# 第124章 反発とせめぎ合い
張り詰めた取締役会の後、リリーは眠れない夜を幾晩も過ごし、打開策を探し続けていた。サンパウロ進出延期の決定は根強い反発を招いたが、ここで引き下がるわけにはいかない。カーター企業は誠実さを土台に築かれてきたのであり、一時の勝利のためにその基盤を崩すわけにはいかない。だが企業の未来を担う重圧は、日に日に増していくばかりだった。
翌朝、リリーは取締役会長ダニエルから予期せぬ電話を受けた。
「リリー、話がある」
電話越しの声は、前回の険しい口調とは違い、幾分穏やかになっていた。
「君の言い分を考え直した。君の考えの出発点は理解できる。だが競争の激烈な業界である現実は無視的きない。他社は急速に動き出しており、我々は置いていかれつつあるんだ」
リリーは深く息を吸った。こうした連絡が来ることは予想していた。
「気持ちは分かります、ダニエル。だが私は自分の決断を曲げません。準備の整っていない市場に無理に踏み込むのは避けたいのです。スピードだけでなく、賢い戦い方が重要なのです」
電話の向こうで一瞬間が空き、ダニエルが再び口を開いた。
「君の言う通りだ。だが解決策として、何を提案する? いつまでも足踏みを続けるわけにはいかない」
リリーはこの質問を予期していた。理念を決して犠牲にせず、前に進む道を一晩かけて練り上げてきた。
「ペースは緩めても、他の分野の取り組みは強化することを提案します」
リリーは自信を持って答えた。
「まず北米とヨーロッパでの地位を磐石に固めましょう。持続可能な事業への投資や地域社会との連携を一層推し進めるのです。盤石な基盤を築けば、新興市場へもより強い支えを持って進出できる。そして何より、信頼できるパートナーを見極めて臨めるようになります」
ダニエルはしばらく黙って、彼女の言葉を吟味していた。
「リスクのある方針だ。だが取締役会に持ちかけ、議論してみよう。ただ覚えておけ——早く成果が見えなければ、体制そのものが変わる可能性もある」
リリーの心は沈んだが、他に選択肢はないことを分かっていた。多少のリスクを覚悟しても、自分のビジョンに忠実であり続けなければならない。
「承知いたしました、ダニエル。この方針を実らせるため、全力を尽くします」
電話を切ると、リリーは安堵と不安が入り混じった心境になった。新たな戦略へ一歩踏み出せたものの、前途の行く先は依然として不確かなままだ。




