17話
メイセキの城壁が見えてきたのは、昼を少し回った頃だった。
石造りの高い壁。
出入りする人と荷車。
行き交う声と、金属の音。
トンボが身を乗り出す。
「やっぱでけぇな……」
「前も来てるでしょ」
ナキが呆れたように言う。
「来てるけどよ!でけぇもんはでけぇんだよ!」
ユーマは何も言わず、街の空気を見ていた。
人の流れ。その中に混じる、魔力の気配。
村とはまるで違う。
馬車は自警団の詰所の前でゆっくりと止まった。
すぐに団員たちが動き出す。
負傷者を降ろし、荷を運び、短く指示が飛ぶ。
慌ただしい空気の中で、ユーマたちは馬車を降りた。
何人かの団員が、ちらりとこちらを見る。
視線はすぐに逸れるが、明らかに意識されていた。
指示を出し終えてから、ガトリンはユーマたちを見る。
「お前らはこっちだ」
顎で詰所の中を示す。
「まずは今後の話をする。
それだけ言って歩き出した。
簡素な机と椅子。
ガトリンが腕を組む。
「先に住む場所だ」
「三人で住める場所は押さえてある」
トンボが目を丸くする。
「マジかよ!?」
「団員になる以上、拠点は必要だ」
当たり前のように言う。
「場所はここからそう遠くねぇ」
「後で案内させる」
ナキが小さく頭を下げる。
「……ありがとう」
「次だ」
間を置かず、ガトリンは続ける。
「うちの構造を説明する」
指を三本立てる。
「防衛部隊」
「街の巡回、門、警備。普段の仕事はここが回す」
「調査部隊」
「魔石、魔物、魔道具。異常の確認と分析だ」
エレナが軽く手を挙げる。
「ここね」
「補給・サポート」
「物資、手配、金、交渉。戦闘以外全部だ」
トンボが小さく呟く。
「地味だな……」
ナキが軽く小突いた。
「討伐は別だ」
ガトリンは続ける。
「必要な時に、各部隊から引き抜く」
「相手によって編成を変える」
一度、三人を見る。
「普通の害獣や野盗なら、数で押す」
「だが――」
「あの個体みたいなのは別だ」
そこで初めて、本題に入る。
「配置だ」
まずユーマを見る。
「お前は調査部隊だ」
エレナが笑う。
「やっぱりね」
「魔力が見える」
「それで十分だ」
「ただし」
「戦闘では前に出ろ」
ユーマは頷いた。
「魔物が絡む討伐なら呼ぶ」
「それ以外は好きにしろ」
シンプルだった。
次にナキを見る。
「お前は補給だ」
ナキが少しだけ目を見開く。
「村長から聞いてる」
「面倒見がいい、気が回る、人と揉めねぇ」
少しだけ間を置く。
「それだけじゃない」
ガトリンはナキを見る。
「ここまでの道中、見てた」
ナキの肩がわずかに揺れる。
「荷の手配、休憩の判断、団員とのやり取り」
「誰とも無駄にぶつからねぇのに、ちゃんと通す」
エレナが「うんうん」と頷く。
「あと、情報の拾い方が上手い」
ガトリンは続ける。
「聞いてるようで聞いてない振りして、全部拾ってる」
ナキの顔が少し赤くなる。
「そういう奴は、後ろに置く方が強い」
「補給に入れ」
「物と人、両方回せ」
ナキは一瞬だけ迷った。
だが――
「……分かった」
しっかりと頷いた。
最後にトンボ。
「お前は防衛だ」
「見習い」
「よっしゃ!」
即答だった。
「雑用から全部やれ」
「できること増やせ」
「任せろ!」
ガトリンは三人を見渡す。
「以上だ」
短く、終わる。
「2日後から働いてもらうぞ、それまでに準備を整えておけ。」
立ち上がる。
「家は外の奴に案内させる」
それだけ言って部屋を出ていった。
少しの沈黙。
トンボが笑う。
「なんかすげぇな……ほんとに始まるって感じ」
ナキは小さく息を吐く。
「……うん」
エレナがにこっと笑う。
「歓迎するよ、メイセキ」
そう言って、自然にユーマの隣に立つ。
ナキがすっと間に入る。
「まずは家」
短いが、はっきりしていた。
「はいはい」
エレナは楽しそうに笑う。
ユーマは何も言わない。
だが――
新しい生活は、もう始まっていた




