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45歳。転移、若返り、強くなる!  作者: ユーマ


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2話

狼の死体を前に、トンボはほっと息を吐いた。

「……助かったぁ」


地面に座り込む。

だが、すぐに立ち上がる。


「よし」

腰のナイフを抜いた。


遊真が眉をひそめる。

「……何する気だ?」


「え?」

トンボはきょとんとする。

「解体するに決まってんじゃん」


当たり前のように言った。


遊真は一瞬だけ黙る。

「…できるのか?」


トンボは狼の横にしゃがみ込む。

「当たり前だろ?」

手慣れている。


迷いがない。


「兄ちゃん、こういうの初めて?」


「まあな」


「そっか」

トンボは少しだけ得意げに笑う。


「見てろよ、ちゃんとやれば全部使えるんだ」

ナイフを入れる。


無駄がない。


血が流れる。


だが、動きは落ち着いている。


「まず皮な。売れるし、防具にもなる」

丁寧に剥いでいく。


遊真はその様子を見ていた。

(……慣れてるな)


子供の動きじゃない。


生活の一部。

「次に肉。これは食える」

「食えるのか」

「ちゃんと処理すればな」

軽く言う。


そして――

胸元にナイフを入れる。


「で、これが一番大事」

中から、小さな青い石を取り出した。


光がわずかに揺れている。

「魔石」


トンボが言う。


遊真の目が細くなる。

「さっき見えてたのはこれか」


「見えてた?」


「いや、なんでもない」


トンボは石を掲げる。

「これが一番金になるんだ」


少し誇らしげ。

「魔道具に使うし、冒険者がよく買ってく」


「でもな、たまに変なのもあるんだよ」


「変?」


「中身がスカスカのやつ」


遊真の動きが止まる。

「……スカスカ?」


「うん。光が弱くて、ほとんど価値ないやつ」

トンボは肩をすくめる。


「最近ちょいちょい見るんだよな」 


遊真の目がわずかに鋭くなる。


トンボは解体を続ける。


手際よく。


無駄なく。


「ほら、こんな感じ」

肉と皮、魔石を並べる。


「全部無駄にしないのが基本な」


遊真は少しだけ頷く。

「大したもんだな」


「だろ?」

トンボが笑う。


その笑顔は、さっきまで命のやり取りをしていたとは思えないほど、普通だった。


遊真はその様子を見て――


少しだけ、柔らかい表情になる。

「……悪くないな」


「何が?」


「こんな生活も悪くないなと思っただけだ」


トンボは少し照れくさそうに笑った。


森を抜ける道は、思ったよりも歩きやすかった。


「さっきのは、よく出るのか?」

遊真が聞くと、トンボは振り返る。


「たまにかな、でも最近増えてるって聞いた」


「……そうか。無事でよかったな」


トンボが一瞬きょとんとしてから、笑った。

「うん!」


「色々と教えてくれて助かる」


トンボが少し嬉しそうにする。


「兄ちゃん、ほんと何も知らないんだな」


「まあな」

否定しない。


「迷ってるって言ってたもんな」


「そうだな。だから、トンボに会えたのはラッキーだよ。」


「任せろ!」

トンボが胸を張る。


その様子に、遊真は少しだけ表情を緩めた。


森を抜けると、視界が一気に開けた。


畑。


小さな家々。


柵に囲まれた集落。


煙を上げるかまど。


道を走る子供たち。


その向こうには、巨大な街が見えた。


山肌に広がる無数の建物。


煙を吐く大きな煙突。


鉱山へ続く線路のようなもの。


遠くからでも分かるほど大きな外壁。


「あれが村か……」


ユーマは思わず呟いた。


想像していたよりずっと大きい。


もはや村ではない。


一つの都市だった。


「すげえだろ?」


トンボは胸を張る。


「オレたちの村はあの近くなんだ。あのでかい街に物を売ったり、働きに行ったりしてる」


集落へ近づくにつれ、人の姿が増えていく。


荷車を引く男。


畑仕事をする女たち。


薪を運ぶ老人。


穏やかな空気だった。


その時。


「トンボ!!」

鋭い声が飛んだ。


トンボの肩がびくりと跳ねる。


集落の入口に、一人の少女が立っていた。


長い黒髪。


白い肌。


大きな瞳。


整いすぎているほど整った顔立ち。


派手ではない。


だが、目を引く。


なぜか視線を奪われる。


細身だが健康的な体つき。


簡素な服装なのに、不思議なくらい綺麗だった。


トンボは露骨に目を逸らした。

「やべ……」


少女は早足で近づいてくる。


「また一人で森に入ったの!?」


「い、いや、その……」


「危ないって何回言えば分かるの!? 今日は帰りが遅いから、みんな心配してたんだから!」


本気で怒っている。


だが、その声には心配が混じっていた。


トンボは慌てて手を振る。

「ち、違うんだ! 今日は本当に危なかったんだぞ! 魔物に襲われて!」


少女の顔色が変わる。


「怪我は!?」


「オレは平気!」


「本当に?」


少女はトンボの肩や腕を確認する。


そこで初めて、ユーマの存在に気づいた。


視線が向く。


強い目だった。


警戒しているのが分かる。

「……誰?」


「ユーマ!」


トンボはすぐに答えた。


「オレを助けてくれたんだ! 魔狼を三匹倒した!」


少女は一瞬、信じられないという顔をした。

「魔狼を三匹?」


「うん! 一人で!」


少女はユーマを見る。


長い黒髪が風で揺れる。


近くで見ると、本当に綺麗だった。


だが、それ以上に印象に残るのは目だった。


真っ直ぐで、強い。


誤魔化しの効かない目。


少女は少しだけユーマを見つめたあと、小さく息を吐いた。

「……トンボを助けてくれたのは本当?」


「ああ」


「そう」


少女は少し迷うように目を伏せ、それから小さく頭を下げた。

「ありがとう」


素直な声だった。


「私はナキ」


ナキ。


その名前が妙に似合うと思った。


飾り気はない。


だが、目を離せない。


そんな少女だった。


「ユーマだ」


「……村長のところに案内する。事情を話した方がいい」

ナキはそう言って背を向けた。


夕陽が、長い黒髪を赤く染める。


その横顔は、思わず息を呑むほど綺麗だった。


ユーマは、その背中を見つめながら静かに歩き出した。


この世界で初めて出会った少女。


その存在が、なぜか妙に心に残っていた。

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