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45歳。転移、若返り、強くなる!  作者: ユーマ


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26話 トンボ①


朝。


防衛部隊の訓練場は、すでに動いていた。


剣がぶつかる音。

槍が風を裂く音。

短い指示と、それに応える動き。


無駄がない。


「……すげぇ」

トンボは思わず呟いた。


目の前にあるのは、“本物”だった。


自分がこれまで見てきた戦いとは違う。


速い。

正確。

そして――迷いがない。


「おい」

低い声。


トンボが振り向く。


槍を持った男が立っていた。


無駄のない体。

鋭い目。


「お前が見習いか」


トンボは背筋を伸ばす。


「はい!トンボっす!」


男はじっと見る。


頭から足先まで。


測るように。


「……小さいな」


「え?」


「そのままの意味だ」


それ以上は言わない。


「グレンだ」


短く名乗る。


「今日から俺がお前の面倒を見ることになった」


トンボの顔が明るくなる。


「よろしくお願いします!」


グレンは反応しない。


ただ一言。


「まず見してもらおうか」


「え?」


「戦わせる意味があるかどうかだ」


少しだけ空気が変わる。


トンボは一瞬だけ戸惑う。


だがすぐに頷く。


「はい!」


グレンは顎で外周を示す。


「とりあえず走れ。十周だ」


トンボは笑う。


「了解っす!」


走り出す。


軽い足取り。


(いけるっすね)


一周。

二周。


余裕。


三周。

四周。


呼吸が少し上がる。


五周。


足が重くなる。


六周。


呼吸が荒い。


七周。


視界が揺れる。


(……あれ)


八周。


足がついてこない。


九周。


転びそうになる。


「……っ」


なんとか踏みとどまる。


最後の一周。


もう走り方じゃない。


ただ前に進んでいるだけ。


十周。


止まる。


膝に手をつく。


「はぁ……っ……はぁ……っ……」


息が整わない。


グレンが歩いてくる。


「もう終わりか?」


トンボは無理やり顔を上げる。


「……まだ、いけます!」


グレンは一瞬だけ見る。


「そうか」


それだけ言う。


「じゃあ次は…」


地面を指す。


「これ持て」


木箱。


中身は石。


トンボは持ち上げる。


「……っ、重……」


思わず声が漏れる。


グレンは言う。


「他の奴らが運んでる量の半分だぞ」


トンボは歯を食いしばる。


持ち上げる。


腕が震える。


「あそこまで運ぶんだ」


指された先は、訓練場の端。


距離はある。


トンボは歩き出す。


一歩。


重い。


二歩。


腕がきつい。


三歩。


呼吸がまた乱れる。


(こんなもん……)


(いけるっす……)


その時。


横を団員が通る。


同じ箱を――二つ。


軽々と運んでいく。


トンボの横を、何事もなく。


「……え」


思わず目で追う。


足が止まる。


「止まるな」


グレンの声。


トンボは慌てて動く。


だが遅い。


重い。


苦しい。


やっとの思いで、指定の場所に辿り着く。


箱を下ろす。


「はぁ……っ……」


手が震えている。


グレンが近づく。


「次」


「え……?」


「終わりじゃないぞ」


トンボは言葉を失う。


グレンは続ける。


「戦闘に必要なのは体力だけじゃない」


一瞬、間。


「判断力だ」


その直後。


グレンが動く。


一歩で距離を詰める。


「――っ!?」


見えない。


気づいた時には、目の前。


槍の先が、トンボの喉元で止まる。


動けない。


「今、何ができた?」


トンボは何も言えない。


「石を投げるか」

「避けるか」

「距離を取るか」


一つもできていない。


「……怖かったか?」


トンボの喉が鳴る。


答えられない。


でも、図星だった。


「その一瞬で勝負は決まっちまう」


グレンが言う。


「今のままで前に出るなら――」


一瞬、間。


「死ぬぞ」


トンボの手から力が抜ける。


何もできなかった。


ただ“やられる側”だった。


グレンは槍を引く。


「結論だ」


淡々と。


「前線はまだ早い」


言い切る。


トンボは何も言えない。


悔しい。


でも――分かってしまった。


周囲を見る。


他の団員たちは、普通に動いている。


走っている。

戦っている。

運んでいる。


さっき自分ができなかったことを。


当たり前みたいに。


「……なんで」


小さく呟く。


「なんであいつら……普通にできるんだよ……」


誰にも聞こえない声。


グレンはそれを聞いていた。


だが何も言わない。


そして、短く言う。


「午後は別の仕事を回す」


トンボが顔を上げる。


「……別の?」


「今のお前に前線は無理だ」


淡々と。


事実だけ。


グレンは背を向ける。


「ついてこい」


それだけ言って歩き出す。


トンボは少しだけ立ち尽くす。


拳を握る。


悔しさと。


情けなさと。


怖さ。


全部残ったまま。


それでも――


足を動かす。


止まったままじゃ、何も変わらないと分かっていたから。

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