表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】追放された黒剣士は白聖女と辺境でのんびり暮らしたい。~え? 聖女と一緒に戻ってきてほしいって? もう遅い~  作者: 九条蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/108

第81話 小休止

「ようやく全部やったか」


 最後の一匹の首を横薙ぎの一閃で刎ね飛ばしながら、ロイドは息を吐いた。

 黒く濁った血が土に散り、わずかに瘴気を含んだ煙を上げる。それもすぐに、森全体の淀んだ空気に紛れて見えなくなった。


「たぶんねー」


 フランが鉄槌を肩に戻したまま、その場にへたり込む。

 石段の途中に尻をついた拍子、がこんと鈍い音が響いた。


「あー、疲れた」


 エレナも、杖を膝の上に渡しながら、ため息混じりに石段へ腰を下ろした。

 燃え残った魔物の残骸と、雷光の痕が至るところに刻まれている。さっきの〈神裁の雷ジャッジメント・ボルト〉で、神殿跡の周囲は軽い戦場のような有り様になっていた。


「治療しますね。座ってください」


 ルーシャが、ふたりに歩み寄りながら言った。

 ロイドも、少し遅れて石段に腰を下ろす。胸の奥が、じくじくと熱い。大した傷は負っていないつもりだが、それでも細かな切り傷や打撲は積み重なっていた。

 ルーシャがそっと手をかざす。

 手のひらから、柔らかい光が零れ落ちる。


「大地を統べる母なる御方よ……この者たちの傷を癒したまえ」


 ルーシャの〈範囲治癒魔法(レンジ・ヒール)〉が、皆を癒していく。光が皮膚の上を撫でていく度に、浅い傷のひりつきが和らいでいった。背中に走っていた鈍い痛みも、少しずつ溶けていく。


(この程度、自分で慣らしてしまってもいいんけどな……)


 そう思いかけて、ロイドはその考えを打ち消した。

 この先、何が出てくるのかわからない。少しでも万全に近付けるなら、頼れるものは全部頼っておくべきだ。


「ロイド」

「ん?」

「右手、出してください」

「右手?」


 言われた通りに手を出すと、ルーシャは目の前で膝を突いて、ロイドの右手を両手で包み込んだ。

呪印(マリス・グリフ)〉の刻まれた甲に、淡い光が差し込む。焼け付くようだった疼きが、すっと落ち着いていった。


「まだ痛みますか?」

「いや、もう大丈夫。ありがとう。楽になったよ。てか、よくわかったな」

「瘴気が濃い場所だと痛むって、前に言ってましたから」


 当然だというように、ルーシャはにっこりと笑って言った。

 まさか、そんなところまで気に掛けてくれていたとは。

 何でもお見通し過ぎて


「では、ちょっと調べてきますね。皆さんは休憩しておいてください」


 ひととおり治療を終えると、ルーシャは立ち上がった。

 修道服についた血や灰を軽く払うと、祭壇へ続く石段をとん、とん、と上がっていく。

 崩れかけた石盤の前で、彼女は膝をついた。

 黒い霧を警戒して、ぎりぎりまで距離を取ったまま、残された刻印や割れ目をじっと見つめている。


「んじゃ、お言葉に甘えて……休憩ターイム!」


 フランが勢いよく布袋を開いた。

 中から、村人たちが持たせてくれた乾いたパンと干し肉が顔を出す。


「私もいただこうかしら」


 エレナが、水袋を取り出して喉を潤す。

 ロイドも隣に腰をずらし、同じ段に背中を預けた。石の冷たさが、火照った身体には心地いい。


「よく食うな」


 フランの頬張りっぷりを横目で見ながら言うと、彼女はもごもごと咀嚼しつつ、親指を立ててきた。


「戦うための燃料だからねー」


 妙に説得力のある言葉だった。

 ロイドは、自分の分のパンをひとかけら口に運ぶ。

 固くて、少し酸味がある。決して美味いものではないが──それでも、さっき村人たちから受け取った時の光景を思い出すと、不思議と味が変わる気がした。


(安心させてやらないとな)


 視線を上げる。

 祠の前で、ルーシャが石盤に手をかざしていた。指先から淡い光を流し込みながら、ひび割れた刻印の線をなぞっている。

 正直、ロイドが見ても、そこに何が書かれているのかさっぱりわからない。

 ただ、封印の残骸が、いかに強固なものだったかは、肌で感じ取れた。


「これ見てわかるもんなの?」


 ある程度息が整った頃合いを見計らって、ロイドは立ち上がり、石段を上ってルーシャの隣へ歩み寄った。

 ルーシャはちらりとこちらを見て、困ったように小さく笑う。


「う~ん……術式自体は、やっぱり私が知っているものとは違うので、真似はできなそうです。ただ、上から別の術式で塗り潰された感じは、何となく見えました」

「塗り潰された?」


 ロイドが眉をひそめると、彼女は慎重に言葉を選ぶように続けた。


「書き換えた、という感じでしょうか? 中にいる魔物は、かなり強い力を持っているんだと思います」


 封じられているはずの魔物が、自分の檻を内側から書き換える。

 想像しただけで、背筋に冷たいものが走った。


(中から、封印をいじくったってわけか)


 どうやら、かなり頭が切れるらしい。ただ暴れるだけの化け物より、よほど厄介だ。

 ロイドは口の中のパンを飲み込み、短く息を吐いた。


「中にいる奴が、面倒だってのはよくわかったよ」

「はい。結局は元凶を何とかしないと、封印もし直せないので……」

「結局、殴り込みってことね」


 後ろから、エレナが呆れたように言った。

 無論、誰もそれを否定しない。もともとそのつもりでここにきたのだから、今更怖気づくことでもなかった。


「腹ごしらえも済んだし……入口の方も見とこっか」


 フランが鉄槌を肩に担ぎ直し、神殿跡の奥へ目を向けた。

 ひび割れた石盤の背後、崩れた柱の間に、かつての神殿へ続く入口があるはずだ。前回来た時は、そこから瘴気が漏れ出していた。

 瓦礫を避けながら進み、半ば崩れたアーチのような出入口へ辿り着いた瞬間、フランが足を止めた。


「あれ? なにこれ?」


 崩れかけた石枠の内側──そこには、薄い膜のようなものが張り付いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ