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45歳。転移、若返り、強くなる!  作者: ユーマ


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27話 トンボ②


防衛部隊の裏手。

訓練場の熱気とは別の空気が流れていた。


静かで。

地味で。

――誰も見ていない場所。


「ここだ」


グレンが足を止める。


トンボは周囲を見回す。


木箱。

縄。

干してある布。

解体途中の魔物。


「……ここって」


「裏方だ」


グレンは短く言う。


「お前は午後ここ」


トンボは少しだけ表情を曇らせる。


「……雑用、っすか」


グレンは否定しない。


「そうだな」


即答だった。


トンボは口を閉じる。


分かってる。


さっき言われたばかりだ。


“前線はまだ早い”


でも――


(やっぱり……)


悔しい。


グレンが続ける。


「勘違いするなよ」


トンボが顔を上げる。


「ここが回らなきゃ、前は全部止まるんだぞ」


淡々とした声。


「ここのお陰で俺たちは前線で戦えるんだ」


トンボは少しだけ目を見開く。


グレンはそれ以上言わない。


「ロイ」


奥に声をかける。


細身の男が振り返る。


帳簿を持っている。


「……何」


「新入りだ」


ロイはトンボを見る。


じっと。


値踏みするような目。


「触るなら記録して」


いきなりそれだった。


「え?」


「物資は全部数で管理してる、一つでもズレたら全部狂うから」


トンボは慌てて頷く。


「は、はい!」


ロイはそれ以上興味を示さない。


帳簿に目を戻す。


グレンが言う。


「こいつに仕事振れ」


「分かった」


それだけ。


グレンはトンボを見る。


「やれ」


短い。


そしてそのまま去る。


トンボは少しだけ立ち尽くす。


「……」


ロイが顔も上げずに言う。


「それ、運んで」


木箱。


午前中と同じ。


だが今度は数が多い。


トンボは一つ持つ。


(……午前よりは)


さっきよりはマシ。


でも重いものは重い。


運ぶ。


置く。


戻る。


また運ぶ。


単純作業。


繰り返し。


誰も褒めない。


誰も見ていない。


時間だけが過ぎる。


「……っ」


腕がきつい。


でも止まらない。


止まれない。


途中で、別の団員が言う。


「おい、それはこっちだ」


「あ、はい!」


指示に従う。


次は縄をまとめる。


その次は水を運ぶ。


その次は――


「それ、血抜き終わってるやつだ」


解体途中の魔物。


トンボの手が止まる。


「……解体、っすか」


ロイがちらっと見る。


「できるの?」


トンボは少しだけ胸を張る。


「はい、やってました」


ロイは少しだけ興味を示す。


「ふーんじゃあやってみて」


あっさり。


トンボはナイフを受け取る。


魔物を見る。


(……久しぶりだな)


呼吸を整える。


そして――


手が動く。


迷いがない。


皮を剥ぐ。

筋を切る。

無駄なく分ける。


流れるように。


ロイの手が止まる。


視線がトンボに向く。


周囲の団員も気づき始める。


「……おい」

「ちょっと待て」


小さなざわめき。


トンボは気づいていない。


集中している。


「そこ、切りすぎない方がいいっすよ」

ぽつりと呟く。


誰に言ったわけでもない。


ただ癖で出た。


「……なんで?」


ロイが聞く。


トンボは顔を上げる。


「あ、そこ薬に使えるんで」


当たり前みたいに言う。


ロイの目が変わる。


「……詳しく教えて」


トンボは少しだけ考える。


「あの、この部分は乾燥させると毒消しに使えて」

「こっちは傷の治り早くするやつで」


言いながら手は止まらない。


「あと内臓は捨てるより――」


そこまで言って止まる。


周囲が見ている。


トンボは少しだけ気まずそうに笑う。


「……あ、すいません」


ロイは言う。


「いいよ、続けて」


短く。


トンボは頷く。


また手を動かす。


周囲の空気が変わる。


さっきまでの“雑用”じゃない。


見る目が変わる。


一人がぽつりと呟く。


「……なんだこいつ」


別のやつも。


「普通にできるやつじゃねぇか」


ロイが言う。


「必要な部位、全部分けて」


「はい!」


トンボの声が少しだけ明るくなる。


初めてだった。


“できること”を使えたのは。


さっきまでの悔しさが、少しだけ軽くなる。


手は止まらない。


動き続ける。


その様子を――


少し離れた場所で、グレンが見ていた。


腕を組んでいる。


何も言わない。


ただ一言、小さく呟く。


「……そういうタイプか」


評価が、少しだけ変わる。


トンボはまだ気づかない。


ただ必死に手を動かしている。


自分にできることを。


やっと見つけたから。


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