第 132 章 時間との闘い
時は刻一刻と過ぎていく。リリーに与えられたサンパウロの現地パートナー探しの猶予は、正確に二ヶ月しかない。日が経つにつれ、任務はますます困難に思えてきた。取締役会からの圧力は息が詰まるほど強く、予測不能な市場への進出に伴うリスクは、彼女の心に重くのしかかっていた。
既に複数の現地企業に接触を試みたが、多くは慎重な態度を崩さなかった。積極的な成長計画を持つ外資企業と提携することに、懸念を抱いているのだ。中には前向きな企業もあったが、それぞれ自分たちの思惑を優先させるため、カーター企業の長期的なビジョンを共有できるパートナーを見つけるのは難しかった。
リリーは机に座り、候補企業リストをもう一度精査していた。どの相手も完璧な適合先とは思えない。規模が小さく影響力に欠ける企業もあれば、政治的な人脈を強く持ちすぎ、汚職や不道徳な商慣習に巻き込まれる恐れのある企業もある。彼女が求めていたのは、持続可能で倫理的な経営を共に目指せるパートナーだ。だが日が経つごとに、候補リストは減る一方だった。
「リリー、リカルドさんからまた電話が入ってるわ」
サラがドアから顔を覗かせて告げた。
リカルドの名前を聞いた瞬間、リリーの瞳に期待の光が宿った。リカルド・コスタはサンパウロで信望の厚い実業家で、厳格な性格で知られる一方、揺るぎない誠実さを持つ人物としても有名だ。数ヶ月前の交流会で一度だけ短く挨拶を交わしたきり、それ以来連絡は取っていなかった。
リリーは呼吸を整え、電話を取った。
「リカルドさん、お電話嬉しいです。どのようなご用件でしょう?」
電話の向こうから、リカルドの落ち着いて自信に満ちた声が響いてきた。
「リリー、カーター企業の動向をずっと注目してきた。サンパウロで共に事業を展開する好機があると感じ、連絡した。身近なパートナーたちとも話し合った結果、提携の可能性について話し合いたいと思っている」
リリーの鼓動が一瞬速まった。待ち望んだ突破口が、ついに訪れたのだろうか。
「非常に有望なお話ですね」
内心の高揚を抑え、淡々とした口調で答える。
「具体的にどのようなご提案でしょう?」
「我々は市場の動きを細かく分析してきた」
リカルドは続けた。
「盤石な基盤を整えれば、二人三脚でサンパウロに参入できる。こちらに強力な人脈ネットワークがあるし、我々の商売の姿勢も、貴社が掲げる持続可能性の理念と一致している。ただ、時間をかける余裕はない。早く動く必要がある」
リリーの心に希望の火が灯った。リカルド・コスタこそ、自分が探し求めていた理想のパートナーかもしれない。だが慎重な検討もせず、安易に決断を下すわけにはいかないことも分かっていた。
「では近いうちにお会いしましょう。詳細を直接話し合いたいです」
胸に膨らむ期待を抑え、プロとして距離を保ちながら、リリーは穏やかに答えた。




