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この世界は勇者を知らない  作者: N/A


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008



「じゃあじゃあ、呪文とかの詠唱って必須じゃないの!?」

「ん~、そうだねぇ……別に必須ではないかな。でもさっきも説明したようにイメージが重要なわけ。だから毎回イメージを具体的に考えるよりは詠唱しちゃったほうが安定した結果が生まれやすいんだよね」

「なるほど……!」

「ま、わざと長く詠唱したほうがカッコイイ場合もあるけどね」

「さすが師匠……! 理解ってるぅ~ッ!」


 キラキラと目を輝かせながら藍くんが男を見つめる。


「君は数少ない魔術師だからね。僕としてもうれしいよ~」


「う~ん……私まだ魔法と魔術の違いってのがいまいちわからないんだけど……」


 蓮さんが呟く。

 待っている間に簡単に始まった魔法についての話が、すっかり講義のようになっていた。何だか学生の頃を思い出す。


「いい質問だね。確かに、弟くんは魔術師、君は魔法騎士だもんね。『この違いってなに?』って思えるのは素晴らしいことだよ!」

「やったじゃん姉ちゃん」

「……褒めではなくない?」


 いい質問だ、という言葉に、私の恩師も同じ口癖があったことを思い出す。先生は元気にしていらっしゃるだろうか。


「簡単に言っちゃえば、適正がある大多数の人が安定して使えるもの。同じ威力、同じ属性、同じ認識って感じかな。それが魔法。魔力量によって大きさや威力が小さくなることあっても、認識から外れた大きさにすることはできないんだ」


 なるほど。ファイアボールと言われて投げやすい大きさの火の玉をイメージするが、自動車のようなサイズの火の玉をイメージする人は少ないから、大きなサイズにはできない。ただし片手で投げられそうなイメージ……ソフトボールくらいが最大だとして、ゴルフボール、卓球のピンポン玉、魔力量が少なければビー玉のようなサイズになることはある……みたいな感じだろうか。


「一般的に浸透している常識が反映される、という認識でしょうか」

「当たらずとも遠からずかな。というかね、魔法ってまだまだわかっていない分野なんだ。ある日突然、使える魔法が増えていることもある。魔法ってのは昔から変わらずに、側に存在()るものって感覚なんだよね」

「ふむ……?」

「まあちょっとわかりづらいよね。ほとんどの人が『なぜ?』なんて気にもしてないくらい、長い間僕らは魔法と共にあって、これからもそうだと信じてる。そういうもんなんだよ」


 説明を聞いてもいまいちしっくりこない。部分部分で理解できる箇所はあれど、そもそも私たちの世界からしたらファンタジーな話だ。すぐに理解できると思えるほうがおこがましいのかもしれない。そもそも常識が違うのだから。


「それで魔術なんだけどさ。これは魔法を術式で再構成・再構築する技術なんだ」

「再構築ッ!! 心躍る響きッ!」

「藍、静かにして」


 魔術師は手のひらを上に向けて「ライト」と唱えると、小さな光の玉が現れた。


「見ての通り、この『ライト』って魔法は周囲を明るくするための魔法だ。これは平均的なサイズかな。洞窟内みたいな場所でもないから光量は抑えてあるけどね」


 そっと上に押し上げると天井付近にふよふよと光の玉が浮かび上がっていく。小さな風船のようだ。


「適正があれば、他の誰かがこの魔法を使っても、同じようなものになる。さっきも言ったように魔力量が影響するから、明るさや持続時間は個人差が出てくるけどね」

「なるほど! じゃあ長ければ長いほどすごいってことっすね!?」

「ん~、必ずしもそうとは言い切れないんだよねぇ……」

「えっ、そうなんですか?」

「……もしかして、自分で止められることができない場合がある、ということでしょうか?」

「正解~! よくわかったね!」

「お~、さすが部長っす!」


 藍くんにつっこみを入れようとして、止めた。なんだかもう新入社員を相手にしているみたいな感覚になりつつもあった。


「魔法を使える人は多いんだけど、呼び出した魔法を任意で止められる人って少ないんだよね。とはいえ持続時間が長くて問題になることってそうないんだけどさぁ」

「……でも、隠れたいときとかは不利になりますよね?」

「おっ、お姉ちゃんはいいところに気付くね。まさにその通り!」


 蓮さんは客観的に見ることが得意なのかもしれないな。平和な日本ではそんな場面はほとんど来ないと思うのに、よく柔軟な発想ができるものだ。


「野営してたりさ、そういう時にはありがたい魔法なんだけど、相手からも位置がまるわかりになっちゃうからね。対策はとっているけど、魔法を止める技術がある人がいたほうが当たり前だけど助かるわけ。でもそこまで多くないってのも事実なんだよね。いまその辺どうにかできないのか~って研究急かされてる感じ~」


 はーやだやだ! と男は溜息交じりに言う。大げさな言い方や動きは、高校生たちに混ざっていても違和感がない。


「で、その辺を改良しようと頑張ってるのが、僕たち魔術師ってわけ。ライトで言えば、適切な持続時間、明るさ、範囲。こういうのを微調整できるし、もちろん容易に消すことができる。それが僕らの強みだね。で、その研究を一般の人たちがもっと簡単に使えるように魔道具に組み込んだり広めたりするのがお仕事。……どう? 興味出た?」

「もう最初っから興味しかないっす! 師匠!」


 魔道具と聞いてさらにテンションを上げた藍くんと、何かを考えているようで真面目な顔をしている蓮さん。似ているようで正反対な二人は、お互いに足りていないところを補い合っているのかもしれない。


「一般的なライトならこの色しか出せないけど、僕ら魔術師なら術式をいじって再構成すれば……」

「うわっ! 色が変わった!」


 白色から黄色、緑、水色とじんわりと色が変わりながら部屋を照らしていく。


「離れてると難しいんだけど、この距離ならまあ許容範囲かな」


 魔法。異世界。

 わからないことだらけで次は何を考えるべきか――。

 ライトをぼんやり見つめながら一息ついたところで、コンコンとノックが聞こえて扉が開いた。


「あ、あ、あのっ、これっ、どういうことなんですかっ!?」

「おや、思った以上に似合ってるね、ハルキ」


 先ほど服を脱げと言われたあと、メイドたちにどこかに連れていかれた春貴さん。

 しっかりと身だしなみを整えられ、ドレスコードがあっても問題なさそうな格好だった。

 なぜか、女性用のドレスだということに目を瞑れば。




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