1.夢の女(ひと)
逆光で顔ははっきりとは見えないのに何故か輪郭からだけで美しさが判る女が俺を庇うように覆いかぶさって口元からは血が滴たらせていた、どこか満足気に良かったと微笑みながら呟いて俺の頬を撫で力尽きた。
何なんだこれ、こんな事にならないようにずっと鍛えてきたのに何でこの世で一番失いたくない人を救えない?
助けてもらったところでお前がいない世界にどうやって生きていけというんだ頼む俺をおいて逝かないでくれ。ぼんやりと薄れゆく意識の中であっても彼女に巡り会えたそのことには凄く感謝の気持ちは有る、しかしそれ以上に絶望の暗闇が心に溢れている。
成し遂げるべき仕事が待っていても自宅と研究室の往復だけと詰まらない人生だった、出会えてからは世界の景色がまるで違うものに変わった、この人に遇う為に俺は生きてきたんだとさえ思えた。彼女が逝ってしまうなら自分も一緒にと望んでいる自分がいる。意識が遠のいてきたがそれはむしろ喜びですらあった、溢れる涙もそのままに彼女の身体を優しく抱きしめたところで目が覚めた。
彼女の手のひらの温もりを頬に感じた気がするほどに生々しい夢だった。
予知夢なのだろうか?不吉だ、起きて不安になったがしかし自分にはそんな相手はいない、ただの夢だと無理やり納得させた。
そんな夢の記憶とはうらはらに佑真は昨夜眠る前の行動は朧気にしか覚えていなかった、強い眠気に突然襲われやっとのことでベッド迄たどり着いたところまでは覚えているけど寝起きの気分は頭がすっきりとせず鈍く澱み最悪だった。
昨夜は箱根にでも行こうとガレージのシャッターを開けたところに馴染みの友人から着信があり、香川も飲みに来ないかと誘われたが気乗りせず一旦は断った、しかしお前も知ってるような娘が来てるよと言われるとそれがどんな娘なのか興味が湧いてつい誘いに乗ってしまった。
近頃研究が行き詰まっているのもあって、そもそも可愛いとか綺麗なお姉さんなんて釣り文句にはとことん弱い好き者だし、それが本当に良い娘である確率なんかとても低いことも今迄充分わかりきっているくせにノコノコ松濤の自宅から六本木までタクシーで出掛け会員制のバーに入った。
そこには広告代理店に勤務する高校時代からの悪友二人が小顔で細身の瑞々しさを感じる女の子達三人と共に目立たないようにラウンジ奥の照明が薄く陰ったテーブルに陣取っていた。既にもうある程度酒を酌み交わしていたのか出来上がってきて楽しそうだ、友人の井口と朝宮には愛想笑いともつかない表情で迎え入れられた。
一応お互いに仲良さげに挨拶はしたが本当はおまえたち俺何ていらない筈だよな、ただ会計をしてくれる奴が欲しいだけなんだろうと内心では毒づいていた。こいつらは俺の境遇に内心嫉妬や反感を抱えているのかも知れない、とにかく絶対に何か変な癖のある女を連れてくる。本命の彼女が出来ちまえば自分達の出番が無くなると計算してるのかも知れないと近頃は勘ぐってもいる。
練習生と紹介された女の子達は実際の年齢はともかく未成年にも見える様な娘達で酒宴の席にあまり似つかわしくない感じがした、女子高生が大人っぽい化粧をし背伸びして酒を飲んでいるのを大の男が何とか拐かそうとしているような傍目にはちょっとヤバい雰囲気だ。中に一人だけ見覚えのある女がいるがプロっぽくそんなに好みのタイプじゃ無かった。
なんだやっぱり今日もあんまり当たりじゃなかったと密かに思いながら様々な絵画が飾られたアーティスティックな店内をぼんやりと眺めた、テーブルの上には無国籍な料理がひしめくように並びその奥には東京の夜景がただ無感動に煌めいていた。
他人目を憚るような一同の心配とはうらはらに客は我々だけのようだった、週末であったならそんなに広い店でもないんだし客が満杯になるのかも知れないが週の始めだからなのだろうか。初対面の女の子達に挨拶をし飲み物を頼み、その中で一人だけ先程の既視感ある大人っぽいスリットの入ったスカートから覗く脚が艶かしい女性とは徐々に話しをした。
確かに周りの娘にはない色気のある娘だがある程度事前にこちらの素性を知ってるようで職業などの質問は不自然なほどまるで無かった。彼女はつい先日まではアイドルグループの一員だったらしい名前は芸名だろうが緑川綾乃と名乗った、確かに何処かで見た事のある垢抜けた感じのする綺麗な娘ではある。
プロデュースをしていた人間がなかなかの人物なのか愛想も悪くはないし他人を不快な気持ちにさせたりはしないけれど、ちょっと他の娘達と比較するとアイドルらしい安定感が足りないんじゃなかろうか、職業病なのか知らないが敏捷すぎる目配りなどちょっとした仕草にことさら他人の視線を念頭におく癖があるみたいだがそれを他人に悟られては駄目ではないのか、そして何だろうこのアイスクリームについてくる木のへらや安っぽい割りばしを口に入れた時のように拒否したくなるようなざらつく感覚は。
造られた感のするアイドル何て実際になってみれば大変な仕事だろうことはある程度理解は出来る、女の子なら生理だってあるだろうし毎日毎日必ずしも体調万全で笑顔でいられる筈もなく、不調な時に早く終わってくんないかなぁ何て無愛想なリアクションをしているところを一瞬でもテレビカメラで抜かれたりすれば生意気な奴とか性格が悪そう何てネットで叩かれる、SNSの発達した現代では動画を拡散されたりもするから尚の事気も抜く暇もないだろう。
それは分るがともかく一緒にいて気が休まらない感じのする娘だ、自分を他人にどう見せるかだけでなく他人を無意識の内に値踏みするような視線にも違和感が拭えなかったし見栄えも感じも悪くはないが何か嫌な胸騒ぎがする。
甘いカクテルに飽きワインにした頃に彼女は一旦席を中座し暫くして戻ってくると、意味ありげな視線を送られ妖しい微笑みに誘われ会計を済ませ皆と別れた後ホテルのバーに二人きりで二次会で入ったが会話の途中から何故か強烈な眠気が襲ってきて下心どころの話じゃなくなった。眠りに落ちる迄余裕がなくさっさとベッドにたどり着きたかった、他人の話をあくび混じりに聞くのも悪いしもうお開きにしようと急遽部屋をとって歩いて行く途中、大丈夫だからと断ったにも関わらずホテルの廊下を付き添ってきた彼女の首筋からロクシタンの香りが立ちのぼり何気なく眼をやると虫刺されのような内出血の跡が目に止まった、出来て間もない感じのそれが何を意味するのかは明らかで舞台裏を明かされたように興ざめとなった。
今までどれだけ様々な匂いに引き寄せられたんだろう虚飾にまみれてたり爽やかな香りだったりその裏にはその人を描き出す何かが透けていた、この女のスカートに入ったスリットの意味もよくわかった気がした。この娘はまるで売れっ子のキャバ嬢みたいに男の求めているものをちゃんと理解し計算し尽くしているような娘なんだ、或いは本当にそういう職に以前就いていたかも知れない。
あいつらの連れてくる女の子って皆こんな感じだ最初はみんなうわべだけ小綺麗で魅力的に見え少し牽かれても知れば知るほどに醒めてゆく、近くで良く見れば造ったようなあまりにくっきりと不自然な二重まぶたも肌のちょっと疲れた感じなども元アイドルグループの一員と思えない崩れた感じが伺えた。
今迄過去に何度か美しい女性達と付き合った事はあった、その時は楽しかったり胸が踊る瞬間も経験したし以前はそんな他人に羨ましがられ喜ぶ無垢な自分がいたのも確かだ、けれどトラブルばかりで良好な関係でいるのが段々難しくなってくるとスタイルや顔が綺麗なんてだけで付き合い始めた事を後悔する事になる。
男や時間にとてもルーズで小さな事ですぐに機嫌の悪くなる癇の強い女だったり、自分にはとても甘いくせに他人の瑕疵は見逃さず徹底的に追及し叱責し容赦のない者、益の有る者には媚びを売り、そうで無い者にはとてつもなく冷淡な態度を取ったり笑顔が何時も皮肉っぽく目が全く笑っていなかったりなんてところを垣間見せられると普段の外面が良いだけにむしろそのギャップが恐ろしく醜く感じる。
骨格なのか肉の付き方なのか分からないがほんの数ミリ他人より顔のバランスが良く生まれたってだけで別に才能や頭脳の裏付けもなくキレの良い会話やちょっと不遜な態度や口調が若さや美貌から格好良く見え一時は注目されても、風向きが変われば次々に現れるもっと若い連中に段々人気は集まり飽きられ色褪せて忘れ去られてゆく悲しくないかなそれで。
大した努力も無しにひとときでも甘い生活が送れて結構だなと反発したくなるが元来性格の悪い者が人前で人の善さそうな態度を演技しなければならないってことなら、それだけで本人にとって耐え難い苦行を日々こなしているって事になるんだろう、何時までも他人に特別扱いされる存在でいられるかどうかは結局その人が裏でどれだけ誠実な人生を歩んできたかどうかが顔にも反映される筈だ。何の世界でも天性のものだけで一生楽に暮らせるはずもなく順風満帆なときもそこかしこに陥穽は待ち受ける、そうした先人の凋落パターンなら飽きるくらい見てるだろうに何故自分はそうした轍を踏まずにいられると思えるのかまあ大抵は馬鹿なんだろうな。
同じようにそういう勘違い女を作ってるのは男の方にも問題がある、男の性ともいえ仕方ないかも知れないが若い内は見目麗しさと性格の良さが一致するものと信じ込みたいのだ、不細工な女にはちょっとした事でも不当に冷淡な扱いをする癖に身近な男同士で省みても決して外見と性格の一致などはありえないってことにはすぐ気付ける筈なのに。
恋愛経験豊富な女はやっぱり信用出来ない今迄何人も受け入れたような女なら他の相手とそういう関係に踏み出すのなんて軽い気持ちでいける筈だから、本気で結婚まで視野に入れて付き合える人に出会う事なく深い交際にまで発展させず大抵は初期段階で自然消滅となる経緯が過去には幾らもあった。
女性側からすれば多分資産家の息子ということでお金に魅力を感じ近づいてたってだけだろうから、つまり此方も女も魚心に水心でどっちもどっちの関係だった。ここ二三年心に湧き上がる妙な焦燥感があり執拗に出会いを求めてきた、波風立たない平穏な暮らしを突然誰かに覆される予感があり早く将来を定めてしまいたかった。しかしその一方今まで出会ってきた娘たちには外見で惹かれても何時も"違うその娘じゃない"と心の何処かが煩い位に警告してきた。
死ぬまで一緒に同じ空間で悦びを共有出来るような人をずっと探してきたけど、こうした集まりで探すのなんて最も不適当で寧ろ満足できるような女に出逢えるはずはないと最近は充分気付いていた。しかし男なんて本当に馬鹿なもので可愛い娘がいるよと女衒のような友人から誘いがあれば何度でもパブロフの犬みたいに涎を垂らし今日こそはもしかして運命の女に出会えるのではないかと期待し馳せ参じる。
芸能界やモデルとして活動する自分の美しさを控えめにではあっても密かにそれを誇示する女性との出合いは割と多かったが、そんな芸能界や近い場で活躍する女が一人の男なんかで満足出来る筈はなかったのだ、色んな男に崇められたくてそこを目指して来た連中なんだから。
むしろ近頃は車の中から舗道を歩く堅い職業に就いてるだろうと推測される綺麗な女性が目に入るとスーツや制服を身に着けたその清潔そうな姿に強く惹かれたりする。様々にお洒落な服を着た女も良いけど夜の生活が想像ができないような堅く見える女性に近頃は萌える。
目の前のこの娘は下心を秘めた馬鹿な男から上手くお金を掠め取ってやろうと肌の露出が絶妙な戦闘服を纏ってやる気満々なようでなんか萎えてしまう。
「あとは本当に大丈夫だからありがとう」
と早く帰るよう彼女を促しタクシー代を財布から数万円を渡しベッドにたどり着いた処で意識がなくなった。
一方女の方は先程廊下を歩いている時に男が何かに気付いて一瞬身を固くしたのを密かに感じ取っていた一緒に部屋に入り男がベッドに伏し意識を失ったのを見届けると洗面所に入り鏡で彼の目線の辺りを審に確認するとその理由がすぐに分かって一瞬しまったという顔をしたが、ならばそれを上手く逆手に取り後で利用出来ないかと上半身を脱いで男の隣に横たわり顔の位置に首筋に合わせ愉しそうな笑顔の写真を何枚か撮ってから起き上がり皮肉な笑みを浮かべた。
佑真が目覚めたとき何故か昨夜の彼女はまだ部屋の中にいた、まさか何かしてしまったんじゃないだろうなと一瞬固まったが服は昨夜のままだったので安心した、既に化粧と身支度を済ませた彼女はそれなりに溌剌としたキレイな女の子に化けていた、先に帰るから暫くしてから帰ってねと告げて彼女は立ち去った。
何もなかった筈なのに別れ際の彼女の何か馴れ馴れしい満足そうな多少侮蔑のないまぜになったような笑顔に凄く嫌な感じがし急に不安になり下半身を確かめたが脱がされたような跡もなかった。
服を着たまま寝ていたのでシャツの中はベたついている、レインシャワーを浴び身体を拭いて髪も乾かすと少しはスッキリしたけど、まだ目眩がするそんなに深酒した訳じゃないんだから二日酔いでも無いだろう、あの女何か混ぜたんじゃないだろうな、確か最後はカクテルで色が判りにくいものだったまさかハルシオンか何かか。
今しがた立ち去った女のせいか、それとも先程みた不吉ではあるが妙な幸福感に包まれた夢のせいなのか、いつしか佑真は自分を置いて家を出ていった母親の後ろ姿を思いだしていた。
虚栄心が非常に強く息子の中学校までも取り巻きに自慢できるような有名私立でなければならなかったし小学生の内から家庭教師を五人も付けられ強制的に勉強をさせられ、試験で良い点をとってもさも当然と言わんばかりにそう凄いわねえと言うだけで全く張りあいが無かった。
運動会の時だって仕事の有る父親は仕方無いが母親も様々な用事が有ると殆ど顔を見せなかった、おばあさんはそれを知ってか良く観に来てくれたが業者が三段弁当を手に昼休みに合わせて運んで来たりするとそれを見た友達は『おまえん家凄いなウチの母さんの弁当なんて昨日の残り物まで入ってるんだぜ、本当に豪華だなあ』と言われ、物々交換で友人の家の何でもない卵焼きや唐揚げを貰って食べると味だけを比べたら確かに料亭の弁当には劣るもののとても優しい家庭の味がした。
両親揃ってビデオ撮ったりしながら時にはそこに兄弟まで混じって応援してたりするのを実は佑真の方がずっと深い羨望の眼差しで見ていた。
その頃はピアニストにも憧れていたが小さなコンクールレベルでも明らかに別次元の才能を持った人達を目にしその夢は到底叶わないと悟った、勉強だって何の為にするのか分からない内は全然気も進まなかったが色気もあんまり無い女性の家庭教師は宿題や予習復習をちゃんとこなしたか職務に忠実でとても厳しかった、おかげで英語力と勉強の癖も付いたので比較的苦労せずに今の大学には入れたんだから彼女には本当は感謝しないといけないのだろう。
ブランド好きな母親からすれば東大でも慶大でもないが偏差値は高くとも真剣に勉強した事の無い人には余り分かりにくい難関の医学部などというのは完璧には満足してないだろうが、そんな事も今となっては自分には全く関係は無い。
いい歳をして周りに若いだの綺麗などと持ち上げられすっかりその気になってジムやエステ美容外科と自分の美を保ち続ける事に余念がなく高級ブランドの服やきらびやかなアクセサリーを身にまとい、父親が仕事してる間に自分より年下のつまらない男とパーティーで知りあい、佑真を置いて出ていったのは佑真が中学二年の時だった。その少し前には姿見の前で黒い下着をつけ色々な角度でポージングしてうっとりしたような表情をする母親の生々しい女の一面を図らずも目にしていて、後に浮気の事が明らかになって凄い嫌悪感が湧いた。
中学になる頃はあまり親と話しなどしたくなかったから母と二人きりの食卓も部屋に自分が篭ってしまえば家が広いだけに一層寂しく感じたりしたのかもしれないし、夫婦の記念日等も父親は忘れていたり予定のキャンセルなども多々あったようだから一方的に母親だけを悪者には出来ないだろうが、でも付いては行かないにしろ形だけでも自分を引き取ろうとする気が微塵も感じられなかったことには正直失望したし裏切られたと思った。
父親に対しても他に女が出来た訳でもなく仕事に没頭していただけなのに後ろ足で砂をかけて出ていったようで許せなかった。父から聞いた話しでは母親は『この歳でやっと本当の愛に出会えた、だからもう貴方とは一緒に暮らせない』と言ったらしい、佑真の事はどうする気だと訊いたら、貴方の元で育った方が幸せでしょうと応えたらしい人間の特に女の嫌なところを心底見た気がしたと真は言った。
結局自分が最優先で何らかの理由で別れを選択する時だって色々な理屈をつけてはみても、結局自分にとってその方が楽しいとか得と判断するから別れるんだ相手が裕福で有ったのも知っている。言葉でいくら取り繕おうとただ家族でありふれた幸せをと願うなら大抵の場合は叶う筈だ、女性に対しての不信感は拭えない決定的なものとなったが、しかし相手も四十近い財産も無いババアと良く結婚したものだそこは本気だったのかと感心させられもした。
父は慰謝料など請求しない代りに弁護士を頼んで面倒な財産分与や親権などは放棄させ一時金も与えさっさと離婚したという。同時に俺は絶対にあんな母親に自分の人生まで左右されはしない此処で崩されまいと心に決めた、グレたり勉強を止めたりするのは簡単なことだが、そうしたならいつまでも捨てられた母親の支配下に置かれているという証明になる、あんたなんか居なくたって俺は充分一人でやって来れたといつか立派に幸せな姿を見せつけてやるのが一番のリベンジだと深く心に誓った。
他人と余計な関わりを持ちたくなく、その時間は勉強や道場やジムに振り分け無意識に殻を被って自分を守るようになってた、だがそんな俺だって結局被害者面して金持ちの馬鹿息子が金を餌に身持ちの悪い綺麗な女を抱こうとしていただけじゃないのか?どんだけあの母親と性根が違うんだ他人の事を責められるほど立派な人間だったか?全く俺はいったい今の今まで何をやってきたんだろう、先程みた夢の彼女が今の自分は只の情けない金持ちのボンボンに過ぎないと覚醒させてくれた気がした。
朝日がまぶしいホテルのエントランスから外に出て欅坂辺りを頭がスッキリしないのと自分に腹が立ってふらふらと歩いてゆくと道路の真ん中に空き缶がポツンと立っていて、どこの馬鹿がこんな所にと道を渡りながら何気なく無意識に歩道の方へと蹴飛ばすと中に残っていたコーヒーのせいで、その場で缶が勢い良く不規則に回転して跳ねあがり中身が飛びちりズボンやスニーカーを濡らした。
イライラしながら朝っぱらからツイてないなと服に付いたコーヒーをハンカチで拭っていると何となく背後に人の気配を感じ、振り向くとその先には濃紺の清楚なスーツを着た真面目そうな女の子が斜め目線で佑真を責めるように見つめていた、コーヒーが彼女の白いブラウスや整った顔にまでも点々と飛び散っていた。
直ぐに謝って
「すみません弁償させてください」
と言ったが。
「そんな時間はもう無いので大丈夫ですから」
と怒って立ち去ろうとした。財布を出してせめてお金だけでもと渡そうとしたが現金は今朝の女の子に渡してなくなっていた。
「ほんの少しだけ待っていて下さい」
と憮然とした表情で彼女が歩き出そうとするのを両手で制しながらホテル側に急いで走って戻り胃袋が揺すられ少し気持ちが悪くなりながら、コンビニで急いで現金をおろしその場に戻るとその娘は既にいなくなっていたが思い返せば何となくあの夢の女に雰囲気が似ていた気がした。




