43話 入れ替わり
本日1話目の更新です。
次19時頃の投稿が最終話となります。
夜になったらジェイクに見送りとポプリのお礼を言いにいこうと思っていたのに、クロードさんが爆弾発言をするものだからとうとう行けなかった。
ど、どんな顔をして会えばいいの……。
ジェイクは見られているのを承知の上で私のわがままにずっと付き合ってくれていたってこと……?
ずっと心臓がばくばくとうるさい。
何も知らずに甘えていたのが恥ずかしいのと、どうしようもなく嬉しいのとで頭がぐちゃぐちゃだった。
***
ほとんど寝られずに迎えた朝。
グローゴルド侯爵家から押収した腕輪を持って、セドリック殿下が公爵家にやってきた。
クロードさん、ミリアーナさん、シェリルちゃんとともに殿下を迎え、アンジーちゃんのいる客室へ向かう。
「やあ、アンジー。ハルティア嬢の腕輪を持ってきたよ」
「そう。じゃあこの机の上に置いてちょうだい」
アンジーちゃんの指示通りに腕輪が置かれる。あの日宝物館で見たのとそっくり同じに見えた。埋め込まれた宝石は青く揺らめいている。
「ハルティア嬢によると、本物の腕輪の宝石を外して偽造した腕輪の方に付け替えて祈ったら願いが叶ったらしい。押収した時には宝石が嵌ってなかったから、付け替えてきたよ」
「そうね、それでいいわ。あとはこの腕輪を2人で持って、元に戻りたいと心から願えば良いそうよ。——フィーリア、準備はいいかしら?」
アンジーちゃんの問いかけに私は頷いて手を伸ばす。
——元の体に、フィーリアに戻して。
腕輪の宝石の青い光がまたたく間に大きくなり、部屋中に広がる。
眩しさにぎゅっと目を閉じ、光が弱まってからそろそろと目を開く。
はっとして顔を上げると、目の前には艷やかな金髪と透き通る赤い目の少女が妖艶な笑みを浮かべていた。
「も、戻った……」
こんなあっけないものなのか。
呆然としていると、窓も開いていないのにふわりと風が吹く。どこからともなくステラリリィの甘い香りがした。
「うちの娘がご迷惑をおかけしてごめんなさいね」
「ほんとにごめんなさいぃ」
鈴を転がすような透き通った声と、何度も夢で聞いた涙声。
いつの間にか部屋には2人の妖精がいた。
絵姿よりも少し大人びた姿のステラリリィは、頬に手を当てて、本当に困った子で……とため息をつく。その横でスターチアがしょんぼりと俯いてワンピースの裾を握りしめていた。
「お家には帰れた?」
私はスターチアに近づいて、屈んで目線を合わせてそう尋ねた。
「うん。ごめんね。何度も呼ぶのもだめだってママに怒られたの」
「気にしてないよ。帰れて良かったね」
よしよしと頭を撫でると、スターチアは安心したように少し笑った。
「あなたたちへのお詫びに、加護を贈るわ。受け取ってちょうだいね」
ステラリリィがそう言うと、きらきらした光が私とアンジーちゃんに降り注ぐ。なんだかほんのり温かい気がした。
「それではさようなら、人の子たち」
ステラリリィの声とともにまた風が吹き、部屋から2人は姿を消した。
ふと机に置かれたままの腕輪を見たけれど、もう宝石は青くはなかった。
あまりの出来事にみんなで呆然としていると、ぱん!と手を叩く音が響いた。
「さあ、ぼんやりしていないで。セディは腕輪の宝石を戻しに行きなさい。お父様は議会、お母様はお茶会があるのではなくて? のんびりしている時間はなくてよ」
「ちょっとくらい愛しい婚約者が元の姿に戻った感動に浸らせておくれよ」
そう苦笑いしながらセドリック殿下はアンジーちゃんの指先に口づけ、また来るよと別れを告げた。
クロードさんとミリアーナさんも出ていき、客室には私とアンジーちゃんとシェリルちゃんが残される。
「フィーリア。あなたはどうする?」
「3人でお茶をしましょうよ。お姉様のこれまでのお話も、リアのデビュタントのお話も、私ゆっくり聞きたいわ」
ね? とシェリルちゃんが私の腕を取る。今にも折れそうな、骨しかない細い腕。
「あ……わ、私、あの、会いたい人が……」
言いかけて、たまらなく怖くなった。今の私にはアンジーちゃんの美貌がない。がりがりで、可愛くなくて……。
この体で一生懸命生きていく決意はした。その気持ちに揺らぎはない。
けど、けれど、この姿で会いに行って、がっかりって顔をされたらどうしよう。そっけなくされたらどうしよう。引きつった顔で優しくされたら?
今までの思い出と、嫌な想像が交互に頭の中で膨らんでくる。
「もう、なによ! 私よりあの庭師の方が大事だって言うのね!」
「シェリル、あなたにもヒューバートがいるでしょう」
「それとこれとは別なの! もう! 会いたいんだったらとっとと行ってきなさい!」
「でも、でも、でも……」
「うじうじしない!」
ぷんぷん怒るシェリルちゃんに気圧されていると、後ろから頭にふわりとショールがかけられた。
「恥ずかしいならこれをかぶっていくと良いですよ」
振り返るとメアリが穏やかに微笑んでいた。
このショールは脱走用にいつもメアリが用意してくれていたものだ。
「め、メアリも全部知ってたのよね……?」
メアリは返事をしなかった。ふふふ、と余裕のある笑みだけが返ってきた。
ショールで頭をすっぽり覆った不審者スタイルで、昼の庭をゆっくり歩く。ショールは夏用の薄いものだから顔が完全に隠れるわけではないけれど、少しだけ怖さが和らぐ。
ずっと着かないでほしいという願いは叶わず、とうとうジェイクの家の前まで来てしまった。今日は家にいると聞いていたけれど、いつものように小石で合図する勇気が出ない。
どうしよう……と小石を握りしめ立ち尽くしていると、家の扉がゆっくりと開いた。




