# 第122章 延期がもたらす代償
サンパウロ進出延期の決定は、取締役会から即座の反発を招いた。リリーは反対意見を予想してはいたものの、これほど強い激しい反応には覚悟もできていなかった。
翌朝、リリーは役員室に座り、険しい表情の役員たちを前に臨んでいた。部屋の空気は張り詰め、重い雰囲気に包まれている。投資家と取締役が一堂に会し、延期の理由をリリーに問いただそうとしていた。
「自分の置かれた立場は分かっているだろう、リリー」
取締役会長のダニエルが冷たい口調で切り出した。
「我々はずっと成果を約束してきた。サンパウロは戦略の要だった。なのに関税や行政規制を理由に、計画全体を先送りにするなど論外だ。この決断は会社に大きな損害をもたらす」
リリーは深く息を吸い、頭の中で言葉を整理した。準備はしてきたつもりでも、真正面から責められると、現実の重圧が一層強く胸に迫る。
「圧力は十分理解しています、ダニエル。だけど無理に進出を急ぐわけにはいきません。リスクが高すぎるのです。サンパウロの政治情勢は不安定で、他市場で強引な施策が招いた弊害も既に目にしています。戦略を立て直す必要があるのです」
役員たちが互いに視線を交わし、部屋は一瞬静まり返った。やがて最高財務責任者のカレンが声を上げた。
「リリー、ブランドを守ろうとする気持ちは分かる。だが現実を見れば、我々は利益を追求する企業だ。サ0ンパウロを延期すれば貴重な時間と将来の収益を失う。競合は我々の立て直しを待ってはくれない」
リリーの指がテーブルの縁を強く握り締めた。この主張は予想していたが、やはり胸に刺さる思いがした。
「短期の利益のために、理念を犠牲にするつもりはありません。成長戦略は長期的なビジョンに沿わせなければならない。これらの市場で長く成功したいなら、正しいやり方で進出することが必須です。それはペースを緩め、戦略を練り、信頼できるパートナーを見極めることを意味します」
ダニエルは身を乗り出し、口調を鋭くした。
「だが時間の猶予がないとしたらどうする? 競合に先を越されたら? 投資家がいつまでも待ってくれないことは、君も分かっているはずだ」
「そのことは承知しています」
リリーは揺るぎない声で答えた。
「だが私は、これまで築き上げてきたものを信じています。一時の利益のために、企業の信頼と名声を犠牲にするつもりはありません」
長い沈黙が訪れた後、取締役たちはひそひそと私語を交わし始めた。リリーの言い分は伝えきったが、これからの道のりが一層困難になることは明白だ。自分の決断がカーター企業のためだけでなく、未来のためにも正しい選択であることを、彼らを納得させなければならない。




