4 結局モブはモブ
快音を堪能したあと、目の前を確認するとモブ山賊Aの姿がない。
どうやらビンタした際、目をつむっていて良く見ていなかった。(女子かよ!)
もしやと思い、振り切った右手の先に視線を移すと10メートルほど先の木に頭がめり込んだモブ山賊Aを発見した。
なんと芸術的な光景!これが現代アートというやつなのか!モブの美学を感じる。
というかこのモブよくまだ生きているもんだ。まぁ夢だしそんなもんか。
一瞬の出来事に残りのモブ山賊B,C(もちろん勝手にそう呼んでいるだけ)は、手に持っていたナイフのようなものを地面に落とし、引きつった顔をしている。もう1人のモブ、間違えた、おっさんも口をあんぐりとさせている。
この時点で明らかな力の差が判明した。なんという主人公補正、なんというご都合主義なんだと思ったが、そもそも自分の夢だから当たり前なのだと理解した。
さて、自分の強さが分かったところで、残りのモブも片付けておくか。
俺の視線から感じ取ったのか、モブ山賊B,Cは落ちていた凶器を拾い身構える。表情を見るに平静さはなさそうだ。
凶器を向けられているというのに、不思議とかけらの恐怖も感じない。
昔バイト中に、強盗に出くわしたことを思い出した。朝4時頃だったか、フードを深く被った男がカッターナイフを俺に向けてきた。大きな賭けではあったが俺が抵抗しようとしたら男はすぐに逃げていった。
店長の高木をはじめ、バイト仲間からは落ち着いていて勇敢だなどと誉められたが、内心ビクビクして吐きそうだったのを覚えている。
カッターナイフですら恐ろしかった記憶があるのに、何も感じない。
向けられたところで刺されることはないと感じたからだ。(しかもどうせ夢だし)
膠着状態の中、モブ山賊B,Cの表情が一瞬引き締まった瞬間、彼らは同時に動き出した。
片方(どっちがBだったっけ?)は俺の右斜め前の位置で、アッパーをするように下から凶器を振り上げようとする。もう片方は左側の位置から水平を凶器を振ろうとした。
掛け声もなく同時に動き出し、それぞれが相方を陽動に使うような立ち回り。こいつらはきっと強い部類のやつであることは感じた。しかしなぜかその動きは手にとるように分かるだけでなく、スローモーションにすら思えた。これがゾーンというやつなのか?
俺はゆっくりと動いているモブたちの前に移動して後頭部を掴み、それぞれのでこ同士をドッキングさせた。
ゴツっと鈍い音を立て、モブ達は黒目を失いその場で砕けるように地面にペロッた。
カ・イ・カ・ン♪
これほど俺の感情を正確に体現する言葉があるとは、、、
ちなみに夢の中だし相手は山賊で凶器持ち、正当防衛だよね??
モブ達の処理を考えていたら、モブ、、じゃなくておっさんが声をかけてきた。
「兄ちゃん助けてくれてありがとう!あのままじゃ生きて帰れないところだったよ!」
夢でも現実でも、感謝されることはやはり嬉しいことだ。
美少女だったらもっと嬉しかったが、まぁ妥協しよう。
「兄ちゃんめちゃめちゃ強いな!でも見たことない顔だし格好だ。一体兄ちゃんは何教なんだ??」
んん??
何者かではなく宗教を聞くとは。
宗教を聞かれる機会はそんなに多くない。なんだか色々と調子が狂う。
とりあえず俺は無宗教だと答えた。厳密に言えば実家は何かの宗派かもしれない。だが、クリスマスは祝うし寺も行く。特定の宗教であるなら、これらの行為は浮気者のようなものだ。普通に無宗教と答えるのが無難だろう。
てか、そういえば厄払い行くの忘れてたわ。。。
無宗教という言葉におっさんは敏感に反応した。
「無宗教ってことは兄ちゃんは狩人なのか!!どおりで強いわけだ。にしても、優しい狩人もいるんだな」
色々と分からないことだらけなので説明を求めたところ、一瞬あっけらかんとした表情を見せたおっさんだったが、スラスラと話しはじめた。
どうやらこの世界は村にしろ街にしろ、ほとんどの人間は何らかの宗教に入信しているらしい。その中で、狩人と呼ばれる人間は宗教を持たずに生活しているそう。
狩人の中には先ほどのモブ達のように人から金品を強奪するやつも多く、敬遠されがちなのだとか。
そして、この世界には信仰の力というものがある。魔法のようなものだろう。これを駆使して日常生活を送っていたり、戦闘したりするそうだ。
信仰の力はその名のとおり、より信仰心が高い信徒ほど能力を発揮できるそうだが、宗教を持たないはずの狩人達はなぜか高度な力を使いこなすらしい。
先ほどのモブ戦で相手の動きが読めたことや、遠くの気配を感じられたのは恐らくその信仰の力というやつだと思われる。だが俺は確実に信仰心なんて持っていない。そもそも何を信仰すれば良いのやら。。。
それにしても壮大な(気がする)世界観や設定、夢にしては完成度高杉くんに思える。寝ている間にそれだけ脳に余力があるのなら起きている間にもうちょっと活躍してくれよ。。。
勝手に少し落ち込んだところで、お互いまだ名乗っていないことを思い出した。
おっさんの名は、伊藤 茂という。(横文字じゃねーのかよ、めっちゃ日本人じゃんというツッコミは心にそっとしまった)
伊藤はこの山道を降りていく途中にある村で宿屋を営んでいるらしく、助けたお礼に村へ案内すると言うのでついていくことにした。




