第 91 章 支配権の代償
日々が過ぎ、リリーは自身の直感と取締役会からの圧力の間で、絶え間ない綱引きに巻き込まれていた。
マイケル・ハリントンの就任案に抵抗すればするほど、取締役会はますます強引に推し進めようとする。
一日一日が過ぎるたびに、身を囲む壁が迫り詰めてくるような息苦しさを覚えた。
心の底では、どれほど抵抗しようともサラの言葉が正しいことをリリーは悟っていた。
もう一人ですべてを担うことは不可能だ。会社はあまりに規模を拡大し、賭けの額も大きくなりすぎている。
マイケル・ハリントンのような、国際展開を導く豊富な経験を持つ人材を迎え入れることは、決して悪い選択ではないのかもしれない —— そう思い始めていた。
その瞬間、決断の重圧がリリーの心に強く突き刺さった。
前に進むためには、自分の一部を犠牲にしなければならないのだと。
これまで最大の強みであった絶対的な支配権を、これからは他人と分かち合わなければならない。
そしてリリーは悟った。
真のリーダーシップとは権力を握りしめ続けることではなく、全体のためにいつ手を放すかを見極めることだと。
翌日、彼女は取締役会を招集した。
「じっくり考えました」
リリーは落ち着いた声で言った。
「マイケル・ハリントン氏の就任を受け入れます。ただ一つだけはっきりさせておきたい。経営の最終権限は私にある。この会社は常に私の理念のもとにあり、最終決定権はいつでも私が持つということを」
会議室に一瞬の沈黙が訪れた。
ダニエル・リーブスは驚きと賛同を混ぜた表情で彼女を見つめ、頷いた。
「妥当な立場だ。この条件で話を進めよう」
会議が終わった後も、リリーは何かが変わってしまったような違和感を拭えなかった。
自分は折れ、妥協したのだ。
会社にとっては前進の一歩でも、彼女自身にとってはわずかな後退のように感じられた。
その夜、自分の決断をネイサンに話そうと家に帰った。
だがアパートに入ると、カウンターに置かれた手紙が目に入った。
ネイサンからの置き手紙だった。
「数日間、実家に帰って家族に会ってきます。一人で考える時間が必要になりました。すぐに戻ります。愛を込めて ネイサン」
リリーは長い間その場に立ち尽くし、文字の重みを心に噛み締めた。
こんな形で距離を置くなんて思いもしなかった。
だがよく考えれば、予感していた結末なのかもしれない。




