第 21 章 深みにはまり
その後の日々は、電話のやり取り、会議、そして絶えない緊張感に塗りつぶされ、ぼんやりと過ぎ去った。リリーの父親は詐欺と資金洗浄の容疑で逮捕され、状況は刻々と悪化し続けていた。当局は既に資産の差し押さえを開始し、メディアもこのスキャンダルの情報を嗅ぎつけ始めていた。リリーが事態を先回りして抑えようと頑張れば頑張るほど、すべてが指の間からこぼれ落ちていくように感じた。
ネイサンはずっと側にいて支えてくれ、あらゆる事務を手助けしてくれた。彼は法曹界に強い人脈を持っており、父親のために最高クラスの弁護士たちに連絡を取った。しかしネイサンの助力があったとしても、状況は絶望的だった。リリーはいつも、どんな問題も自分一人で処理できる強さを誇りにしていたが、今回の事態は彼女の手に負えないものだった。
長時間立て続けに会議が続いたある夕暮れ、リリーは執務室に座り込み、机の上に積み上がった書類の山を眺めていた。疲労が極限に達し、睡眠不足で瞼は重く垂れている。父親が引き起こした厄災の重圧が全身にのしかかり、もういつまで平常心を保てるか分からなかった。
執務室の扉が開き、ネイサンが部屋に入ってきた。私服の軽い服装だが、表情は厳しく引き締まっていた。
「話がある」
低い声で彼は言った。
リリーは顔を上げ、こめかみを擦りながら答えた。
「分かってる。でもネイサン、今はもうこれ以上話し合う元気がないの」
彼は彼女の元へ歩み寄り、机の真正面に立った。
「君の気持ちは分かっている。だが、この問題から逃れ続けるわけにはいかない。君は自分をすり減らし、私を遠ざけている。そしてこれは父親の問題だけではなく、私たち二人の関係をも蝕んでいる」
リリーの胸に鋭い痛みが走った。彼の言葉が真実であることは、自分自身が一番分かっていた。彼女はずっと彼を冷たく拒絶し、家族のトラブルに囚われ、二人の絆を傷つけてきた。だが数々の辛い出来事を経験した今、簡単に弱さを見せ、他人に頼ることを許せなかった。
「もう何も頑張れないわ、ネイサン」
声が震え、途切れがちになる。
「私はもうギリギリまで追い詰められている。仕事も家族も、すべてが崩れ落ちていく。この壊れた状況を修復できるか、もう分からない」
ネイサンは彼女の前にしゃがみ込み、そっと彼女の両手を包んだ。その手の温もりと穏やかな安定感が、混乱した彼女の心を現実へと引き戻す。
「私は君に、すべてを一人で直せとは言っていない。完璧でいる必要なんてない、リリー。この全ての重荷を、一人で背負い込む必要もない」
リリーは彼の瞳をじっと見つめ、そこに宿る真心と優しさを感じ取った。
「あなたをがっかりさせたくないの」
細い声で囁いた。
ネイサンの表情は柔らかく緩んだ。
「がっかりすることなどない。もう君は一人じゃない。二人で共にこの困難を乗り越えよう。ただ、心の扉を開き、私を信じてくれればいい」
リリーは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。これまでずっと「強い自分」を誇りにし、誰にも頼らず生きてきた。だがもしかしたら、そんな独りよがりな幻想を手放す時が来たのかもしれない。
目を開け、ネイサンの視線とまっすぐに向き合う。
「あなたを信じる。そして…… 私はあなたが必要なの」
ネイサンは優しく微笑み、瞳に宿る温もりが部屋の張り詰めた空気を和らげた。彼は立ち上がり、そっと彼女を腕に抱きしめた。長い年月ぶりに、リリーは心を許して彼の胸に身を委ね、頭を寄り添わせた。未来に何が待ち受けているかは誰にも分からない。だけど今、初めて、ネイサンが隣にいる限り、どんな未来も立ち向かえる――そう思えた。




