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第 95 章 新たな進路

マイケルとの会議は、いつもより緊張感に満ちていた。

彼はオフィスに入ってくると、いつもの自信に満ちた歩き姿に、わずかな焦りが滲んでいた。

席に着くなり、タブレットでプレゼン資料を開いた。

「リリー、先四半期の業績指標を確認しました」

彼は切り出した。

「ヨーロッパ地域の展開は順調ですが、アジア太平洋地域の業績は伸び悩んでいます。マーケティング戦略を調整し、デジタルプラットフォームに一層力を入れる必要があります」

リリーは椅子にもたれ、腕を組んだ。

「その話は以前にも聞いたわ、マイケル。だけどこの会社の基盤は、単なるデジタル上の関わりではなく、人と人とのつながりに築かれているの。その原点を見失いたくない」

マイケルの目がわずかに細まった。

「会社の価値観にこだわるお気持ちは理解します。しかし現実的に考えなければなりません。変化に適応しなければ、競合に遅れをとるリリークが高まります」

リリーはテーブルの下で拳を握りしめ、感情を抑えようと努めた。

マイケルの言う通り、会社が競争力を保つには変化への適応が不可欠なのは分かっている。

だがカーター・エンタープライゼスの根幹を犠牲にするつもりはなかった。

「適応しないわけじゃない。ただ、根本の価値観を見失ってはいけないの。お客様は単なる商品を求めて私たちを選ぶのではない。体験と企業文化を求めてくださっているのよ」

リリーは落ち着いた声で言った。

「あなたの戦略を検討するつもりはある。ただ、我々の理念にどう沿わせるかを確認させてほしい」

マイケルは一瞬黙った後、わずかに頷いた。

「承知いたしました。その点を考慮して戦略を練り直します。ただ、あまり長く時間をかける余裕はありません」

部屋に重たい緊張感が漂った。

リリーは、マイケルの現実的な方針と自分の信念のバランスを取る方法を見つけなければならないと悟った。

もしそれができなければ、自分が築き上げたこの会社は、唯一無二の魅力を失ってしまうかもしれない。

会議が終わると、リリーの心に新たな使命感が宿った。

プライベートで厳しい選択をした今、仕事の面でも決断を下す時だ。

カーター社の価値観を守り抜くために闘うと同時に、会社の成長のため、一部の支配権は手放すことも覚悟しなければならない。

その夜遅く、家に戻るとネイサンが待っていた。

彼の瞳に宿る穏やかな支えの気持ちを見て、ずっと欠けていた安らぎを覚えた。

「一日どうだった?」

ネイサンは柔らかい声で問いかけた。

リリーは疲れた表情で微笑んだ。

「波乱の一日だったわ。でもやっと、バランスの取り方が分かり始めた気がする」

ネイサンは眉を上げ、好奇心を覗かせた。

「何と何のバランス?」

「支配と信頼のバランスよ」

リリーは答えた。

「会社のことも、私たち二人の関係もね」

ネイサンは控えめだが温かい笑みを浮かべた。

「君はもう、答えに近づいているよ」

リリーは頷き、肩の重圧がすっと軽くなった気がした。

すべての答えを持っているわけではないし、未来がどうなるかも分からない。

だが長い間、初めて自分が正しい道を進んでいるように感じた。

「辛抱強く待っていてくれて、ありがとう」

リリーは柔らかく囁き、彼の手を握った。

ネイサンはそっと手を握り返した。

「ずっと、君のそばにいるよ」

二人が並んで座ると、外の世界の困難も少し恐ろしく感じなくなった。

仕事であれ、プライベートであれ、これから訪れるどんな出来事も、二人なら共に立ち向かっていける。


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