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第 90 章 静かな抵抗

翌朝、リリーは骨の髄まで重たい倦怠感を抱えたまま目を覚ました。

マイケル・ハリントンの人事に関する決断を迫られる問題は、迫り来る嵐のように彼女を覆い尽くしていた。

これは単なる経営上の決断ではない。権力、信頼、そして自ら一から築き上げた会社の支配権を守れるかどうかの分かれ道だった。

誰も出勤していない早朝、彼女はいち早くオフィスに向かった。

誰もいない静かな廊下は、ある意味心落ち着かせる反面、落ち着かない気分にもさせた。

邪魔が入らない分、考えをまとめやすいが、この静けさの中で自分がどれほど孤立しているかを痛感せずにはいられなかった。

チームは近いうちに彼女の答えを待ち望んでいる。マイケル・ハリントンを迎え入れるか否か、最終決断を下す時を待っていた。

この人事案を強く推すダニエル・リーブスは、もし彼女が迅速に行動しなければ、取締役会が彼女を抜きに議案を強行採決する可能性が高いと明言していた。

リリーは選択を迫られていた。

だがその選択は、まるで罠にかけられたように思えた。

オフィスのドアが開き、サラが入ってきた。何かを悟ったような表情でリリーを見つめる。

「今朝はずっと黙って考え込んでいるわね」

サラが言った。

「ハリントンの件でまだ悩んでいるの?」

リリーはゆっくり頷いた。

「どうすればいいのか分からないわ、サラ。彼らは私を追い出そうとしているようにしか思えないの」

サラの表情が柔らかくなった。

「そういうつもりじゃないと思う。彼らは会社の成功を願っていて、この人事がプラスになると信じているだけ。だからといって、あなたが慎重になる権利は当然あるわ」

「支配権を手放したくないの」

リリーは不満を滲ませた口調で言った。

「これは私の会社よ。私が築き上げたものなの。それなのに、もう一人で経営できないなんて言われるなんて」

「気持ちは分かるわ」

サラは向かいに座って言った。

「でも覚えて。リーダーシップとは、何もかも自分でこなすことじゃない。いつ業務を任せ、理念を実現するために他人を信じるかを見極めることなの。以前のあなたなら、助けを求めることを恐れたりしなかったはずよ」

リリーの視線が強くなった。

「でも今回は違うの。これは助けじゃない。私の立場を奪おうとしているのよ」

サラはためらった。

「簡単な決断じゃないわ。でも、無理に抵抗し続けるほうが、長い目で見て自分を苦しめることになるかもしれない。もう一人で全部を抱え込むのは限界なのよ。マイケルを迎え入れることが、あなたの交代ではなく、本来得意な理念構築や戦略立案に集中する自由を与えてくれるのかもしれないわ」

リリーは立ち上がり、部屋の中を歩き回った。

追い詰められているような感覚が嫌でたまらなかった。

会社の拡大はあまりに急激で、その要求についていけるか不安だ。

だが同時に、支配権を手放すことは、自分が必死に守り抜いてきた存在意義を失うように思えた。

長い沈黙の後、彼女は足を止めた。

「もう少し時間が必要。今すぐ決断なんてできないわ」

サラは優しく頷いた。

「納得いくまで時間をかければいい。ただ、プレッシャーに流されて後悔する選択だけはしないで」

その夜、交渉や決断に費やした長い一日を終え、リリーは家に戻った。頭の中は相反する思いで渦を巻いていた。

玄関を入ると、ソファに座って待つネイサンの姿があった。

彼の瞳は疲れを宿しつつ、先日の会話をずっと考え続けていたことが伝わる、静かな強い思いが滲んでいた。

「ずっと私を避けているね」

ネイサンは柔らかく、心配と傷つきを混ぜた口調で言った。

リリーはカバンを置き、隣に座ってクッションに身を沈めた。

「ごめんなさい。ただ…… どうすればいいのか本当に分からないの」

「会社のことで悩んでいるの?」

ネイサンは彼女の方を向いて問いかけた。

「全部のことよ」

リリーは答えた。

「取締役会との対立だけじゃない。自分自身にも迷っているの。正しい選択ができているか分からない。もう私にこの役目は務まらないのかもしれないって」

ネイサンは彼女の手をそっと握った。

「リリー、君にしか務まらない。この会社が今必要としているリーダーは、間違いなく君だよ。でも、この重圧を一人で背負う必要はない。私がずっとそばで支える。君がどんな決断をしようと、私は味方だ」

リリーは不安を宿した瞳で彼を見つめた。

「でももし私が間違っていたら? すべての支配権を失ってしまったら?」

ネイサンは首を振った。

「支配権を失っているんじゃない。ただ他人を信じることを学んでいるだけだよ。自分一人を超える大きなものを築くには、時には手綱を少し委ねることも必要なんだ」

リリーは喉につかえるものを感じた。

ネイサンの言葉が正しいことは分かっていた。

もう一人で何もかもこなすことはできない。

だが手綱を委ねることは、諦めるような、自分には力が足りないと認めるような気がしてならなかった。

「もう少しだけ、考える時間が欲しいの」

リリーはかろうじて聞こえる細い声で言った。

ネイサンは頷いた。

「ゆっくり考えればいい。ただ、私を遠ざけないで。二人で共に乗り越えよう」

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