20話 ユーマ①
「ここだ」
ドランが扉を押し開けた瞬間、音が押し寄せてきた。
「だからその配合は破綻してるって言ってるだろ!」
「破綻してねぇよ!出力は出てんだよ!」
「出力だけ見てどうすんのよ!」
「うるせぇな結果見てから言え!」
怒鳴り声と笑い声。
工具のぶつかる音に、何かが弾ける乾いた音。
ユーマは一瞬だけ足を止めた。
「……うるさいな」
「そうか?いつもこんなもんだ」
ドランは気にした様子もなく中へ入る。
「静かな方が異常だな」
中に入ると、数人の視線が一瞬だけこちらに向いた。
「お、来たか」
「例のやつ?」
「魔力ゼロってマジかよ」
「あとで見せろよ!」
好き勝手な声。
だが誰も手は止めない。
ユーマは周囲を一瞥する。
机の上には、歪んだ金属、黒い骨、妙に光を吸う石。
どれも普通じゃない。
だが、この場ではそれが普通らしい。
「まずは確認だ」
ドランが奥を指す。
「ついて来い」
工房の奥、区切られたスペース。
魔石を組み込んだ装置が並んでいる。
リゼットがすでに待っていた。
「準備できてるわ」
「早いな」
「予想通りの流れ」
リゼットはユーマを見る。
「あなたのことを測定するわ」
「いい?」
「いいぞ、そんなことだろうと思ってたからな」
「じゃあ魔力から」
台座に手を置く装置。
内部に淡い光が揺れている。
「普通はここで魔力が反応する」
「量と質を測る仕組みよ」
ユーマは手を置いた。
ひやりとした感触。
装置がわずかに光る。
……それだけだった。
光は広がらない。
揺れない。
増えない。
「……あれ?」
近くの団員が首を傾げる。
「もう一回」
同じ。
別の装置に変える。
より大型のもの。
結果は同じ。
リゼットが数値を確認する。
「ゼロ」
静かに言った。
「完全にゼロ。誤差もない」
ざわつく。
「そんなことあるか?」
「壊れてんじゃねぇのそれ」
「壊れてねぇ」
ドランが低く言う。
「こいつがそういう存在だ」
ユーマは手を離す。
「次はなにをすればいいんだ?」
動揺はない。
ドランが少しだけ笑う。
「いいな」
「じゃあ身体だ」
重りが並べられる。
鉄の塊。
明らかに人間が扱う重さじゃない。
「これ持て」
ユーマは片手で持ち上げる。
軽い。
「全部」
まとめて持つ。
問題ない。
「おいそれ全部だぞ」
「何キロあると思ってんだ」
さらに重いもの。
同じ。
呼吸も変わらない。
リゼットが淡々と記録する。
「筋力、基準値大幅超過」
「上限測定不能」
ドランが腕を組む。
「強化なしでこれか」
「確認するぞ」
団員の一人が前に出る。
「身体強化かける」
光がユーマを包む。
通常ならここで身体能力が上がる。
ユーマは軽く腕を振る。
足を踏み込む。
「……変わらない」
「は?」
「嘘だろ?」
「今かけたよな?」
リゼットが言う。
「変化なし」
「魔力強化が作用していない」
ドランが眉をひそめる。
「魔法が干渉してねぇな」
「じゃあ次」
ドランが顎で示す。
「攻撃を受けてもらうぞ」
団員が一歩前に出る。
「軽くだからな」
魔力が手に集まる。
放たれる。
ユーマに直撃。
鈍い音。
煙。
だが。
ユーマはそのまま立っていた。
「……何もないな」
服が少し焦げただけ。
ざわめきが広がる。
「効いてねぇ!」
「今の普通に当たってたぞ!」
「なんだこいつ!」
リゼットが確認する。
「外傷なし」
「内部損傷なし」
一拍置いて言う。
「魔力が作用していない」
静かになる。
ドランが腕を組んだまま、しばらくユーマを見ていた。
「……お前、変だな」
「自覚はある、最近よく言われるし」
「いやそういうレベルじゃねぇ」
周囲から笑いが漏れる。
「魔力ゼロであの身体能力ってなんだよ」
「強化も効かねぇし攻撃も通らねぇし」
「意味分かんねぇなほんと」
ドランがふっと息を吐く。
「逆に聞くけどよ」
ユーマを見る。
「なんか困ってることねぇのか」
ユーマは少しだけ考える。
すぐには答えない。
視線を落とし、自分の手を見る。
戦うことに関しては問題ない。
むしろ、困ることはほとんどない。
「……特にない」
間。
ドランが即座に返す。
「そんなわけあるか」
笑いが起きる。
「絶対あるだろそれ」
「一番あるやつの顔してるぞ」
ユーマは少しだけ考え直す。
そして、ひとつだけ口にした。
「……武器が持たない」
空気が少し変わる。
ドランの目が細くなる。
「どういう意味だ」
ユーマは腰の刀に手をかける。
抜く。
刀身が歪んでしまった刀。
それをドランに差し出す。
「すぐ壊れちまう」
ドランが受け取り、刃を見る。
「……いい刀だな」
「まあまあ高かったぞ」
「だろうな」
刃を指でなぞる。
「お前の力で振るとこのレベルの武器でももたないってことだな」
ユーマは言う。
「壊れない武器が欲しい」
一瞬の沈黙。
そして。
ドランの口元が歪む。
「……あるぞ」
奥を指す。
「誰も使えねぇ、失敗作だがな」
周囲から声が飛ぶ。
「アレか!」
「強すぎて扱えねぇんだよ」
「魔力に飲まれる」
「まともに使ったら死ぬぞ」
リゼットが言う。
「高位の魔物素材は魔力が強すぎる」
「使用者が制御できない場合、侵食されてしまう」
ドランがユーマを見る。
「でもお前は違う」
一瞬の間。
「魔力がない」
「しかも干渉もされない」
空気が変わる。
ざわめき。
「……ああ」
「そういうことか」
「だからそのまま使える?」
ドランがニヤリと笑う。
「“使える可能性がある”」
ユーマは一歩前に出る。
迷いはない。
「試させてくれるか?」
その一言で、空気が変わった。
全員の目が興味で輝いていた。




