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2.スクープ

一週間程経って佑真は父親の真から帯に着信があり急いで来るようにと言われた、品川駅東口にある真の会社の本社ビルまで緑の回廊を伝って歩いて行くと、受付の清潔感のある綺麗な女性が佑真を知らない様でアポイントメントはおありでしょうかと尋ねられたので、一応名を名乗り挨拶したら彼女は失礼致しましたと慌てて取り次いでくれたが驚かせてしまった様でなんだかとても恥ずかしく申し訳なかった。

「何の話か知らないけど会社にまで呼び出さなくても良かったんじゃないのか」

と佑真は父親の真に呆れたように言った。

薄く自然光の入る部屋の中は観葉植物や地球儀が飾られた本棚や机に本物のメープルウッドをふんだんに使った家具や北欧の照明器具などに囲まれた落ち着いた部屋に佑真を招き入れた、他人がいない時は部屋に静かにマイルスやコルトレーンなどのジャズを流しているようだ壁や天井等はブルーグレーと濃いグレーでカインドオブブルーの世界観だ。

それは佑真が小さい頃から変わらないので佑真の趣味にも少なからず影響を与えている。ソファーに腰掛けた佑真に真は硬い表情で茶封筒を机の引き出しから取り出して中を確かめるよう促した、中には例の元アイドルグループの女の子と六本木の高級ホテルに入るところを盗撮された写真が数枚入っていた。

「お前はこの娘と関係を持ったのか、こういう娘がお前の好みなのか、うちの会社にだってもっと綺麗で似合いの娘は沢山いそうだがな、そう思って此処に呼んでみたんだ」

喰えない人だ、さすが俺の父親だ、単刀直入に訊いてきたから、あんな事の状況を事細かに親に説明するのは嫌だったが。

「あのね俺が社長の息子だなんて知ってる人と付き合ったりは出来ないだろう普通、それは変な圧力をかける事になるだろうし、この写真の娘とは確かに一緒に酒を飲んだし下心が無かったとは正直言えないけど妙に酔いが回って自分の方が先に寝てしまったんだから何もしてないし出来る訳も無い」

と答えた。

その言葉を真は苦笑いして聞いてそうかと信じた様にうなずいたが少し忌々しそうに。

「しかし全くお前は自由で羨ましいな、好きな道を選び勉強し研究に没頭する事も出来ている、息抜きにこんな娘達と金を使って遊び呆けていられる私もそういう人生を歩みたかったなあ、工学部に入り建築士に成りいずれは大きなビルや橋などの設計をしてみたかった実地が済み試験もパスし設計事務所に入りやっとこれからという時に父が末期ガンだと知った、母を助ける積もりでこの会社に入りここまで頑張って来たんだがお前はこの先いったいどうしたいんだ、確かに実家の会社と研究のどちらを取るか何て簡単に決められたものでないのは俺の経験からも良くわかるが、こういう輩たちと一生付き合っていくのがお前の望む人生なのか? この写真は雑誌に載るそうだ、お前はその娘の恋人ということにされてしまうんだろう真実はどうあれ、もはや既成事実とされてしまうんだ、こんな風に会社の名前を特定できるように書かれたら困るし第一お前も性質の悪い放蕩息子のイメージが拡散されてしまうぞ。残念ながら記事は止められないようだが、弁護士を頼んで一般人でもある事だしお前を特定しにくいよう業種や学校等簡単に推測出来るような表現は全て無くしてもらった、例え事実であっても名誉毀損は成立するからな、だが暫くの間おとなしくしていろお前が付き合っている連中はお前じゃなく金が目的で寄ってくるような、ろくでもない屑どもだ蛇口を閉めれば奴等は自然と離れていくだろう、しばらくクレジットは止めるし小遣い十万位を口座に毎月振り込むからそれだけで生活してみろ」

父親はそれだけ言うと

「もう帰ってもいいぞ」

と秘書を呼んでこれからの予定等を確認していた。

怒ってはいないが少し呆れてはいるようだ、若気の至りとでも思ったのかも知れない。佑真が部屋を立ち去ろうとすると真が独り言のように呟いた。

「ちょっとこの娘の目線は気になるな、何かカメラの位置をあらかじめ知っているかのように自分が最も魅力的に見えるような角度で歩きながら斜め後ろを振り返ってモデルがスナップ写真を撮る時にポーズを決めてるみたいな、こんなスクープ写真なんてあんまり見たことないぞ、お前何らかの理由で誰かに嵌められたんじゃないか何か心当たりはないのか?」

周りの人間で何か不純な意図を持ちそうな者はいないのかと父は指摘した、ともかくお前は足元を掬われないようにこれからは良く注意して行動しろと強く念を押された、佑真はまさかあいつ等が絡んでいるんじゃないだろうなと同級生等の顔が浮かんだ。

父親のオフィスを出てエレベーターで帰ろうとしていると一番年長の秘書さんが駆けよって来て、お辞儀をしながら。

「佑真さんが会社に訪ねていらした事を会長にお伝え致しましたら、私のところにも是非寄るように伝えておいてとおっしゃっておりました、お時間さえ宜しければ私がこのままご案内致しますが」

と聞き取り易いソフトな口調で語りかけられた。

「そうですかそれでは宜しくお願いします」

と彼女に付き従い歩き出した。エレベーターに乗ると彼女は首に掛けたICカードをかざし最上階へと佑真をいざなった、エレベーターを降りると間接照明が天井と床を照らし飴色の木を効果的に使用した壁には水墨画をはじめ数枚の絵画や給事する猫の銅像などが要所にちりばめられた廊下はゆったりとしたギャラリースペースにもなっている、黒檀でも使用しているのか床が黒く底光りしていて手入れもとても行き届いているのがわかる。とても渋い雰囲気でビルの中にあるというのに別な建物へのエントランスという風情だった。

突き当たりの重厚な木の扉は精度の凄く良いベアリングを使っているのか想像するより遙かに軽々と音一つ立てずに秘書が近寄ると開いた、中に入るとパーティションや照明に和紙をふんだんに使用しそれが形造る光と影までをも利した柔らかな空間が現れた。

「よく来たわね佑真此処に来るのは初めてよね、ゆっくりしていって」

と笑顔で祖母の和枝に肩を押され迎え入れられた。

「おばあちゃんらしい本当にセンスの良い空間だねえ、内装もアート感覚が溢れているし窓からの眺望も素晴らしい」

和枝は佑真に褒められとても嬉しそうだ。

「此処からは東京タワーや富士山そして問題の六本木迄も見渡すことが出来るのよ」

「おばあちゃんもあの話のことを知っているの?」

「多少は聞いたけど独身なんだから恋愛は自由だし、二十七歳にもなって何も浮いた話も無い方がよっぽど心配だから別に気にしなくて良いのよ、ただね私はあなたが気立ての良い素敵な女性と結婚してくれればとずっと願っているだけ」

和枝はテーブルを挟んだソファーに腰かけながら。

「今回のお相手があなたにふさわしい人なら全然問題じゃ無いし寧ろ楽しみでもあるんだけど、なんだか真から聞いた話しじゃそうでは無い感じがするからちょっと心配はしている」

スレートグレーのボレロのスーツを着こなすおばあさんは颯爽としていて若く見える、何時もの様に孫の事だけを純粋に考えて案じているようだ、そんな和枝の前では佑真もおのずと素直になってしまう。

「心配かけてしまって本当にごめん」

素直な言葉がおもわず口からこぼれた。

和枝は「このフロアには例えば私の世話をしてくれている恵梨香さんみたいにおっとりとした素敵なお嬢さんだっているのよ私の側には素性の良い人しか置かない、しつけや教育や指導なんてもので多少は矯正出来たとしても所詮その場しのぎの付け焼き刃で表層を変えてるのにすぎない、大人になってから人間は大きな変革は望めないから最初から性格の良い人を選んで側にいてもらった方が間違い無いし気持ちも和らぐ」

そこにノックの音がして和枝がどうぞというとその恵梨香さんが三種類のアイスティーを銀のトレーに載せ慎重な足取りで運んできた、失礼致しますと緊張した面持ちのままお茶だけを置いて深く一礼して気恥ずかしそうに早々に立ち去っていった、確かに佑真が今まで出会った女の子達と違い溢れるように過剰な色気など全く無く端正な面立ちながら生真面目そうな女性でとても好感が持てた。

佑真は三種の中で茶色とオレンジ色の二層になっているお茶を手に取って飲んでみた、上はレディグレーで下は甘味の少ないグレープフルーツジュースというとても上品な味わいの一品だ。素晴らしい!それならこれはと別なお茶を口にすると今度はまるでモルトウィスキーのような深い味わいのお茶で、最後の一つはカモミールにザクロかブラックベリーの味が様々に絡みあった複雑な味だがさっぱりと美味しいお茶だった。

「凄い! このクオリティ半端じゃないな、このまま店に出せるんじゃないか」

と驚嘆の声を上げた。

「私は後味が好きじゃなくてあまりコーヒーを飲まないから飽きさせない様にと彼女が色々と考えてくれているの、元町のティーサロンや皇居前のホテルのティーラウンジで出しているような物を彼女なりに再現したというお茶なのよ、ロンネフェルトというドイツのメーカーの紅茶を使っているそうだけど日本人は元々香水等を付ける文化がないので多少香りがきつく感じるかもとマイルドにアレンジして出してくれているらしいわ。彼女は何時も一緒に色々なお店に連れて歩いているの、車という移動空間を上質に感じられる内装とはいったいどのような物なのかその時々の流行りなど女性の目線でいろいろと気づいた事を率直に聞きたいから」

なるほどお茶を口にしただけでも彼女の創意工夫は良く判るし専門店でも中々出逢えないような代物だ、本当に真面目な仕事をする人なんだろうし祖母に任せられた仕事にプライドとやりがいを持っているというのも良くわかる。

「あなたが納得できる人生を送るために伴侶は良く考えて選んで欲しい、私はおじいさんと一緒になって会社を作り最初の頃は少し苦労したけれど後になればとても良い思い出になった、おじいさんと二人で過ごせた時間は決して長くはなかったけど本当に真面目笑顔が善い人だったから幸せだった」

しばらく近況を話して会社を後にしながらそんな祖母の話を思い出して深く考えさせられた、そもそも喜んで苦労を共にする或いは出来るような人こそが求めるべき人なのではないかと佑真は改めて思った。先日の不吉で生々しい夢はずっと頭の片隅にあるが決して悪いだけの夢と言い切れなかった、そこでは自分がまだ出会えていない恋人か配偶者がそばにいて死を目前にしながらも満ち足りた気持ちになっているのだ、それほど迄に自分が愛する女性が出来たとしてその人とその後の人生を一緒に歩んでゆける未来というのはあるのだろうかとそちらの懸念だけがずっと付きまとっていた。

未だに彼女と言える女はいない、好意を持った女の子は過去に数人いたが大体は既に別な男と付き合っていたりで縁が無かった。大学に入ってから基礎過程の内は合コンなんかもあったが好みの女性はこちらに靡かず他の男に興味を持つ事も多かった、それには内心かなりプライドを傷つけられていた。逆にすり寄ってくる女の子は情報を得ていてなのか綺麗に表面を繕っていて佑真にとっては楽な立場で付き合えたが、自分よりお金と結婚したいセレブ願望の強い女と想像するにかたくないような人物が多かった。

それがもし自分の望むような運命的な女性に出会えるための天の配剤だとしたら?しかし真実の愛に出会えると同時にもし永遠の別れが待っているとしたなら? 確実な未来など誰にも分からない、それをあまり深く考えないように思いを巡らすのを止めた、いくら考えても仕方無い事なのだから。

現在は趣味を通じて知り合った友達かどうかさえわからないような何人かの異性の知りあいがいるだけで、誰にも気を遣うことなく一人でドライブに行ったりするほうにむしろ余程興味があった、夜更けに高速にのってわざわざ人気のない山道に行きタイムアタックしてみたり、ともかくリスクを背負いながらもぎりぎりのところで何事もなく帰ってくることに一種の爽快感や達成感を感じていた。

モーターショウは自分一人でも必ず観に行ったりする程に美しい車は見ているだけで本当に心が弾む。他の人達が美術館で絵や彫刻を見たりして感激するのと自分にとっては全く同じことだ、車のデザインも優れた物はもはや近代美術館に置いても良いような代物だと思っている。

ディテール迄もしっかりと時間を掛けて見たいので趣味の合わない者などはなるべく側にいないほうがゆっくり見られて良い。子供の頃から車には興味があった、父親の会社は高度経済成長時代の千九百六十年代から七十年代に国内のレースが盛んだった頃に町の小さな部品メーカーから始まって、現在ではユニット化されたダッシュボード等までも自動車メーカーに納入する会社に成長し売上高も兆に及ぶ規模になっている。

院生には分不相応なランボルギーニでも欲しいといえば買ってくれたのは息子が車に興味を持ち続ける事自体は決して悪くはないと思っていたのだろうか、もう一台国産の四駆も普段使いの為に持っているがそちらは父親とは少し違う傾向のジャズやポップスなどの音楽鑑賞に十分耐えうるシステムを自分で選びカスタム化して目立たない様に綺麗に取り付けてもらっている、その車の中で過ごす時間が今は一番好きだ。

贅沢な生活と他人からは思われるだろうけれど父親にとっては中学で母が出て行き男所帯になった息子を不憫に思えていたのかもしれない。父親にはもう二人、六歳と三歳の娘がいる、銀座のホステスだった美絵さんという女性と佑真の母親が去った後に出来た子供達だ。式は挙げていないが何の問題もなく結婚出来たのにあえてそうしようとしなかったのは、あれこれ彼女の過去を詮索されるのを避ける為だったかもしれないし相続に関連する危惧があるのかと勝手に推測している。

一度外で会ったことがあるけれど控えめな女性でとても丁寧に挨拶された、余程高級な店に働いていたのか、ただ美しいというだけでなく華美なところが全く無く淡い緑色のカーディガンを紺色のワンピースの上に羽織っただけのナチュラルな装いで化粧も薄く透明感がありその立ち居振舞いにも品というかおっとりした感じがあった。

「貴女のような方が勤めているなら銀座で飲むというのも悪くはないかも知れませんね」

佑真はお世辞ではなく感想を素直に語った。

彼女は気恥ずかしそうにしながら。

「私の家は運送業の父が病気で腰を痛めてから無理が効かなくなって、母がパートに出ても家計は火の車でした、それでも私を大学に通わせてくれていました、でも家にはもう経済的に余裕がないのも分かっていたので小さい頃から私なんかより余程勉強の出来る歳の離れた妹を大学に通わせたくて親の反対を押し切って働きに出たんです、でも高卒の私が大金を稼ぐなんてキャバクラやホステス位しか思い浮かばなかった、上京し最初は六本木で勤めて居ましたが売り込みが下手であまり稼げなかったんです、でも何故か貴方には銀座の方が良く似合うとスカウトされて銀座の店に移ってからは何とか妹の学費位仕送り出来る見込みもたって、その頃に佑真さんのお父さんに出会ったんです今は私の代わりに真さんが妹に学費を仕送りしてくれています」

「そうだったんですね失礼ですが妹さんは何処の大学に」

「仙台の医学部に通っていて今年三年生になりました」

「父が仕送りしているのは学費だけですか」

「はい、小遣いとかは家庭教師のバイトで自分で稼げるからと妹は固辞しているので」

「妹さんとちょっとお話しすることは出来ますか」

えっ、はいと不安げに携帯で呼び出すと直ぐに通じ美絵さんが少し事情を説明してから電話を代わった。「初めましてお姉さんの結婚相手の息子です少しお時間いただけますか」

電話の向こうから少し緊張したような声で。

「はい、義理の妹というだけなのに援助していただいていて大変申し訳ありません」

佑真に何か言われると思ったのか、かしこまって申し訳なさそうにしている雰囲気だった。

「そんな事全然気にしないで下さい、私も医学部を卒業し今は研究室にいる身ですから貴女がどういう状況かは充分に分かっています、将来貴女はどういう医師になりたいんですか」

「内科と小児科を選びたいと思っています、特に小児科は少子化と手が掛かり人員が必要な割にお金にならないというので地元でも段々と減ってきていて若いお母さん達が困っているので少しでも助けになりたいんです」

「しっかりとした妹さんだ、そういう立派な考えをお持ちなら尚更バイトなどで疲弊していないで父からの援助をもっと遠慮なく受けてしっかり勉学に専念して下さい、これから段々と数々の実習や各科回りで忙しくなっていきますが特に子供の容体というのはすぐに変わる難しいものです、ちょっとした変化を見逃すと大変な事になりかねませんし、あなたが様々な予兆を見逃さないために学ぶべき事象は多々あるんだと思います。将来あなたが沢山の患者の命を救ってあげられるように金の心配などせず心置きなく学んで下さい、父には私から強く言っておきますので宜しくお願いします」

と言って美絵さんに携帯を返した。

美絵は呆気にとられた何という行動と意思決定の素早さだろう、明らかにリーダーの資質が備わっている尊敬に値するような人物だ。噂で聞く人物像とこの大きな乖離はどうしたことなのか、確かに立派な人であっても下半身は別というのは夜の商売をしていたから充分知っている、けれども自分の子供達もおおらかに受け入れてくれそうな人だし本当にこの人が娘達の義理のお兄さんで良かったと思った。

佑真も美絵が何より目に計りごとの欠片も感じられないところを見て彼女の家族が信頼に値することをすぐに読み取ったのだが、一度女に酷い目に遭わされている父親にはふさわしく良かったと感じた。その女性と真が再婚するなら少なくとも佑真はまだ五十代の父親の人生に口を挟むつもりも全くなく大賛成だった、あちらは初婚だし式くらい挙げてあげれば良いのにとさえ思っていた。

少し陽の傾きかけた空を見上げながら。暫くおとなしくしてろか友人とも取り巻きともつかない井口や朝宮、あいつらは父親の指摘通り金がないと解れば多分何の連絡もして来ないだろう。合コンや誰それの誕生会何て催しは上っ面は華やかですごく綺麗な女の子達とも出合えるので最初は楽しかったけれど、今となってはもう沢山だな。

彼女達は人として成熟する一見無駄な時間ともとれる学生生活という猶予期間を捨て、いきなり社会人になって彼女達中心にビジネスが回るので、その世界で生き残るための必要な処世術なんかは大変立派なんだが会話の共通項となれば衣食住や旅行、異性関係、携帯等に限られてしまう。ホスト側のこちらとすると一応その場はある程度楽しんで帰って貰わないといけないが、相手はもう既に年齢に不釣り合いなくらい様々な経験を並みの大人なら一生味わえ無い位に積んできたような連中だ、驚いたようなリアクションをとらせるなんて大変な作業だ。

そういう娘達には初々しさの欠片も感じられず多分あっちの方も手練れなんだろうなと醒めた気分にさせられている。そんな生活に辟易とし始めた処にこの騒ぎだいい加減潮時かもしれないと思った。

このような成り行きだとランボやレクサスが満タンだったかなど、そちらの方が余程気になる位だった。和枝は佑真が帰った後ひとしきり考え事をしていた、佑真が未来に出逢える女性とはいったいどんな人なのだろうと思いを廻らしていたのだ。息子の真は佑真が生まれたものの幸せな家庭を最初の結婚で手にする事は結局出来なかった、裕福な家庭に育った娘なら素直でおっとりしているだろうから安心だと思っていたがそうはならなかった、和枝と会う時も綺麗な女性で特に礼儀は悪く無いのだが余り視線を交わそうとせず何を考えているのか計り難い感じがした。

横暴な振る舞いがある訳でもないのに何故か家政婦達もあまり良い印象は抱かなかったようで、もしかしたら女の子というのは家柄など自分を飾るものが多い程に尊大な所が見え隠れしたりするのかも知れないと感じた。

現在はむしろ親から見れば反対したくなるような経歴の女性と穏やかに本当に幸せに暮らしているというのは何とも皮肉な話だ。嫁は台所からもらえとは昔からの格言だが佑真は家柄などに関係なく普通の家庭で仲の良い夫婦の元で愛情をかけられて育った娘の方が幸せに成れるのではないかと思っている。

「会長お茶をどうぞ」

と和枝が好きな凍頂烏龍茶を運んで来た絵里香にふと佑真と同世代の人の感想を聞いてみたくなり。

「正直に言って佑真をどう思う?」

と突然尋ねた。

「格好良くて素敵な方ですよね」

と即答した。

「遠慮しなくて良いのよ気が付いたことがあったら何でも言って」

恵梨香は少し考えてから。

「そうですね学歴も申し分ないし外見にも恵まれ、更に会長のお孫さんとなれば何不自由ない生活をしている筈なのに、何だか心は満たされていないように伺えました」

さすがにあなたは鋭い。和枝はそんな言葉にこそ出さなかったが自分にもそう見えると同意したように頷いて又暫く黙り込んで考え込んでしまった。

佑真はその育つ過程に原因があるのか他人に疑いの眼差しを向ける事がある、私には絶対そんな事はないがそれは小さい頃からの信頼があるからだろう、先程も恵梨香をほんの一瞬品定めするかのように見たのを見逃さなかった。

子供の頃には本当に優しく可愛いらしい男の子で目も澄みきっていて和枝も色々なところに一緒に連れて歩くのがとても楽しかった、あんなに可愛い孫を捨て男の所に出て行く母親等というのは動物と変わらないと軽蔑しているし出来ればもう二度と会いたくもない。

今の佑真は善い人と言われると反射的に疑ってかかり裏を嗅ごうとする癖があるようだ、でも実はそんな懐疑的な視線に気がつかない鈍感な女性は少ないのだ。女の子は小さな頃から実に様々な視線に晒され生きている成長と共にそれは脂ぎった欲望の対象としての視線も混じったりもする、だから今まで佑真には素性の良い娘は近づいて来なかったのかも知れない、和枝はそんな佑真を変えてくれる運命の女性はいつ現れてくれるのだろうかと改めて思った。



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