第 120 章 転機
取締役会からの圧力は容赦なく押し寄せていた。リリーは膨大な時間を費やして戦略を見直し、アフリカや南米の現地パートナーと会談し、カーター企業の歩みが軌道に乗り続けるよう尽力してきた。だが全力を尽くしても、困難は積み重なるばかり。進出予定の複数国では政治情勢が不安定になり、規制上の問題も生じ、事業拡大の進行は予想以上に遅れていた。
スマホが再び震えた。サラからの最新状況報告だ。
「リリー、サンパウロの状況がさらに悪化している。政府が海外投資に新たな関税を導入し、現地パートナーからは前払い金の増額を要求されている。両方から締め付けられている状況だ」
リリーはメッセージを読み、苛立ちが押し寄せるのを感じた。物事の進行はあまりに緩慢で、自分が何をしても障壁は乗り越えられない壁のように立ちはだかる。
机に飾られた、ネイサンとの記念写真に目を落とした。数ヶ月前に海辺へ小旅行に行った時の一枚で、二人は浜辺で心から笑い合っている。カーター企業の世界展開の重圧にすべてを奪われる前の、純粋な幸せに満ちたひと時だった。
リリーはもともと困難を糧に前に進むタイプの人間だった。だが今、自分の器を超える負担を背負い込んでしまったのではないかと、初めて思い悩んだ。
「リリー、話があるの」
サラが心配な面持ちでオフィスに入ってきた。
「サンパウロの案件…… いったん手を引いた方がいいと思う」
リリーはすぐに顔を上げず、ただ頷いた。
「分かってる。ずっと考えていた。この契約のために、これまで守り続けた理念を犠牲にしたくないの」
「その通りだわ」
サラは同意した。
「だけど取締役会の圧力は熾烈を極めている。もっと強引な行動を迫られており、いつまで抑えられるか分からない。会社には成果が必要なの。これ以上遅らせれば、競合に市場の主導権を奪われてしまう」
リリーはため息をつき、ついに顔を上げた。
「築き上げてきたすべてを揺るがすような契約に、無理に踏み切るつもりはない。だからといって、立ち止まり続けるわけにもいかないのは分かってる。今夜ネイサンと話し合って、早く決断を下すわ」




