第 17 章:選択と代償
その後の数日は、まるで朦朧とした日々だった。リリーは長時間をかけて父の弁護士と連携し、失敗した取引による損害を抑えるための対策を練り上げていた。肉体的にも精神的にも消耗しきっていた。キャリア、キャンペーンの重圧、そして突如降りかかった父の危機――すべてを抱え込み、心身ともに限界が迫っていた。
ネイサンは何度も連絡を寄せてきたが、リリーは毎回はぐらかしてきた。今は二人の関係に気を割く余裕などなかった。家族の問題、仕事、父の厄介事が、彼女の起きている時間のすべてを飲み込んでいた。
だが木曜日の午後、ネイサンは予告なく彼女のオフィスに姿を現した。彼が入ってくる気配に気づかなかったリリーが顔を上げると、ドアの入り口に彼が立っていた。
「俺を避けているな」
ネイサンは穏やかな口調ながら、底に鋭い棘を含ませて言った。
リリーはペンを置き、彼を見つめ返す。
「避けているわけじゃない。ただ、今は抱えている問題が多すぎるだけ」
彼は部屋の中へ歩み入り、後ろ手にドアを閉めた。
「状況は理解している。だが、このまま逃げ続けることはできない、リリー。他の問題に追われるからといって、俺を拒絶し続けるのは違う。俺たちの関係について、きちんと話し合う必要がある。今の二人の立ち位置を、はっきりさせなければならない」
リリーは立ち上がり、抑えきれない苛立ちが溢れ出した。
「あなたには分からない。父は窮地に立たされ、私の意思に関わらず、助けざるを得ない状況に追い込まれているの。こんな状況で――」
彼女は二人の間を手で示した。
「私たちのことなんて考えられない。周囲が崩れ落ちていく今、恋なんて向き合えない」
ネイサンの瞳は柔らかく緩み、ゆっくりと近づいてくる。
「君が一人ですべてを背負ってきた苦しみは、思うよりずっと理解している。だが、無理をして一人で頑張る必要はないんだ」
リリーは一歩下がり、首を振った。
「助けを求めているわけじゃない。何も求めていないの、ネイサン」
ネイサンの表情はわずかに引き締まったものの、声の優しさは変わらない。
「頼まれなくても、支えたいと思っている。俺はここにいる。もし俺たちの絆が君にとって意味のあるものなら、もう逃げるのをやめてくれ」
彼の言葉の重みが、じんわりと心に染み込んでくる。確かに自分はずっと逃げ続けてきた。募る感情から、彼との関係から、そして父が引き起こした混乱から目を逸らし続けてきた。
だが心の奥底では、ネイサンの言葉が正しいと分かっていた。何もかも一人で抱え込めるふりをし続けることは、もうできない。
「ごめんなさい」
震える声で囁いた。
「ただ、ずっと怖かったの。すべてを失うのが、誰かに心を許すのが怖かった」
ネイサンは手を伸ばし、彼女の頬を優しく包み込む。
「もう怖がる必要はない、リリー。俺と一緒なら大丈夫。二人で、一緒に乗り越えていこう」
数日ぶりに、リリーの心に微かな希望の灯火が宿った。すべてを両立させる方法はまだ分からない。だけどネイサンがそばにいてくれるなら、もしかしたら――本当に、きっと乗り越えられるかもしれない。




