表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
115/180

第 115 章 静かなひと時に心をつなぐ

ネイサンは七時ぴったりにリリーを迎えに来た。二人が大好きな風情あるイタリア料理店へ車を走らせる間、リリーの心に安堵感が押し寄せた。夕食を共にし、語らい、笑い合う——いつもの穏やかな時間は、オフィスの絶え間ないストレスを癒してくれる、かけがえのないひと時だった。


店内の落ち着いた窓際の角の席、二人のお気に入りの場所に腰を下ろした。レストランは静かで、穏やかな音楽が背景に流れている。この心地よい空間に包まれ、リリーはこうしたささやかな幸せな時間を、どれほど長く疎かにしてきたかを痛感した。


「会社の方はどう?」

ネイサンは軽い口調で問いかけるものの、瞳の奥には心配の色が宿っていた。


リリーはため息をつき、椅子にもたれた。

「正直、もういっぱいいっぱいなの、ネイサン。業績は前進してるけど、ずっと走り続けてる気がして。成し遂げることが増えるほど、やらなきゃいけないことも膨らんでいく。時々、自分が正しい方向に進んでいるのか分からなくなるの」


ネイサンはテーブル越しに手を伸ばし、彼女の手を優しく包み込んだ。

「君は本当によく頑張ってるよ。どれほど全力を尽くし、どれほど心を砕いているか、僕にはちゃんと見えてる。だけど自分自身も大切にしなきゃ。何もかも一人で抱え込む必要はないんだ」


リリーは彼の瞳を見つめ、胸が詰まる思いに駆られた。会社のことばかりに没頭し、自分の価値を証明しようと躍起になるあまり、いつも自分の支えとなってくれた大切な人を、疎かにしてきたことを悔いた。


「会社の成長ばかりに気を取られ、私……私たちのことを忘れてしまってた」

彼女は静かに打ち明けた。

「頑張り続けなければ、これまで積み上げてきたものを失ってしまう気がして怖いの。だけどそのせいで、本当に大切なものを見失いかけてる」


ネイサンは彼女の手をそっと握りしめた。

「選ぶ必要なんてないよ、リリー。君はカーター企業の心でありながら、僕の恋人でもある。二人で一緒に道を探せばいい。重圧を一人で背負うことはないんだ」


リリーは微笑み、肩の力が少し抜けた。この瞬間、ネイサンはずっと変わらずそばにいてくれた——順調な時も、苦しい時も。彼の揺るぎない支えを当たり前のものと思い込んできたが、今や自分の幸せにとって、彼がどれほど必要不可欠な存在かを心から理解した。


「私たちの絆を失いたくないの」

細い声で囁く。

「だけど会社も裏切れない。いつも何かに引っ張られ、心があちこちに引き裂かれるような気がするの」


ネイサンは穏やかに頷いた。

「気持ちは分かる。だけどどちらかを犠牲にする必要はない。仕事も二人の時間も、どちらも手に入れられるよ。大切なのは均衡を見つけること。一歩ずつ、ゆっくり進めていけばいい」


夕食を終え、駐車場まで歩く道すがら、リリーの心には再び澄んだ思いが宿った。この道のりを一人で進むわけではない。ネイサンがいつも支えてくれ、自分もまた彼のそばにいる。二人で築き上げたかけがえのない絆は、仕事の重圧などで奪われるものではないのだ。


アパートへ向かう車の中、ネイサンは思い巡らすような表情でリリーの方を向いた。


「変に聞こえるかもしれないけど……少し休みを取ることを考えたことはある? ほんの数日でいいんだ。大掛かりな旅行じゃなくても構わない。静かな場所へ行って、心身を癒やし、ゆっくり考える時間を作ろう。会社は君にとって大切なものだけど、立ち止まって息をつかずに走り続けることはできないよ」


リリーは彼の言葉を噛み締めた。休暇——本当の意味で休むことを許してから、随分長い時間が経っていた。少しの間すべてから離れるという考えは、心惹かれる反面、不安も感じた。だがきっと、自分の視点を取り戻すために、今こそ必要な時間なのかもしれない。


「……少し休みが必要なのかもしれないわ」

ゆっくりと答える。

「ほんの数日でいい。すべてから離れて、休みたい」


ネイサンは優しく微笑んだ。

「全部手配するから。君はゆっくり休むだけでいい。頑張ってきた分、休む価値は十分にあるんだよ」


アパートに到着した時、リリーはここ数週間味わえなかった**穏やかな心**を取り戻していた。決断は容易ではなかったが、自分にとって正しい選択だと確信できた。一歩立ち止まり、心身を癒やし、自分自身と、そしてネイサンとの絆をもう一度見つめ直す時が来たのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ