第 23 章:崩れゆく土台
その後数日間、リリーは朦朧とした日々を過ごした。重圧は日に日に増し、もうすぐ人生を左右する重大な決断を下さなければならないことを彼女は悟っていた。ヴィンスからの提案は心に重くのしかかり、思い出すたびに胃が締めつけられるような嫌な感覚に襲われた。
なぜ父親がこれほど無謀な選択を繰り返したのか、彼女には理解できなかった。もしヴィンスのような人間と深く関わらなければ、こんな事態にはならなかったはずだ。しかし現実として、彼女はもうこの問題に深く巻き込まれ、後戻りはできなくなっていた。
ほとんど眠れぬ夜が続き、頭の中は迫り来る選択肢で埋め尽くされていた。静かな執務室の中で、すべてが崩れ落ちる前に撮られた、幼い頃の自分と父親の額縁入り写真を見つめる時間が増えた。スキャンダルも、親子の溝も生まれる前、父親は彼女にとって偉大な存在だった日々が蘇る。かつて彼女は父親を慕い、心から信頼していた。そして今、壊れてしまった残骸を整理するのは自分一人だ。
机の上のスマートフォンがブルブルと震え、考え事から引き戻された。画面を見ると母親からのメッセージだった。
「話があるわ。お父さんの体調が急激に悪化しているの。ずっとあなたに会いたがっている」
リリーは息を飲んだ。逮捕以来、一度も父親と話していなかった。再び顔を合わせることを思うと、複雑な感情が押し寄せた。これまで支え、助けようと頑張ってきた。だがこれからも父親の側に立ち続けられるだろうか。父親の身から出た災いを救うため、自分が築き上げたすべてを犠牲にできるだろうか。
震える手で母親の番号をダイヤルする。電話に出た母親の声には、明らかな切迫感が滲んでいた。
「リリー、今すぐ来て。お父さんはずっとあなたのことを呼び続けているわ。もう持ちこたえるのがやっとの状態なの」
強い罪悪感がリリーを襲った。スキャンダルと仕事の重圧に囚われ、父親のことを疎かにしてしまっていた。数々の過ちを犯したとはいえ、彼は紛れもなく自分の父親であり、今はただ娘の姿を求めている。
「すぐに向かうわ」
リリーは掠れた声で答えた。
病院に到着し、ベッドに横たわる父親の姿を目にした瞬間、強い衝撃が彼女を襲った。かつて堂々としていた面影は消え失せ、見慣れた父親とは別人のように弱々しく、儚い姿になっていた。くぼんだ瞳でこちらを見上げ、顔はやつれ、疲れ切っている。
「リリー……」
しゃがれた声で、細く囁いた。
「ごめん。全部、めちゃくちゃにしてしまった」
リリーは深く息を吸い、ベッドの脇に腰を下ろし、溢れそうになる涙を堪えた。
「たくさん間違えたわ、お父さん。でも今は私がここにいる。事態を収拾しようと頑張っている。できる限りのことをするわ」
父親の瞳に涙が浮かんだ。
「お前に助けてもらう資格なんてない。何一つ、当然の権利などない。だけど知っていてほしい…… 私はお前を誇りに思っている、リリー。何があろうと、ずっと」
喉に詰まるものを感じ、リリーは唇を噛んだ。
「今のあなたを誇りには思えないわ。だからといって、見捨てたりはしない」
弱々しい父親の手を握りしめ、そこに座り続けるうち、リリーはこれまで何よりも心に突き刺さる真実に気づいた。長年、世界に自分の価値を証明し、独り立ちして何かを築こうと必死になってきた。だが最も大切なのは、血の繋がった家族なのだ。父親は数多くの場面で彼女を裏切り、失望させてきた。それでも彼は自分の家族であり、どれほど傷つけられようとも、今この瞬間、背を向けることはできなかった。




