九柱目 人間攻略と蜜月の夜
悪魔は欲望を肯定する存在だとリムルは言っていた。
それは神の秩序を乱すためではなく、結果的に神の秩序を乱すことになってしまうだけで、本来は人間とは相容れない存在ではないと。
とはいえ大罪の一つに傲慢がある以上、下等生物である人間を見下す悪魔も少なからず居るし、人間の魂は確かに甘美だという。
「で、どうして人間が欲で破滅するのか分かるか?」
現在、俺はリムルとブッキーの悪魔講座を受けている真っ最中だ。
ボーンは買出しへ、ガルゥは朝からそわそわと落ち着かない様子で散歩に出かけたため、部屋で机を囲んでいるのは俺とリムルとブッキーのみ。
今回は人間と悪魔が築く関係について。
「そりゃ欲に溺れるからだろ」
「それは結果だ。注目するべきは、どうして人間は欲に破滅れるのかってこと」
「ふむ……泳げないから?」
リムルはこういう話をする時は活き活きしている。本当に人間が大好きなんだろう。
いや、大好きというより、人間に対して憧れを抱いているような。
「まあ七割正解だな。正確には泳ぐ力が足りない」
「力?」
イマイチ要領を得ない様子に、リムルはしかしより一層機嫌を良くした。
語りたがりのリムルが本領を発揮する時だ。
「欲は深い浅いで表現されることがあるだろ? 欲を海に例えてみな」
「ふむ」
「欲の海の底には、沈没した海賊船みたくお宝が眠ってる。力のある奴は宝を手にしてから浮上し、息も出来る。でも力の足りない奴や、ペースを考えない馬鹿や、自分の力量に収まらない宝を抱えようとして、結局間に合わなくて命を落とす」
なるほど分かりやすい。
それで、つまるところ何が言いたいんだ?
「と、いうわけで、お前が悪魔と人間の間に友好を結ぶ時、一番人間へ伝えるべきことがこれだ。欲は悪いことではないし、悪魔も有害とは限らないってことさ」
「ああ、そっちに繋がるのか」
「欲は生命の根源であるっていうくらいだしな?」
リムルはブッキーに話を振る。いい加減ブッキーが詰まらなそうにしているので気を配ったのだろう。
ここで注意するべきは、リムルは飽きたからそうしただけで、最初からブッキーがつまらなそうにしてるのを面白がっているということだ。決して親切とか良心とかそういうのではない。
「その通りだ。お前の妄想嫁? というのも言わば欲によって生み出されたと言って良い」
「そうだったのか」
「なので、今回は講義ではなく、ここからどうやって人間を攻略していくか考えることしよう」
なるほどそれは良い。いい加減座学も飽きたところだ。たまにはこういう変化球が無いとな。
「それで?」
「じゃあ私からいくぞ? はいどんっ!」
なぜかスケッチブックに油性ペンで何かしらを書き込み、机の上に立ててみせる。
なになに……邪教を設立する。
「お前は魔人間、魔境邪教の教祖として、悪魔のいいところをアピールするんだ」
「魔境邪教……まあそれは置いといて、悪魔のいいところってなんだよ」
悪魔のいいところアピールって、マイナスイオンとか水素とか言って売りつける悪徳詐欺ってイメージしか出来ないんだが、つまりセールスマンになれということか。
しかし悪魔のアピールポイントなんて数えるほどあるものか。
「そりゃお前、力を貸してくれるところだろ、願いを叶えてくれることだろ、あと契約内容に嘘をつかない、制約を反故にしない」
「弱い奴は相手にしないし食い物にするし、デメリットが目立ちすぎてんだよ。そこどうにかしろ」
「そうはいっても、それが悪魔だからなぁ……ああ、でもそれやたら高位な悪魔の場合だろ。72柱とか爵位持ってる系の奴は駄目だって。あいつら大概人間を娯楽のための道具としか見てないから」
最低だな、まさに悪魔って感じだ。
「でもそこはほら、私たちは人間と友好を結びたい系の悪魔だから、人間サイドの親身になって考えるから。その辺りアピールしてもらえば」
「うーん」
「だがリムル、悪魔と契約したがる人間は稀ではないのか。神を信じる生き物が進んで地獄に落ちたがるとも思えないが」
「あーそっかー」
そういう問題か? そういう問題なのか?
「確かに悪いことをしたら地獄に落ちるけど、別に地獄って悪い場所じゃないんだけどなぁ。じゃあレクトはそれも広めてくれ」
「えっ、地獄って悪い場所じゃないの?」
「当たり前だろ? まあ余程変な悪魔と魂で取引さえしなければ、ちょっと亡者に生まれ変わるだけだし、上手くすれば悪魔になれるぞ。まあ大抵はそうなる前に食われて転生するけど」
「ちょ、ちょっと待て。亡者に転生ってどういうことだ。どういう仕組みになってるんだ」
それからブッキーから詳しい解説を聞いた感じ、なんとなく理解した。
人間は悪魔と契約した瞬間からその魂は神に見放され、天国には行けずに亡霊となって彷徨うか、魔界や地獄で亡者へと生まれ変わる。
亡者は基本的に弱いので魔物の餌になって人間に転生するか、時々逆に魔物を食って悪魔っぽい魔物になる。
悪魔と魂の取引をした場合は記憶や人格諸々を失って、単細胞生物からやり直しとなり、人間に転生するまで下等生物の順から何度も転生を繰り返すことになる。
ちなみにさっきから言っていた変な悪魔と言うのは、まるで養殖フォアグラを作るように、まさに地獄のような苦しみを魂に与えることで、魂の味を極上に引き出す行為らしい。
「あー、フォアグラな。あれ美味いよな」
「へぇ、お前高級食材食えるくらい裕福だったのか?」
「一時期流行ったんだよ。まあそれは今関係ないだろ」
「だな。てなわけで、お前にゃその辺りの誤解も解いてもらいたい」
まあ早い話が悪魔崇拝の邪教を広めればいいのか。そのために都合のいいことばかりを口上に並べていく。
「中々最悪だな」
「そうか? 割と人間にもメリットはある。それに本当に天国がいい場所って保証も無いし、そっちを信じてるのが不思議なくらいだ」
それはもうイメージの問題だろう。人間には多かれ少なかれ罪悪感というのがある。
「罪悪感にビビってんのは弱い証拠だよな。強いと逆に……気持ちよくなっちゃうぞー?」
「なにちょっと意味深な言い方してるんだお前は」
「リムル、気色悪いからやめろ」
「ちぇっ、このED野郎め……まあでもこの方針で大体いいだろ?」
まあ確かに、邪教として広まれば色々食いついてきそうだし、リステアの情報も得やすくなるかもしれない。
俺としてはなんら問題ないが。
「それではちょっと足りないな。人間は即物的な生き物だ。利益は手軽に、すぐ手に入るものが良い」
「ほーう? じゃあブッキー様は何か案があるんですかねぇー?」
「ある。これだ」
ブッキーが取り出したのは、アイデンティティともいえる本一冊。
「本がどうしたんだよ?」
「本に限らないが、魔道具を貸与するというのはどうか」
「魔道具かぁ」
「信用を得るには力を示すのが手っ取り早く、信頼されるには力を貸すのが良い。だがレクトの身は一つしかない。故に、私達が道具に変身し、分身する」
悪魔は本当に便利だな。変身だの分身だのと。
「魔道具を広めれば神信者にもある程度対抗できるだろう」
「その神信者ってのは魔道具使わないと厳しい相手なのか?」
「当然だ。まず規模が違いすぎる。影でこそこそと活動している弱小邪教では、ほぼ世界中に知れ渡るアレに対抗するのは難しい。また異教徒に厳しく、邪教は特に目の仇にされる。そして、神の寵愛と加護を受けた勇者と聖女は恐るべき力を持つ」
悪魔が怖れるほどの力というと、やはり悪魔系に対して特攻力があるのか。
でもなるほど、そういうことか。
「聖女も来るのか」
「そう。これはお前の嫁探しにも関わってくる。勇者と聖女は二つで一つのセットだ。勇者が率いる部隊には必ず一人は聖女が居る。情報の収集もしやすいだろう」
「確かに、それはいい」
聖女クリスティア・ミステア。俺のリステア。
全ては彼女と再会するための道具、そして手段にすぎない。
そして彼らもそう。俺は彼らにとって降って来た非常に都合の良い機会で、便利な道具だ。
便利な魔人間。魔道具……。
今日はやけに鼻息が大きく聞こえる寝苦しい夜だ。
いい加減、俺の睡眠を邪魔すると洒落にならないということが知れ渡ってきたと思っていたのだが。
睡魔に目覚めた俺を相手するのは、あのリムルですら二回で控えるようになったほどらしい。
らしいというのは、俺にその記憶が無いというか、曖昧だからだ。眠い時の記憶がはっきりと残っているわけがない。
しかし、ではこのやたらと強い力で両腕を塞いでくる奴は一体誰だ?
まずリムルはない。あいつはもっと騒いで起こすタイプだ。悪戯をしかけることもあるが、最中にばれるような迂闊な奴ではない。
じゃあフェチシアがまた性懲りも無く搾りに来たのか?
ありえそうと言えばそうだ。だがフェチシアは寝込みを襲って力尽くというタイプではなく、むしろ布団に先回りして寝ようと気が緩んだところを待ち伏せるタイプだ。自分が魅了しなければ納得しない性格だから、こんな力技は使わないはず。
ではボーンがこの時のために女体を手に入れた?
それこそボーンの性格ではありえない。そもそもそれなら女体のクオリティにこだわる必要など無かった。
ならばブッキーは……もはや考えるまでも無く、その可能性は絶無。
となれば、一番ありえるのは一匹だけだ。
俺は答え合わせのつもりで瞼を開けた。
あの狼男だという確信を持って、その眼で姿を捉えた。
「っ……!?」
少なくとも、その表情は必死すぎた。そしてあまりに切なげな表情に睡魔が吹き飛んでしまい、逆転の目が消えてしまったことを悔やんだ。
「ちょ、ガルッ……」
ガルゥの名を口にした瞬間、ガルゥの上気した顔は一瞬で近づき、俺の首に噛み付いた。
しかしそれは肉を抉るような暴力的なものではなく、まるで優しく愛撫するような甘噛みだった。
ガルゥの方を見ようとすると、それを阻止せんと頭部を顎の下にねじ込まれる。
早鐘を打つ心臓よりも素早く繰り返される呼吸と、ほぼ同じリズムで震える俺の腹部に何かが擦り付けられている。
「こら、こらこらこら」
この状態はあれだ。最初に出会ったときと同じ暴走状態だ。
ついに人間の匂いへの衝動が抑えきれなくなったか。
「ハッ、ハッ、ごめんなさい、ごめんなさい。もう限界なんです。ハッ、許してくだ、許し……くぅんっ!」
俺がどうしたものかと悩んでいるうちに、俺の腕を押さえるガルゥの力が一層力を増し、その体が大きく跳ね、痙攣する。
極限まで込められた全身の力が、ふと脱力してこちらに全体重を預けてくる。
腹に感じる熱くじっとりとした感触はなるべく考えないようにして、俺はとりあえず二度寝することにした。
朝起きてすぐにシャワーを浴びることにした。
「本当に、本当にすいません……」
「なるほど、発情期ねぇ……」
悪魔の癖に発情期があるのかと思ったが、まあ七つの大罪にも色情があるくらいだしあっても不思議ではない。
いや、むしろ容赦なく襲うほうが普通であり、謝りながら事に及ぶなんてほうが悪魔らしからぬ行いである。
発情期より罪悪感のほうが、悪魔としてどうかというところ。
「あっ、それは僕の趣味です。謝りながらのほうが悪いことしてる感じがして」
「こいつも例に漏れずってことか。いや、お前は漏らしたな」
「…………」
罪悪感をむしろ快楽へと変える。それが悪魔の興というものらしい。
っと、いけない。少し苛め過ぎたか。
「にしても、なんで俺なんだよ。お前は男だろ。女を襲えよ」
「女……レクトさんの言うことも分かりますけど、考えてみてくださいよ」
「うーん?」
シャンプーで頭を泡塗れにしながら、俺はガルゥの弁明に耳を傾けることにした。
「ここに居る女性って、危なすぎるじゃないですか」
「そうか? お前の力なら簡単に組み伏せられそうなんだけど」
俺も一切の抵抗が許されず、無惨にも性欲の捌け口にされた。
「リムルは……まあマニアックだな、幼女だし。ブッキーもちょっとそういうのしたら消し炭にしてきそうだ」
「でしょう。あれはちょっと洒落になってない」
「じゃあフェチシアとかボーンは? ボーンは親しい仲だったろ? 最近いい女体を手に入れたし」
「命に関わる淫魔を勧めないでください! あと、ボーンは論外です」
論外? それはちょっと言いすぎじゃないか。
ボーンの女体はフェチシアに迫るものだ。性魔としても十分に通用する。
あれを論外というなんて、ガルゥも何か特別な性癖の持ち主なのだろうか。
「ほら、僕って狼じゃないですか。だから鼻が利くんですね。するとほら、アンデッド系は匂いが……」
「匂いって、腐ってるようには見えなかったが?」
転身してから生活を共にしたが、腐臭はまったくしなかった。
蠅の一匹、蛆一匹とて見かけなかった。脈拍と体温が無いことを除けば、完璧に肉体として成立していた。
ちなみに血液には影の部分を使っているらしい。
「アンデッド系独特の匂いがあるんですよ。ちょっとあれは僕には無理ですね」
「そうかー……あっ、獣系といえば居るじゃん、同類が」
リムルは小悪魔、ブッキーは魔本、ボーンとドラキュリーヌはアンデッドでフェチシアはサキュバス。
最後に残ったのは獣系の魔物を象った悪魔。
「クロですかぁ? クロは……単純に好みじゃないです」
「あ、そっかぁ……って、それでも俺よりはマシだろ。少なくとも男ではない」
「……その、なんていうんですかね。レクトさんの匂いがいいんですよ」
また匂いか。まさか人間の魂とは別に、単純にこの体の匂いが好きってことか?
「出来れば初めて会ったときみたいに乱暴に扱って欲しいです」
睾丸蹴り上げた時だな。変な性癖に目覚めさせてしまったのは俺だったようだ。
「あの、一つ確認するけど、男色の気があるのか?」
「そ、それはリムルさんが言いふらしてるだけで誤解です! 僕はレクトさんの匂いに惚れただけです」
イヌ科らしい応えを聞き届けて泡を流す。
それにしても毎夜こんなことをされては俺の安眠が危うい。どうにかならないものか。
「その発情期とやらはいつまで続くんだ?」
「ええっと、一月もすれば」
「長い」
狭い湯船だが、ぎりぎり二人で入ることが出来る。
ガルゥと肌を重ねながら強引に体を押し込んで肩まで浸かる。
「っ……」
「まあ、寝る前にちょっと下の世話するくらいなら問題ない」
「えっ?」
「俺は安眠を確保したい。お前もかなり美形だし、俺が相手してやってもいい。ただ寝込みを襲うのは勘弁してくれ」
顔を染めて口をパクパクと金魚のようにしているガルゥを横目で観察して面白がっていると、不意に体を密着させてきた。
あえて目を逸らすと今度は手足を絡ませてきたので、俺の貞操を守るために求めに応じることにした。
「あの、あのっ!」
「あー分かった分かった」
「よ、よろしくお願いします……」
異世界に来て、魔人間になって、まさか狼男の性欲処理をすることになろうとは夢にも思わなかった。
体を預けてくるガルゥの額を撫でながら、少し温くなった湯船を沸かしなおす。
「あの、レクトさんは、その……」
「必要ない。俺はリステア以外の存在に体を許す気は無い」
「あっ、はい……」
蚊の鳴くような声だった。
俺の言葉と行動が、彼にそうさせたというのなら、きっと昔の俺なら気を使っただろう。
無駄に心配して、心労を溜め込んで。馬鹿みたいに、間抜けのように。
「なあガルゥ。俺は美味そうか?」
「えっ?」
「俺は美味そうか、と聞いたんだ」
困った表情を浮かべているガルゥを眺め続ける。
「えっと、い、頂けるんですか?」
「俺の体はリステアだけのものだ……ガルゥ、お前にとって食べるとはなんだ」
何でこんな質問をしているのか、自分でよく分かっていない。
ただの酔狂か、それとも何かを求めているのか。
「……悪魔は死なないから、食事は嗜好のためだけ。でも、それは人間も同じ、じゃないの?」
「まあ、そうだな。なるほどそんなもんか」
「でも、それなら今すぐ食べちゃってるよ。僕」
ガルゥの瞳が俺の首元を舐めるように這っているのを感じる。
油断している俺の喉なんてすぐに噛み千切って、湧き出る血で喉を潤し、肉を喰われ、骨をしゃぶられる。
「じゃあなんでしないんだ? 悪魔のくせに」
「えっ、そんなの仲間だからに決まってるよ」
まさか、こんなところで驚かされるなんて思わなかった。
そんな陳腐な台詞が飛び出してくれるなんて思いもしなかった。
「仲間……同じ悪魔ってことか? それとも人間と友好を結ぶ者同士ってことか?」
「それは……それもあるけど、それだけじゃないよ」
曖昧な受け答えだ。俺も少し短気が過ぎるか。でもその先の答えを聞かずにはいられない。
まさか俺が寂しがっているなんてことはなかろうな。
「僕は君が好きだ。たぶんそれだけ」
「俺が好き?」
「うん、君の人間の魂の匂いも、君の人間としての魂の在り方も、一途にリステアさんを思う心の在り方も。誇り高くて……だからじゃれたくなるんだ」
じゃれたくなる?
「僕と一緒に居てほしい。僕に食べさせて欲しい、僕に食べられないで欲しい。ただの味方ではなく、敵ではなく、捕食者でもなく」
「それは、どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。狼の頭はそこまで良くないから、こう言うしかない。僕は君が大好きなんだよ」
大好き、ガルゥが俺を? どうして俺を好きに?
人間だから、いい匂いだから、魂が好みだから、男だから……
「えーっと、なんて言ったらいいか……そうだ、僕は君に期待しているんだ!」
「期待?」
「君なら僕と一緒にいてくれるかもしれない、僕とじゃれあってくれるかもしれない、僕と肩を並べてくれるかもしれない。楽しませてくれるかもしれない。そんな感じ」
期待……なるほど期待か。一方的な押し付けのような、重くて邪魔で取り扱いの面倒なものを。
「なら、俺がその期待に応えたら?」
「君の事をもっと好きになるし、もっと期待しちゃうかもね」
「応えられなかったら?」
「次に期待するよ」
悪魔らしくないな。悪魔なら、悪と言うのは許すことを知らない。多くとも三度で見離すものだと思っていたのに。
「随分と寛容なんだな」
「狩りに失敗しているたびに仲間を責めても仕方ないでしょ? 他は知らないけど、少なくとも僕ならそうするよ」
「別に本物の狼じゃないくせにな」
毒を吐いているつもりなのに、なぜかガルゥは楽しそうに笑っている。
しかしまあ、そういうことなら仕方ない。
「少しだけだからな」
「はい?」
少しだけ、久しぶりにそういう関係を楽しんでもいいだろう。
だから、今は少しだけ口が軽くなる。少しだけ心が浮いて、安易に他人に期待し始める。
やっとそういうのから卒業できたと思っていたというのに。
「人間だった頃、俺は人間が嫌いだった」




