声を出したあと、幸助はもう一度だけ水路のほうを振り返った。水の匂いが濃く、蛙が鳴いていないのが妙に気になった。今夜が済んだら祇園のあの女に何と言い訳をするか、そんなことを彼は考えていて、それから自分の間抜けさに一人で笑った。裏口の暗がりで一人きり、笑ったところで誰も見ていない。


 その声は土間を抜けて表まで届き、浅黄が「よし」と短く応じた。


 うまくいっている、と源次は思った。十九のこの若者は江戸組の案内役として表口を任されており、この夜が明ければ京へ戻って先輩たちに何を話そうかと、そんなことまで一瞬だけ考えた。轟さんの受けはやっぱり凄かった、と言うつもりだった。


 二階では、まだ誰も騒いでいなかった。床板越しに聞こえていた声の塊は、突入からしばらくのあいだ調子を変えず、途切れず、同じ間合いで上下し続けている。押さえた者の口を塞ぎ、灯りを増やさず、悲鳴を一つも上げさせずにここまで来たのは旭狼衛の手際が良かったからだが、良すぎたために、上の者たちは階下で何が始まったかを正しく把握する機会を持たなかった。把握しないまま、彼らは一人を降ろした。確かめに行かせたのである。


 降ろされた男が誰であるかを、この時点で下にいる者は誰も知らない。


 そして、二階から一人が降りてきた。


三

 降りてきた男は、階段の中ほどで足を止めた。


 行灯の光は帳場と表口に一つずつしかなく、土間には届かない。だから見えたのは白い顔と、それより上に立った細い影だけである。男は刀を右耳の横へ垂直に立て、左手を顔の前へ突き出していた。


 その構えを取るには、頭上に刀身一本分の空間が要る。座敷なら鴨居が邪魔をして取れず、土間だけが、この建物で唯一の吹き抜けであった。


 轟鉄之助が前へ出た。


 大身の刀を横に構え、腰を落として、受ける形を作る。それが彼の役目であり、彼はこの三年、その一点だけで生きてきた男である。受け止め、味方が懐へ入る間を作る。江戸支部でその役を担える者は、彼のほかにいなかった。


 猿叫が上がった。


 人の声ではなかった。獣が喉を裂いて鳴くような短く高い叫びが、天井のない土間の上へ真っ直ぐに昇っていき、それを聞いた者は誰もが一瞬だけ足の裏の感覚を失った。


 鉄と鉄がぶつかった音は、鳴らなかった。


 轟の刀は鎬から折れ、折れた刀身が土間へ落ちて二度跳ねる乾いた音だけが響いた。轟はまだ立っていた。肩口から胸まで割られたまま二歩あるき、それから膝が抜けた。


 誰も間に合わなかった。


 源次は動けなかった。悲鳴も音も消え、自分の眼の前で起きた出来事を頭が拒絶している。ただ帳場の柱にしがみついたまま、土間に落ちた折れ刀の、二度乾いて跳ねた音の残響だけを貪るように聞いていた。朽木弦一郎はその折れ口を見た。刃が欠けたのではなく、鎬の途中から捻じ切られたように断たれている。刀が負けたのではなく、支えていた腕ごと押し潰されたのだと、彼は一瞬で理解した。


 土間の土は血を吸わない。叩き固めた地面の上を、黒いものが薄く広がって樽の裾まで届き、そこで止まらずに縁を回り込んでいく。鉄の匂いが立ち、それは血そのものの匂いというより、鍛冶場で焼けた金物を水に沈めたときのものに近かった。轟はまだ息をしていた。胸の裂け目から入った空気が喘ぎになって喉を鳴らしており、その音が止まるまで、誰も彼のそばへ行けなかった。


 朽木は自分の抜き付けの間合いを、そこで一度組み直した。相手の踏み込みは読める。踏み込む前の重心の移り方を見れば、次にどの線が降りてくるかまで判る。判ったところで、抜く距離が足りなければ意味がない。土間の幅は九尺で、彼が居合を使うために必要な距離は、そのうちの五尺だった。


 男は刀を引き戻すこともせず、その場に立って、次の一撃のために肩を沈めた。田中謙助、薬丸自顕流。この夜、寺田屋にいた者のうちで最も重い一撃を持つ男である。上士が嗜む示現流ではなく、郷士たちが立木を打ち枯らして身につけた、泥臭いほうの剣であった。


 その背後の階段を、二人目と三人目が続けて降りてきていた。上から順に、詰まることなく、間を置いて。


 鷲尾勘兵衛が奥の間の入口から野太刀を薙ぎ上げて二人目の足を止め、その足元へ壬生影明が音もなく滑り込んで足かけ鎌を引いた。膝の裏を掛けられた男は横向きに崩れたが、崩れながらも刀だけは離さず、倒れた姿勢のまま下から斬り上げてきた。壬生の袖が裂け、鎌の柄が半ばから折れる。旭狼衛の技はいずれも正確に決まっており、決まったうえで相手が止まらなかった。


 鳴海次郎が小太刀二刀で入った。受けず、流さず、退がる。それが唯一の正解であり、鳴海は間違えなかった。左足を引き、上体を沈め、刃の落ちてくる線から半歩だけ外へ抜ける。


 抜けた先に、壁があった。


 退がるための距離という考え方そのものが、この狭い土間には存在しなかった。鳴海の背が漬物樽に当たり、二の腕の外側を刃が削っていって、肉が焼けるような熱さが遅れて追いついてくる。

 浅黄隼人が叫んだ。


「受けるな。退がれ。退がって、鴨居の下まで引き込め」


 その声は正しく、江戸組はその通りに動いて、土間から座敷へ後退した。


 そして座敷の入口で、追ってきた薩摩の刀が鴨居を叩いた。


 木の裂ける鈍い音が上がり、刃が食い込んで、抜くのに一呼吸が要る。示現流にも薬丸自顕流にも、外した一撃を素早く戻すための型はない。一の太刀を疑わず、二の太刀は負けと教えられる剣である。その一呼吸で朽木弦一郎が抜き付けを一つ入れ、相手の脇腹を浅く裂いてそのまま身を沈め、足首を払って倒れたところへ鷲尾の鎌が掛かった。


 音がすれば、生きられる。音がしなければ、死ぬ。


 この夜、旭狼衛の隊士たちが数刻のうちに覚えたのは、その一つだけである。座敷にいる限り頭の上には必ず鴨居があって刃はそこへ当たって止まり、土間へ半歩出れば上には何もない。隊士たちは自分の頭の高さに木があるかどうかを、目ではなく肌で測るようになっていった。


 旭狼衛が弱かったのではない。技量は互角以上であり、判断も的確で、隊としての練度は相手をはるかに上回っていた。違うのはただ一つ、相手は死にに来ており、こちらは仕事で来ていることだった。捨身の初太刀と、役目の初太刀。そのあいだに生じるほんの半拍の差が、鉄の塊を叩きつける相手にとって致命的な間隙となっていた。


 三人も斬れば刃は骨に食い込んで欠け、脂で滑って肉を裂かなくなる。それでも彼らは刀を替えず、斬れなくなった刀をそのまま鈍器として振り下ろした。頭蓋の割れる音は、刃で斬るときの音とは違う。


 轟鉄之助が、この夜の最初の一人になった。


四

 沖田総司は、階段の下にいた。


 幅は人ひとり分で、二階から降りてくる者は必ず一列になる。彼はその下り口の正面に立ち、平晴眼に構えたまま動かなかった。刀はやや右へ開き、刃を斜め下へ向けている。天然理心流の、あの低く沈んだ構えである。


 頭の上には鴨居があった。横に振れば刃が木を叩き、そこで剣は死ぬ。だから使える技は突きだけであり、沖田はそれを一度ずつ、正確に使った。


 降りてきた者が最後の一段を踏む、その足が板に触れる前に、沖田の右足が土間を叩いた。踏み込みの音は一度しか鳴らない。切先は喉の中心に入り、抜けた。突かれた男は突かれたことに気づかぬまま階段の途中で膝を折り、そのまま俯せに滑り落ちてきて、下の段に引っかかって止まった。


 止まった死体が、次に降りてくる者の足を鈍らせる。沖田はそれを退けなかった。


 二人目が来て、三人目が来て、同じことが同じように起きた。三人目は途中で気づいて刀を投げ出し、素手で飛びかかろうとしたが、階段の幅がそれを許さなかった。血は段板を伝って一段ずつ下りてきており、四段目まで来たところで沖田の草履の先に触れた。この場所で沖田総司は確実に止めており、その事実だけを見れば、旭狼衛はこの一点において完璧に勝っていた。


 斎藤一は二歩後ろに立ったまま、降りてくる者の足音の間隔を数えていた。一人が落ちてから次が降りるまでの間が、はじめの三人はほぼ等しく、四人目からわずかに縮んでいる。上で誰かが順番を組み直しているのだと、彼はそれだけを読み取った。


「総司」


「はい」


「詰まってきてる」


「詰まってくれたほうが、こちらは楽ですよ」


 沖田は前を向いたまま、声だけで応じた。その返答に嘘はなく、事実この階段は詰まるほど彼に有利になる。詰まらせているのが向こうの意思であることを、二人ともまだ考えていなかった。


 四人目に降りてきたのは、子供のような顔の男だった。


 まだ髭も薄く、目だけが異様に据わっている。踏み込みが素直すぎて、どこから来るかが降りてくる前から判るほどであった。島原藩、中村主計。


 沖田は突かなかった。


 柄頭を上げて肘の外側を打ち、骨の折れる感触を確かめてから、その体を階段の上へ押し返した。若者は悲鳴を上げて上の段へ倒れ込み、誰かの手に引き上げられて見えなくなった。


 五人目は、降りる前に一度だけ立ち止まった。上から誰かが何かを言い、を聞いてから、その男は刀を鞘に納めて素手で降りてきた。狭い階段で抜き身を振り回す不毛を悟ったのだろう。素手の相手に沖田は突きを使わず、上段から降りてきた腕を柄で払って階段の手すりへ押しつけ、そのまま肩を落として関節を極めた。骨が鳴り、男は声も出せずに段の上へ崩れた。


 六人目は、五人目を踏み越えて降りてきた。踏み越える一歩は必ず不安定になるもので、沖田の切先はその不安定な一歩の終わりに合わせて入った。


 沖田はまだ微笑んでいた。それはこの男が竹刀を持つときにも真剣を持つときにも変わらず顔にあるもので、隊士たちはそれを見ると安心し、敵はそれを見ると足を止めた。


 そして、押されていた。


 階段口を押さえられるのは一人だけである。奥の間の入口を守っていた鷲尾が二人がかりで押し込まれ、そこが抜ければ座敷の扇は背後から割れる。斎藤一はそれを見て動いた。動くこと自体は正しく、彼が行かなければ扇はその場で壊れていたし、壊れれば階段口も後ろから食われていた。


 結果として、沖田は一人になった。


 一人で守れる場所は一箇所しかない。沖田の視界の端では、暗がりの中で人の形が減り続けている。誰が減ったのかは判らない。羽織を着ていないからである。倒れている影の背丈が轟に似ていると思っても、確かめに行くには階段を離れねばならず、離れれば二十人が降りてくる。


 階段の上から、声が降りてきていた。


「次じゃ。慌てんな、一人ずつ下りやんせ」


 姿は見えない。二階の暗がりの奥から、落ち着いた、よく通る声が、降りる順を指示している。薩摩の言葉であった。沖田には半分ほどしか意味が取れなかったが、意味が取れずとも、降りてくる順番が明らかに管理されていることだけは判った。無秩序に殺到してくるなら、この階段はもっと早く詰まって役に立たなくなる。統制されているからこそ、一人ずつ、間断なく降りてくる。


「慌てんな。上ん者が下りるまで、そこで待っちょれ」


 声は最後まで同じ調子を崩さなかった。苛立ってもいなければ、急いでもいない。時が経つほど有利になるのは自分たちのほうだと、その声は知っていた。


 沖田総司は、その声を、この夜じゅう聞き続けることになる。


五

 三十三名という数は、この建物を包むには足りていなかった。


 山南の計算は正しかった。権七の測った間取りに誤りはなく、隊士は命令どおりに動き、誰一人として判断を誤らなかった。それでも足りなかった。


 屋根では、山本権七が仕事をしていた。


 二階裏手の窓から庇へ這い出してくる者を、彼は一人ずつ落としていた。この庇の勾配と瓦の緩みを全部覚えている男である。降りてくる足がどこを踏むかを先に知っていれば、あとは待っていればよかった。窓の桟に手が掛かる音がして、体が半分出たところで彼は相手の肩を押す。それだけで人は落ちる。二階の高さから叩き石の上へ落ちれば、たいていの者は起き上がれない。


 二人が同時に出てきたとき、それが崩れた。


 一人を突き落とし、体を戻す途中で、もう一人の刃が背中の肉を薄く削いだ。権七は瓦の上で足を滑らせ、庇の端から地面へ落ちた。落ちた先は水路沿いの叩き石で、右の脛の骨が鈍い音を立てて折れた。


 落ちる途中で、彼は自分が何をしくじったのかを正確に理解していた。二人目が出てくることは想定していたし、二人同時に出られたときの手順も考えてあった。考えてあった手順は、庇の上にもう一人いることを前提としていた。もう一人を置く余裕が、三十三という数の中にはなかった。


 彼は死ななかった。ただ、そこから一歩も動けなくなり、この夜、二度と何も報せられなくなった。石の冷たさが背中から染みてくるあいだ、彼は決めておいた合図の石を握りしめていたが、その手を持ち上げるだけの力がもう残っていない。瓦を打てば表の三好へ届く。届けばよいと思いながら、彼は自分の指が言うことを聞かなくなっていくのを、他人の指のように眺めていた。


 裏口では、山田幸助が待っていた。


 給金のために旭狼衛に入り、京の女に貢ぎ、隊の中でいちばん要領よく生きてきた男である。持ち場を割り振られたとき、彼はいつものように笑って言った。重いところは、いっつもわしですわ、と。その言い方が可笑しくて、京組の若い者はみな笑った。


 表口の崩れから土間を抜けてきた一団は、十を超えていた。


 先頭に立っていたのは、薩摩の者ではなかった。秋月藩、海賀宮門。整った顔立ちの、背の高い男である。学問もできると評判の男で、この夜、二階の議論のなかで最も筋の通ったことを言っていたのが彼であった。


 海賀は蜻蛉に構えなかった。


 刀を低く垂らしたまま歩速を落とさずに間合いへ入り、幸助が構えた腕の外側を掴んで引き、体ごと回して裏口の柱へ叩きつけた。組み討ちと居合を併せ持つ双水執流の間合いであり、剣を捨てて掴みに来る者の呼吸である。


 この男が修めたのは薩摩の剣ではない。本間流の槍と一刀流の剣を併せ、そこへ双水執流の組討を重ねた者であって、間合いの作り方そのものが薩摩とは別の理屈で組まれている。上から叩き潰すのではなく、相手の構えた腕を釣り出して、崩れたところを地面へ運ぶ。夜の暗さも、幅の狭さも、この剣にとってはむしろ味方であった。


 幸助は薩摩の初太刀に備えていた。上から来るものを待って、退がる余地を計算し、退がれる歩数まで数えていた。上から来なかった。


 柱に叩きつけられた背中から息が抜け、抜けたところへ、後ろから続いた薩摩の者たちの切先が入った。一つではなかった。裏口の土は水路の湿りを吸って柔らかく、幸助はその上に膝から落ちた。倒れながら彼が見たのは、走り抜けていく者たちの草履の裏と、その向こうで揺れている水面だけである。


 彼は持ち場を離れなかった。離れるときは報せよという命令を、報せる暇もないまま守ったことになる。


 その一団の後ろから、町人の身なりをした男が一人、誰にも見咎められずに水路沿いへ抜けていった。近江の郷士で、京では古道具を商っている男である。彼はこの夜、一度も刀を抜かなかった。


 船着場では、田中健蔵が舟にいた。


 裏口から水際までは五間しかなく、抜けてきた一団はまっすぐに舟へ向かってくる。二艘の三十石船に十数人が乗れば、川筋を下って大坂まで抜けられた。それを断つのが健蔵の役目である。


 健蔵は斬り合わなかった。


 彼がやったのは、艫綱を切ることだった。一艘目の綱を落として船底の栓を抜き、二艘目へ移ってそれを繰り返す。川の水が舟腹へ吸い込まれていく音が、闇の中で妙に長く続いた。舟が傾き、艫から沈みはじめ、繋いであった杭が軋んで折れる。二艘とも沈めきってから、彼は初めて刀を抜いた。


 船着場の石は苔で滑る。それは権七の報せにも書かれていた通りで、健蔵はそれを承知していたが、承知していることと足が滑らないこととは別である。三人を相手に半歩下がった足が石の縁を外れ、彼は水へ落ちた。


 水の中で斬られた者は、声を上げない。冷たさが先に来て、痛みは遅れて追いつき、追いついたときには喉から声を出すための息がもう残っていなかった。血は流れて薄まり、川面には何も残らない。


 この三人は、いずれも一人で持ち場にいた。山南の線は、その三箇所に一人ずつしか置けなかった。三十三という数を最も効率よく配れば、必ずそうなる。


六

 土間の隅、漬物部屋の陰に、佐藤勘兵衛はいた。


 算盤を持った小柄な初老の男に、剣の腕を期待する者はいない。彼自身がいちばんよく知っていた。腰の物は差してあるが、これは身分を示すための飾りに近く、抜いたのは二十年前に一度きりである。だから彼は誰とも斬り合わず、樽と樽の隙間に体を折り畳んで、ただ息をひそめていた。


 土間の中央では人が死に続けていた。


 刃が鴨居を叩く音は、ここまでは届かない。この場所の上には鴨居がなく、天井もなく、二階の梁までまっすぐに吹き抜けている。勘兵衛はその高さを、この十日でとうに測ってあった。測ったのは寸法を知りたかったからではなく、寸法を書き込まねば図面が完成しないからである。


 彼は数えていた。


 女中三人、板場二人、小僧一人、女将一人。七人。全部出た。


 樽の間で膝を抱えながら、彼はもう一度それを確かめようとした。数えることが彼の仕事であり、彼の生き方であり、恐怖に対して彼が持っている唯一の作法だった。数が合っていればこの夜の彼の役目は果たされている。斬るのは若い者の仕事で、彼の仕事はこれで終わりのはずだった。


 明日になれば、また別の数を合わせなければならない。京へ戻って宿の払いを済ませ、研ぎ代を勘定し、それから――そこまで考えて、彼は数えたくない数が一つ増えることに思い至った。今夜、隊士のうち何人が帰るか。その数を書き入れるのも、結局は自分の仕事である。


 旭狼衛に入って三年のあいだに、彼はその欄へ十七の名を書いた。名の横には出身と、年と、身寄りの有無と、送るべき金の額を書き込む。身寄りのない者の欄には線を引くだけで済むのだが、その線を引く手が、いつまで経っても慣れなかった。若い者が斬られたと聞くたび、算盤より先に指が震えるので、彼は震えが止まるまで帳面を開かないことにしている。


 そういう男が、この夜、宿の中でただ一人、刀を抜かずに座っていた。


 あの小僧の顔が浮かんだ。おおきに、おっちゃん、と言った子供である。あの子が今ごろ川端で魚屋の戸を叩いているなら、それでいい。


 女中三人。板場二人。小僧――


 真上から降ってきた。


 樽の陰から半身が出ていたのを、通りかかった者が見咎めただけである。吹き抜けの土間に鴨居はなく、刃は何にも遮られずに落ちてきて、肩口から胸まで入った。


 勘兵衛は最後の一人を数え終えなかった。


 抱えていた算盤が土間に落ち、珠が二つ三つ鳴って、それきり静かになった。


 この夜、旭狼衛で数を数えていた人間は、これでいなくなった。


七

 山南敬助は、南浜通の角に立ったまま、暗がりを見ていた。


 表口からは人が出入りしている。誰が出て誰が入ったのか、羽織のない夜に判別する術はない。土間の奥で人が倒れる音がして、そのあとに続く足音が味方のものか敵のものか、彼は聞き分けようとして、聞き分けられなかった。


 三好辰次が角を走ってきて、耳元へ短く報せた。町方の見廻りは南へ折れてこの筋へは当分戻らず、街道の口は滝助三郎が押さえていて、そこから逃げた者はいない。


「屋根と、船着場と、裏口は」


「……返事が、ありまへん」


 山南は二階を見上げた。灯りは消えておらず、人影の数も減っていない。降りてくる勢いは、突入から一刻近く経ったいまも衰えていなかった。


 彼は退き際を計算しはじめた。


 撤退には順序がある。近い者から引けば遠い者が孤立するので、遠い者から順に捨てていくことになる。最も遠いのは屋根の権七で、次が船着場の健蔵、その次が裏口の幸助である。この三つを切り離せば、残りは表口へ収束させられる。収束させたうえで通り庭を放棄し、階段口の沖田を最後に引き抜く。予備の五名を表通りへ出して受け皿を作り、凱山を裏へ回して追撃を一度だけ止めさせれば、退くこと自体はできる。


 予備の五名を、いつ出すか。


 それが最後に残る判断であった。出せば表通りの厚みは増すが、退いたあとに追撃を受け止める者がいなくなる。出さなければ受け皿は残るものの、表口が持たない。山南は借宿の板間で三度紙を組み替えた晩と同じように、頭の中で線を引き直しはじめた。予備を半分だけ出し、凱山を裏へ回し、屋根の権七に瓦を打たせて合図の起点を作れば、順序は成立する。


 そこまで組み立てて、山南は手を止めた。


 その三つは、すでに返事をしていない。


 合図の笛も、決めておいた石の音も、いずれの持ち場からも上がってこなかった。屋根から人が落ちる音はした。船着場では舟の沈む音がした。裏口では、あるときを境に何も聞こえなくなった。捨てるべき者を捨てる算段を立てようとして、捨てるべき者がもう捨てられていることに、彼は算術として気づいた。


 誰かの死を目にしたのではない。数が合わないと知っただけである。


 山南敬助の顔から、笑みが消えた。


 この男が微笑まなかったのを見た者は、旭狼衛の中にほとんどいない。あの日から、どのような場でも彼の口許はやわらかく緩んでいて、それは労わりでもあり、隊士を安心させるための道具でもあった。それが、この夜、はじめて平らになった。


 同じ瞬間、土間の入口で、浅黄隼人が斃れた。


 彼はその直前まで指示を出し続けていた。奥の間を捨てて店の間まで下がれ、鴨居の下から出るな、扇を狭めろ。それらはいずれも正しく、彼の声がある限り江戸組は形を保っていた。形を保つためには中央に人が要る。


 浅黄は北辰一刀流である。中心線を制することを剣の根本に置く流派であり、彼はその教えの通りに、崩れかけた線の中央へ入って中心を取った。相手の刀の軌道を巻き落とすために、正面へ立った。玄武館で千葉の教えを受けた者にとって、それは考えるまでもない身体の動きである。


 中心を取るとは、初太刀の正面に立つということであった。


 声も上がらず、劇的でもなく、初太刀が入って、それで終わった。彼が倒れたのは座敷と土間の境目で、鴨居の外側へ半歩だけ出た場所である。あと半歩内側にいれば、刃は鴨居を叩いていた。


 浅黄が倒れたあと、江戸組の声は途切れた。誰かが代わりに指示を出そうとして、二度、途中で言葉に詰まった。扇の形はそこから緩みはじめ、店の間へ押し込まれた者たちは、押し込まれたことにすら気づかぬまま壁を背にしていた。この夜、旭狼衛が最後まで保っていたものは隊としての形であって、その形を作っていたのは浅黄隼人の声だった。


 沖田総司の視界の中で、それは起きた。


 彼は階段の下にいた。離れれば二十人が降りてくる。だから離れなかった。彼は正しい場所にいて、正しいことをしていて、そのあいだ一人も上へ通さなかった。その視界の端で、隊の形を保っていた男が斃れた。


 階段の上から、次を呼ぶ声が降りてきた。


 沖田総司の顔から、いつもそこにあったはずのものが、静かに落ちた。それを見た者は、この夜、一人しかいなかった。


 第百五十九話 了

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