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45歳。転移、若返り、強くなる!  作者: ユーマ


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7話


鐘の音が鳴り響く中、三人は鉱山へ向かって走っていた。


石畳を抜け、街外れへ出る。


山肌を削って作られた巨大な採掘場。

黒い煙が、ゆっくりと空へ伸びている。


「最近は鉱山の周りで魔物が増えてるの」


走りながらエレナが言う。


「前は森の奥だけだったのに、今は街の近くまで来る。しかも数も多い」


軽い口調のまま。


でも、目だけは真剣だった。



ナキが少し遅れながらもついてくる。


「ナキ」


ユーマが振り返る。


「無理するな。危なくなったら下がれ」


「……やだ」


ナキは首を振る。


「逃げ遅れた人がいたら、放っておけない」


少しだけ息を切らしながらも、目は逸らさない。


ユーマは一瞬だけ見て、頷いた。


「分かった。でも、無茶はするな」


「うん」



その時。


遠くから、低い咆哮が響いた。


空気が震える。


(……いるな)



鉱山入口。


すでに戦いは始まっていた。


自警団が槍を構え、必死に押し返している。


だが——押されている。


魔狼が五匹。


そのうち四匹は通常個体。


そして——


一匹だけ、違う。


黒ずんだ毛並み。

濁った赤い目。

不自然に膨れ上がった筋肉。


体の奥で、何かが脈打っている。


「……あれか」


エレナの声が低くなる。



大狼が前脚を振るう。


自警団の男が吹き飛ぶ。


地面を転がる。


「下がって!」


エレナが杖を振る。


青白い魔法陣が展開し、光弾が放たれる。


二匹の動きを止める。


その一瞬。


ユーマはもう動いていた。



——速い。


誰の目にも、追えない。


気づいた時には、魔狼の群れの中にいた。


一匹目。


牙が届く前に、刃が走る。


浅く斬る。


止めない。


その“次”で、断つ。


二匹目。


前脚を断ち、体勢を崩す。


三匹目。


喉元を、正確に切り裂く。


無駄がない。


迷いもない。


ほんの数秒。


三匹が崩れ落ちる。



背後。


気配。


振り向かない。


半歩ずらす。


牙が空を切る。


そのまま拳を叩き込む。


鈍い音。


魔狼が地面を転がる。


四匹目。


終わり。



「……は?」


自警団の男が呟く。


「一瞬で……?」


「なんだ、あれ……」


誰も動けない。



だがユーマは止まらない。


最初から見ているのは、一匹だけ。


奥にいる、異形。



低く唸る。


赤い目が、こちらを捉える。


(……やっぱり、同じだ)


あの魔石と。


嫌な感じ。


説明はできない。


だが、はっきり分かる。


(普通じゃない)



地面を蹴る。


来る。


速い。


重い。


受ける。


衝撃が腕に走る。


数歩、押される。


「……っ」


横薙ぎ。


しゃがんで避ける。


足払い。


倒れない。


(硬いな)


蹴り。


効きが浅い。


拳。


反応が鈍い。


止まらない。



「右!」


エレナの声。


光弾が顔面に当たる。


ほんの一瞬。


視線が逸れる。


ユーマは横へ回る。


斬る。


浅い。


血は出る。


だが——止まらない。



「これ、普通じゃない!」


エレナが叫ぶ。


すでに次の魔法を展開している。


「動き止める!」


氷弾。


前脚を凍らせる。


一瞬だけ止まる。



(今だ)


ユーマは踏み込む。


視界が研ぎ澄まされる。


見える。


赤い流れ。


歪んだ、重たい流れ。


胸の奥に、集まっている。


(……そこだ)



踏み込み。


間合い。


一閃。



刃が肉を裂く。


骨を断つ。


その奥。


赤い“何か”に触れる。



弾けた。


赤い光。


鈍い衝撃。


魔狼の体が大きく揺れる。


数歩、後退。


そして——


崩れ落ちた。



静かになる。



ユーマはゆっくりと息を吐いた。


足元に転がる、砕けた赤い塊。


(……これか)


見ているだけで、嫌な感覚が残る。



その時。


異変が起きた。


倒れた魔狼の体が、ゆっくりと縮み始める。


膨れ上がっていた筋肉がしぼむ。


毛並みの色が戻る。


音を立てて、形が変わっていく。


「……戻ってる?」


自警団員が呟く。


エレナも目を見開く。


「やっぱり……あれが原因」



完全に動かなくなった魔狼。


さっきまでの狂気は消えていた。



「ユーマ!」


振り向く。


ナキが駆けてくる。


息を切らしながら、すぐ目の前に立つ。


「大丈夫!?ケガは!?」


「大丈夫だ」


優しく答える。


「少し当たっただけだ」


「少しじゃないでしょ!」


服は裂け、浅い傷がいくつもある。


ナキは慌てて布を取り出す。


だが、その手が止まる。



周囲を見る。


倒れた魔狼。


崩れた地面。


そして——ユーマ。



「……ほんとに、一人で……」


小さな声。


実感が、追いついた。



「いやー……」


エレナが横に並ぶ。


「これはさすがにびっくりした」


そう言いながら、自然に腕に触れる。


「助かったよ。ありがと」


柔らかく笑う。



ナキの視線が、その手に向く。


「……エレナ、近い」


「え?」


「近い」


「いいじゃん別に」


エレナは気にせず顔を覗き込む。


「それにユーマ、ほんと顔いいよね」


「今関係あるか?」


「あるある」



ナキがすっと間に入る。


「今は怪我の確認が先」


「はいはい」


エレナが肩をすくめた、その時。



「ユーマぁぁぁ!」


遠くから声。


トンボが全力で走ってくる。


後ろに村長。


「無事か!?」


駆け寄ってきて——


止まる。



視界に入る光景。


魔狼の死体。


戦いの跡。


そして中心に立つユーマ。



「……これを、お前がやったのか」


低い声。


ユーマは軽く頷く。


「とりあえず、片付いた」


穏やかに言う。



トンボの目が輝く。


「すっげぇ……!」


死体とユーマを交互に見る。


「やっぱ兄ちゃん、めちゃくちゃ強ぇな!」



空気が少し緩む。


張り詰めていた緊張が、ほどけていく。



だが——


ユーマはふと視線を落とした。


足元。


砕けた赤い核。



(……まだ、終わってないな)


嫌な感覚が、消えない。



遠くの鉱山の奥。


見えないはずのその先から、


かすかに、同じ“気配”が続いていた。

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