22話 ユーマ③
訓練場に残った空気は、まだ少しざらついていた。
誰もすぐには動かない。
落ちた的を見ている。
「真っ二つに斬られている。」
「だが切断面は妙に滑らかで――魔力の反応だけが、完全に消えていた。」
ドランが小さく息を吐く。
「……とんでもねぇな」
ユーマは刀を見ている。
リゼットが一歩前に出る。
「どれくらい溜まってるの?」
「まだ余裕はあると思う」
「でも明らかに斬る前より増えてる」
リゼットは少しだけ考える。
視線は刀に固定されたまま。
「……やっぱりそうなるのね」
ドランが横から口を出す。
「分かってたことだろ」
「ええ、でも“確認できた”のは大きい」
リゼットはユーマを見る。
その目は、さっきまでと少し違っていた。
研究対象を見る目。
そして――
少しだけ、警戒。
「結論から言うわ」
「その刀に使用制限を設けます。」
周囲が静かになる。
ドランも口を閉じた。
ユーマは短く答える。
「聞こう」
リゼットは指を一本立てる。
「まず一つ」
「“溜めすぎないこと”」
「目安は?」
「あなたが“違和感”を感じる前」
即答だった。
ユーマは頷く。
「分かった。」
リゼットは続ける。
「二つ目」
「街中及び民間人のいる場所での使用は禁止」
「理由は?」
「暴発した場合、被害が読めない」
一瞬、間。
「あなたは平気かもしれないけど、周囲は平気じゃない」
「制御できない現象を“運用”するつもりはないわ」
ユーマは少しだけ考える。
そして頷いた。
「そりゃそうだな、了解。」
リゼットは三本目の指を立てる。
「三つ目」
「定期的に計測させてもらうわ」
「計測?」
「蓄積量、変化、挙動」
淡々と言う。
「これは武器であると同時に、研究対象なのよ」
ドランが笑う。
「ついでに言うと、お前もだな」
「否定はしないわ」
リゼットは真顔で言う。
ユーマは気にした様子もない。
「まあ好きにしろ」
リゼットは小さく息を吐く。
「……意外と扱いやすいわね」
ドランが肩をすくめる。
「諦めが早いだけだろ」
ユーマは刀を鞘に収める。
静かな音。
「これでいいか」
リゼットは少しだけ考えてから頷く。
「ええ」
「現時点では――ね」
その言い方に、何人かが苦笑する。
「増えるなこれ」
「絶対増えるだろ条件」
空気が少しだけ緩む。
ドランが手を叩いた。
「よし」
パン、と乾いた音。
「難しい話はここまでだ」
周囲を見回す。
「せっかく面白いもん手に入ったんだ」
「祝わねぇとな」
一瞬の静寂。
次の瞬間――
「お、いいなそれ!」
「飲むか!」
「誰か酒持ってこい!」
一気に騒がしくなる。
ユーマはその変化を見ている。
さっきまでの空気とは別物だった。
リゼットが小さくため息をつく。
「…切り替えが早い」
「こいつらはな」
ドランが笑う。
「面白いことがあればそれでいい」
団員の一人が声を上げる。
「おい新入り!」
ユーマを見る。
「歓迎会だ!」
別のやつも続く。
「逃げんなよ!」
「今日は帰さねぇぞ!」
ユーマは少しだけ考える。
そして――
「分かった」
あっさりと答えた。
周囲が一瞬だけ止まる。
「……素直だな」
「もっと嫌がると思ったのに」
ドランが笑う。
「逃げねぇタイプだろ」
リゼットがぽつりと言う。
「観察しやすい」
「お前なぁ」
笑いが起きる。
酒が運ばれ、適当な机が並べられる。
工房の一角が、いつの間にか“宴会場”になっていた。
誰かが肉を焼き始める。
別の誰かが酒を注ぐ。
騒がしい。
まとまりはない。
だが――
不思議と居心地は悪くなかった。
ドランが横に立つ。
杯を一つ差し出す。
「ようこそ、調査部隊へ」
ユーマはそれを受け取る。
少しだけ見る。
そして、短く言う。
「……よろしく頼む」
それだけだった。
だが。
周囲はそれで十分だった。
「よっしゃあ!」
「乾杯だ!」
「飲め飲め!」
一気に声が上がる。
騒がしさが増す。
ユーマはその中に立っていた。
変わらない表情のまま。
だが――
ほんの少しだけ。
力が抜けていた。




