18話
詰所を出ると、外の空気は少し落ち着いていた。
「こっちです」
若い団員に案内され、ユーマたちは街の通りを進む。
中心から少し離れた区画。
人通りはあるが、騒がしすぎない。
ナキは歩きながら周囲を見ていた。
店の位置、人の流れ、道の幅。
何も言わないが、全部見ている。
やがて、一軒の家の前で止まった。
「ここになります」
木と石でできた二階建て。
派手ではないが、しっかりした造りだった。
中に入る。
居間、台所、いくつかの部屋。
生活には十分すぎる。
「すげぇ……!」
トンボが思わず声を上げる。
そのまま走り出しかける。
「走らない」
ナキが即止めた。
「えー」
「床、傷つくでしょ」
トンボは口を尖らせるが、大人しく歩く。
ナキはそのまま台所へ向かう。
棚を開ける。
水場を見る。
窓を開けて空気を入れ替える。
「……使える」
小さく呟いた。
ユーマは壁にもたれて見ている。
「ねぇユーマ」
「なんだ?」
「掃除するわよ!」
「……分かった」
トンボも巻き込まれる。
「オレも!?」
「当たり前」
三人で掃除が始まる。
ナキは指示を出しながら、自分も動く。
「トンボ、窓開けて」
「ユーマ、それ拭いて」
「水こっち」
動きに無駄がない。
案内していた団員がぽつりと言う。
「……なんか、もう住んでる人みたいですね」
ナキは首を傾げる。
「普通でしょ?」
一通り終わる頃には、家の空気が変わっていた。
「……よし」
トンボはその場に座り込む。
「つっかれた……」
「まだ終わってない」
「え!?」
「食事」
トンボの目が輝く。
ユーマが言う。
「金はあるのか」
ナキはあっさり答えた。
「あるわよ、ユーマが」
「俺か」
「この前素材売ったじゃない」
トンボが笑う。
「完全に財布係じゃん」
ナキは無視した。
「買い出し行くわよ、ユーマは重いの持つ係ね」
ユーマは苦笑いを浮かべた。
外に出る。
夕方の市場は活気に満ちていた。
ナキの雰囲気が少し変わる。
柔らかく、人に溶ける。
店を回る。
「これ、もう少し安くならない?」
「無理だよ、お嬢ちゃん」
「じゃあこっちとまとめて買う」
少し間。
「……分かったよ、しょうがないなー」
トンボが小声で言う。
「またやってる……」
ナキは気にしない。
ユーマは黙って荷物を持つ。
帰り道。袋はそこそこ重い。
ナキがちらりと見る。
「落とさないでよ」
「落とさなよ」
それだけで会話は終わる。
家に戻る。
ナキはすぐに台所へ。
火を起こす。
材料を切る。
鍋に入れる。
トンボは待ちきれない。
「まだ!?」
「うるさい」
ユーマは静かにそれを見ている。
やがて料理が並ぶ。
「できた」
「いただきます!」
トンボが一口食べる。
「うっま!」
ナキは少しだけ笑う。
ユーマも食べる。
「……美味いな」
「そうでしょ」
ナキは少しだけ自慢げな顔をしてユーマとトンボの食べる姿を見ながら言った。
夜。
食後、少し静かになる。
トンボはもう寝かけている。
ナキは食器を片付けながら言う。
「これから忙しくなるね」
「ああ」
「ちゃんと朝は起きてよ」
「起きる」
「ほんとに?」
ユーマは少しだけ考えてから言った。
「起きてこないときはよろしく」
ナキは一瞬止まる。
「……分かった」
少しだけ、嬉しそうだった。
外では、夜の街の音が微かに響いている。
新しい生活が、静かに始まっていた。




