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5.旧友

バイトも無い日曜日の朝、銀座に新しいビルが建ち日本初出店のスウィーツの店が入ってたのは知っていたが暫く行けてなかったので行ってみようと急に思い立った、そこはチョコレートを主に扱う店なので興味をそそられたのだイートインスペースも有るようだし、きっとそちらで何か限定メニューなど食べられたなら最初は特に気合いが入っているだろうしきっととても美味しい筈だ。

多分混雑しているかもしれないけど待てば何とかなるだろう、食べ物に関しては昔からかなりうるさくチーズも好きだが特にチョコレートはもの心ついた頃からなぜか大好きでそれは決してロウの様な固い物ではなくて生意気にも生チョコだったりするので新しい店は必ずチェックしないではいられない、池袋や新宿のフルーツパーラーなどにも幾度となく足を運んだりしている。

今のバイト先に勤める前は評判の良いパン屋さんで二年弱位有名なシェフのブティックで一年程バイトをした、その賄いが大きな魅力でもあったのだ。店に着いてイートインスペースに入る為並んでいると五人位前に懐かしい人に良く似た横顔が見えた、他人の空似だろうか?声を掛けようか止めた方が良いかなどと躊躇していると此方の視線に気がついたのか、あちらもハッとした表情になって笑顔で駆け寄ってきた。

「やっぱりユッピーだったんだ本当に?」

結希は信じられない気持ちで半信半疑で尋ねた、最後に見た時からは随分ほっそりして綺麗に色っぽくなっている、まるで別人のようだった。

「ノンちゃん本当にノンちゃんなんだ、此処で出会えるなんて嘘みたい元気そうだね、それにとても垢抜けたじゃない」

あんたこそ、二人で嬉し涙を流して抱き合って喜んだ。ユッピーは高校の同級生で名前が阿部悠紀、字は違うが同じ読みなので愛称で呼びあっていた、二人共テニス部に入っていて大学に入ってからも役に立つからと体幹を鍛えるような道具を仙台港近くのスポーツショップに探しに行った、その時に二人で被災したが逃げる途中で離ればなれになってそれ以来だった。

「ユッピーあれから全然連絡取れながったから死んじゃったかと思ったじゃない。」

「おいだって、あんだがあの後何処さ行ったのがさっぱりわがんなぐなって、すっかりもう死んじまったのがわと途方にくれったんだどおいの携帯は逃げてる途中どっかで失くしたし実家も流されてだがらユウちゃんもだべ?」

そう固定電話は家も無くなったんだから繋がらなかった、石巻には阿部姓は多い同級生に五人もいたからユッピーは私をユウと呼んでいる。

「あんだおいのメールアドレスか電話番号位覚えでながったの?」

「そっぢごそ!返信ばっかりだったから覚えてなかったんだよ二人共結構な馬鹿だよね」

と言って泣き笑いの表情になった、思いがけない再会に興奮してついでっかい声でズーズー弁で喋っていたので当初はうるさいという様な表情をしていた知らないオバサンも事態が飲み込めると感動して良かったわねと言って元々ユッピーがいた処に並ぶように勧めてくれた、まだ震災の記憶は風化していないのだ周りの人達も暖かい笑顔でにこやかに心よく譲ってくれたので恐縮した。二人とも店内に入ると少し落ち着いて標準語に戻って

「就職は決まった?」

「うん普通にね、食材をイタリアとかフランスから輸入している商社に、色々とバイトしてきてやっと大学も卒業できそうユッピーは」

「わたしはまだ決まってないんだ、ちょっと出遅れてしまって」

何か浮かない表情になったのを見逃さなかった、何か事情が有りそうだ

「ユッピー狙いを絞り過ぎなんじゃないの」

と明るく言って切り上げた。母は就職や縁談の話しなんかは気軽に他人にするもんじゃ無いよとずっと言っていたが、この年齢になって始めて解ってきた。

「彼氏は出来たんでしょ」

「何で分かんのよ」

「だってユッピー少し痩せて色っぽくなったもん」

「居るには居るんだけど卒業するとアイツは地元の長野に帰るとか言ってるんだ、私は折角東京の大学に来たんだし東京で勤めてみたい、アイツとは遠距離ということになったら結局駄目になるかもしれない、地方で勤めたら給料も安いしね」

そういう事か、でも悩む相手がいるというだけでも羨ましい。

「ユウちゃんはどうなの良い人出来たんじゃない?さっぱとしたから結構モテるでしょ?」

「何言ってんの昔からあんたの方がモテたでしょうよ、女の子っぽい色気あっからか?」

ユッピーはニンマリして

「あんだはちょっと優等生に見え過ぎんのよ、特待生だしちょっと綺麗系だし男が寄って来ると何か用かって目で睨むしさ話しかけづらいんだって、でもさ東京ならそんな事に挫けない様なチャラい男いっぱいいるだろうからもう彼氏ぐらい出来たかと思った、アッでもそんなチャラいの駄目か」

結希は当たり前だという顔で

「付き合っている人はまだいないよ、ただちょっと気になる人ならいるけど」

勿論佑真の事だがまだ一度二人で飲んだだけの間柄だ

「ユウちゃん子供も好きだから意外と早く結婚しちゃったりして、もしかしたらその人と?」

と他人の顔を人差し指で指しながら言った。

「馬鹿!そんな事まだなんも始まってもいないのに何言ってんだあんだ。ユッピーこそどうなのよ?」

結希は少し動揺して顔を紅潮させながら否定した。

「私は子供なんてちょっと苦手だし結婚なんて話しもまだ全然なってない、でも避難所では確かに何も理解ってない子供の存在って救いではあったよね場が明るくなって。ところで私達が離ればなれになった原因のあのおばあさんって助かったの?」

そうか一緒に逃げていてユッピーには先に行っててと声をかけたからおばあさんを助けようとしていたのはわかっていたんだ。

「上手く高い建物の階段のところにおばあさんを押し込んだところから記憶無くてその後は辛うじて電信柱につかまって震えているところを自衛隊の人に救助され病院では軽い診察受けただけであとは石巻に移動して避難所に行ったから、あのおばあさんは多分助かったと信じてるけど病院に運ばれたのかなあ、あの後姿を見れなかった、おばあさんを押し込んだ処で私は津波に呑まれちゃったから」

「嘘?それじゃ危うく死ぬところだったんじゃん!」

「そうかも知れない何故助かったのか今でも分からない、でも運よく様々な方向からの襲った波がぶつかりあって力を抑え込まれた感じだった、津波には様々な物も一緒に流されていて巻き込まれたら殆ど助かる見込みなんて無かった筈なのに何故か幾つかの打撲を負っただけで済んだ、あの日って地震の後に雪まで降ってきたでしょ、助けられた後も停電だったから身体を暖める事も出来ないし与えられた毛布にくるまってぶるぶる震えていたけど、こんな所でじっとして寒がってるくらいなら皆が無事なのか気になって仕方ないし携帯も波に呑まれた時なくなっていたからと夜通し歩いて石巻に向かった、途中で塩釜辺りでは所々水没していて海岸線は駄目だと悟って高速を目指し山を登って高速に入ると車は全く走っていない、そのままひたすら歩いていると停電で町灯りが全て消えて月明かりの海がとても綺麗に見えた、その瞬間もただ異様に静かでゾッとするように寂しい美しさだった。嫌な予感が襲ってきて身震いした、段々ほとんどマラソンのように走り始めて暫くするとパトカーが後ろからやって来て女の子が一人でこんな暗闇を危ないだろう何処に行くつもりなのと訊かれ石巻と答えるとちょうど今そちらに向かってたんだと乗せてくれた、パトカーの警察官が無線で調べてくれたら町は壊滅状態だそうだ車も多分高台迄しか入れないという現地からの報告を聞いて私は絶望感が襲ってきた。被災者が余りに多くて母が無事かどうか何てとても調べられなかった、きっと二人は避難所にいてくれる筈だとアパートから一番近い避難所に送り届けてもらったけど二人はいなかった。次の日の夕方にやっと母が病院に運ばれたてたらしいと情報が入って、行ってみると最初は微かに意識もあって名前も言えたし私達の事を気にしてたらしいけど、運転中に津波に襲われて電信柱にシートベルトをくくり付けせっかく車のまま沖に流されずに済んだのに窓も開かなくて侵入してた水に長く漬かったせいで低体温症になって命をとられたらしい」

自分の変化に驚いていた、いくら相手がユッピーでも母の死の経緯を詳細に話していた、心がもう受け入れがたかった事実を受け入れて諦めてしまったのだと寂しく感じた。

「お母さんと言葉を交わす事出来なかったんだね?」

結希は寂しい表情で頷きながら

「病院に着いた時には母は既に冷たくなっていた、お母さん起きて私は無事だったよお母さんと揺り起こそうとしているのを回りの人が見かねて黙って肩を叩かれた。私達が住んでたアパートは跡形も無くなって、行くところもなく仕方なく避難所にいて母が病院に運ばれたのを放送で知りすぐに担ぎ込まれた病院駆けつけたんだけど息を吹き返す事は無かった、穏やかにただ眠っているようにしか見えなかったのにあまりに急な事だと涙も出ないんだね」

結希はその時の光景が蘇って涙がこぼれた。

「つらかったね、死に目に会うごども出来ながったんだ?」

ユッピーは自分の経験も重なるのか沈鬱な表情になった。

「でもね周りには遺体も傷んでいたりという家族も多くてみんな無事という人はほとんどいなかったんだ、二万人以上が命を落としたからね。正直に言うと避難所から東京に出て来てホッとした、女一人では夜も安心して眠れなかったし、回りは他人だけで不幸な知らせが周りにいる人に入ると私もやっぱり気を遣ってしまって、あの様な状況で自衛隊の人達は凄いと思った、とても不潔な環境で体調も崩さないでそこに踏み留まって細かいケア迄してくれて」

結希はそこでのとある事件にだけは敢えて触れなかった、ユッピーはだからこそ普通に会話を続けられた「おいも震災前には自衛隊なんて矢本にあるとかえって危ねんじゃねとか思ってたけど、震災後にあの人達見掛けると回りに誰もいない時は敬礼してたよ」

結希も「私はそこ迄出来てなかったけど心の中では敬礼してた。ユッピー銀座にはちょくちょく来るの」

ユッピーはわざと

「ほだにしょっちゅう来れねべ何でも高げえおん」

結希はなんだか可愛いぬいぐるみみたいなユッピーを思い切り抱きしめたかった

「ありがとうそのズウズウ弁オイもずっと聞きだがった」

と泣き笑いの表情で返した、ユッピーとはその後しばらくの間いろんな話をしてから、今度はしっかりしておかないとねと連絡先を交わしてスマホのSDカードにバックアップもしっかりとって又すぐに会おうねと言って別れた。

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