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第 96 章 高まる緊張感

リリーがマイケル・ハリントンにグローバル戦略の主導権を任せる決断を下してから数週間、正直なところ困難な日々が続いた。

事業拡大の必要性と経験豊富な人材の登用は受け入れざるを得ないと納得したものの、リリーが描くカーター社の理念と、マイケルのより強引な経営手法との葛藤は、無視できないほど強まっていた。

その日の午後、アジア太平洋地域向け新マーケティングプランの最終詳細を話し合うため、二人は再びリリーのオフィスで面会した。

マイケルは既に自分の考えを固めていた。業務の効率化と成長促進を見込み、完全にデジタル中心の方針を推し進めようとしている。

だがリリーには、何かが欠けているような違和感が拭えなかった。

ビジネスの論理だけで言えばマイケルの戦略は妥当だが、そこにはカーター社の心臓部である、人と人との温かいつながりが失われていた。

「デジタル完全移行を強引に推し進めすぎよ、マイケル」

リリーは目の前のグラフを見つめながら言った。

「市場が変化しているのは分かる。だけど顧客との人間的なつながりを失ってはいけない。それこそが他社との差別化の強みなの」

マイケルは椅子にもたれ、わずかに目を細めた。

「リリー、過去に固執し続けるわけにはいきません。世の中の変化は私たちの適応速度を超えています。変わらなければ置いていかれる。感傷よりも効率を優先すべきです」

「変化を拒んでいるわけじゃない」

リリーは毅然と返した。

「成長のためだけに、私たちの原点をすべて捨てるわけにはいかないの。成長と理念、両立できる道はあるはずよ」

マイケルはため息をつき、髪をかきあげた。明らかに不満を募らせている。

「大局を見極められていないよ。感情に判断を惑わされている。これはビジネスであって、慈善事業じゃない。結果だけを追い求めるべきです」

リリーはテーブルの下で拳を握りしめ、冷静さを保とうと努めた。

会社の規模拡大を支えるためにマイケルを迎え入れたはずなのに、意見が対立するたびに、この連携が正しい選択だったのか疑い始めていた。

自分の描く理念を失いたくない一方で、カーター社が予測を超えるスピードで急成長している事実も無視できない。

「これは単なる結果の問題じゃない、マイケル」

リリーは静かに彼の瞳を見つめて言った。

「私たちが支える人々のこと、企業文化のこと、提供する体験のことよ。それを犠牲にするつもりはないわ」

マイケルは顎に力を込め、部屋の空気に張り詰めた緊張感が漂った。

「なら、話は平行線というわけだ」

彼は突き放すように言った。

「会社にとって最善だと思う戦略を、中途半端なまま推し進めることはできません」

リリーの心は落ち込んだ。

これ以上対立したくなかったが、マイケルの言葉を聞くほど、二人の経営姿勢が根本的に相容れないことを悟った。

認めたくはないが、もし自分が理念を妥協できるなら、彼のやり方が前進の道になるのかもしれない。

その日の仕事を終えオフィスを出たリリーの頭は、マイケルとの会話のことで渦を巻いていた。

事態がこれほど難航するとは思ってもみず、一つ一つの決断の重圧が肩にのしかかってくる。

エレベーターに乗り込むと、中にネイサンが待っていた。

昼休みに会いに来てくれていたのに、仕事が立て込んで会えなかったのだ。

頭の中が混乱していた今、彼の姿を見て安堵感が広がった。

「やあ」

エレベーターのドアが閉まると、ネイサンは穏やかな笑みを浮かべた。

「調子はどう?」

リリーは疲れた笑みを浮かべた。

「複雑な状況よ。物事の進み方が、思っていたよりずっと速くて」

ネイサンは眉を上げ、心配な色を隠せない。

「大丈夫?」

リリーはゆっくり頷いたが、本心は自分でも分からなかった。

「すべてについていくのに精いってるの。どんどん支配権を失っていくような気がして。マイケルとは考えが噛み合わないし、もう妥協し続けるのも限界かもしれない」

ネイサンは手を伸ばし、彼女の手をそっと握りしめた。

「すべてを妥協する必要はないよ、リリー。これは君の会社だ。君が一から築き上げたんだ。最終決定権を持つのは君なんだよ」

リリーは彼を見上げ、その言葉の重みを心に噛み締めた。

みんなを納得させようと、事業成長ばかりに気を取られ、自分がこの会社を立ち上げた原点を忘れかけていた。

これは自分の理念そのものだ。マイケルの手法が通用する場面もあるかもしれないが、カーター社を特別な存在にしているものを守らなければならない。

「この会社を自分らしくするものを失いたくないの」

リリーは静かにつぶやいた。

ネイサンは頷いた。

「失わせないさ。それを守り抜く強さを持てばいい」

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