第 19 章:崩壊の余波
その後の日々は、ぼんやりとしたものだった。
リリーはネイサンに自身の抱える問題を打ち明け、父のトラブルを乗り越えるため支えてもらうことで、肩の荷が少し下りた気がした。二人は共に弁護士と面談し、債権者と話し合い、関わりのある危険な人物たちとの交渉にも臨んだ。状況は絶望的だったが、ネイサンがそばにいることで、今までにない安定感を得られた。彼は無理な決断を迫ることはなく、ただ一人で背負い込まなくていいと、いつも彼女に伝えてくれた。
だが日が経つにつれ、事態はさらに複雑化していった。
立ち直ると約束したはずの父は、相変わらず無謀な行動を繰り返していた。古い取引相手で、素行の悪い投資家ヴィンスと新たな契約を結んでしまい、今や相手はリリーに用意できるはずもない多額の金銭を要求してきた。
ある午後、リリーは父のアパートに座り、山積みの法的書類を眺めていた。
緊迫した債権者との話し合いを終え、ネイサンが立ち去った直後。再び一人になった彼女は、すべての重圧に押しつぶされそうになっていた。テーブルのスマホが震え、手に取る。画面に表示された名前を見た瞬間、心が沈んだ。差出人はヴィンスだ。
一瞬ためらったものの、もう逃れられないと悟り、電話に出た。
「ヴィンス様」
動揺を抑え、落ち着いた声を装う。
「カーター嬢」
ヴィンスの物腰の柔らかい声の奥には、明らかな脅迫が潜んでいた。
「お忙しいのは分かっている。だが、契約条件を確定させる必要がある。はっきり言おう――要求に応じなければ、こちらも別の手段を取るしかない」
リリーの背筋に冷たい悪寒が走った。
父の身勝手な行いがいつか自分に返ってくると予感していたが、今や彼女が積み上げてきたすべてが脅かされている。仕事のプロジェクト、評判、キャリア…… あらゆるものが危うい瀬戸際に立っていた。
「今週末までに、金銭を用意いたします」
わずかに震える声を抑え、自信を装って告げる。
「お約束します」
ヴィンスは笑った。その笑い声は、リリーに強い恐怖を与えた。
「言葉だけで済むかどうか、見せてもらおう。必ず用意してもらう。忘れるな、時間を無駄にする人間には容赦しない」
通話が切れ、リリーはしばらく座り込んだまま、彼の言葉の重みを噛み締めた。
自分一人では、到底要求に応えられない。ネイサンに頼るしかない。だがそれは、彼を家族の厄介事にさらに深く巻き込むことを意味する。彼女はまだ、その覚悟ができていなかった。
ネイサンの番号をかけようとした瞬間、スマホが再び震えた。
今度は母からのメッセージだった。
「話がある。お父さんが連行されたわ」
リリーの心は一気に落ち込んだ。
いつかこの日が来ると分かっていたはずなのに、文字で目の当たりにすると、現実の残酷さが突き刺さる。父の窮状は想像以上に深刻で、その悪影響がついに自分の生活にも及んできた。ひたすら父を救おうと奔走してきたせいで、事態がここまで悪化していたことに、気づかなかったのだ。




