25話 突撃! シェリルちゃんのお部屋
シェリルちゃんの部屋は白を基調として、淡いピンクや水色、そしてレースがたっぷりのお姫様! って感じの可愛らしいお部屋だった。
いつもお洋服も可愛い感じだからイメージ通りだけど、似合っててほんとに可愛い。
ふわふわの白いうさぎのぬいぐるみをぎゅむっと抱きしめてシェリルちゃんはソファに座っていた。気遣わしそうな表情を浮かべた侍女さんたちとメアリがお茶のワゴンを置いて退室する。
言い出しづらいのか、ちらちらこちらを見てはうさぎを抱きしめるシェリルちゃんの様子を見て、私はまた今日もお茶を淹れるのに挑戦する決意をした。
前回すごい渋かったから、次は美味しく淹れられるようにってちゃんとメアリに教わったんだよ。まあ数日程度じゃそんなに上達してないけども。
「はい、どうぞ」
2人分のお茶を無事に淹れて、シェリルちゃんにティーカップを差し出す。シェリルちゃんはおずおずと手を伸ばした。
私も向かいの席に座って自分の分を一口飲む。
……うん、まあ、こんなもんでしょ。
「……しぶくない」
うさぎを抱きしめながら器用に紅茶を飲んだシェリルちゃんがぽつりとつぶやくように言った。
「そうでしょう、練習したのよ」
得意げにするほどおいしいわけではないんだけど、空気を軽くするためにちょっとふんぞり返ってみた。シェリルちゃんは思わずというように笑みをこぼした。
「ふふふ……お姉様の姿でそれは似合わないわね」
「ええー? そうなの? アンジェリカ様ならどう言うかな?」
なんとなく、お嬢様言葉じゃなくて普通に話した方がいい気がして素の言葉で話す。シェリルちゃんは私の口調を咎めなかった。
「そうね、『わたくしが淹れたのだから美味しいのは当然でしょう』とかかしら。お姉様のお茶はほんとにおいしいのよ」
「なるほど、そういう感じなんだね……。私もアンジェリカ様のお茶飲んでみたいな」
お茶を淹れるのは淑女の必須スキルらしい。練習をお願いした時にメアリがそう言っていた。成人したらお茶会に招かれるようになるのはもちろん、自分で開催することも出てくる。その時、ホストとしてお客様をもてなすために手ずから淹れたお茶を振る舞ったりするらしい。特別なお客様、特別なお茶を振る舞う時にこそ必要なスキルなので、緊張して失敗したりしないようにたくさん練習しないといけないんだとか。
「元に戻ったら、お姉様に淹れてもらって一緒に飲みましょ」
「うん、そうだね」
そんな機会があったらいいな……。そう思いながら胸が痛んだ。
「……その、それで、この前はごめんなさい。心配してくれてありがとう」
空気が和んだところで、シェリルちゃんはおずおずと切り出した。
「ううん、謝ることないよ。今日おしゃべりできて嬉しい」
「…………この前、お母様と一緒にヒュー……ええっと、婚約者のヒューバートの家に行ったの」
シェリルちゃんはうさぎに視線を落とし、ぎゅっと抱きしめた。うさぎの透き通った赤い目が陽の光を受けてきらりと光る。
シェリルちゃんの目と同じ色で綺麗だなと思いながら話の続きを静かに待った。
「べつに、なにか嫌なことを言われたとかじゃないの。その……お姉様が急に倒れてしまったと前に話していたから、彼はお姉様が無事に目覚めてよかったね、デビュタントが楽しみだねってそう言っただけなの。お母様みたいに、何も問題ないって涼しい顔して返事しなきゃいけなかったのに、私うまくできなくて……。淑女失格だわ。それに、お父様もお母様もお忙しいんだから、わたくしがもっと頑張ってお姉様が元に戻れるための手段を探さないといけないのに何も見つからないし……。その、それで、なんだかもう色々と嫌になって引きこもっていたの。心配かけてごめんなさい」
うさぎに顔を埋めながらシェリルちゃんは小さな声でそう話して、大きくため息をついた。
「シェリルちゃんはえらいね。私は毎日のレッスンとかで手いっぱいで、全然アンジェリカ様との入れ替わりについて調べたりできてなかったから……。ごめんね、ひとりで背負わせちゃって」
元に戻ることに関して、積極的に調べたりはしていない。たいへんだ、忙しいと自分の心に言い訳して見ないふりをしている。そんな自分が情けないのと罪悪感で苦笑いしていたけれど、ふと昨日のセドリック殿下との話を思い出した。
「あ、でも、そういえばセドリック殿下にステラリリィの腕輪について聞いてみたよ。シェリルちゃんは知ってる?」
「ステラリリィの腕輪? 王宮の宝物庫にあるもののこと? 願いが、叶うっていう」
急な話にきょとんとした顔をしていたシェリルちゃんは、話しながら次第に目を輝かせた。期待させてしまったことに申し訳なさを感じながら私はしょんぼりと返す。
「絵本で見たから、実在するのかなって聞いてみたんだけど、もう願いは使っちゃった後なんだって」
一瞬輝いた目からまた光が消える。シェリルちゃんはそうなの……と力なく言って肩を落とした。
「でも、本当に願いが叶うものだったのね。作り話だと思っていたわ」
「おとぎ話みたいだもんねぇ。まあ、私に起こっているこの現象もおとぎ話みたいなものだから、ほかにあってもおかしくないといえばそうだけども……」
ジャムの挟まれたクッキーを2人でため息をつきながらつまんだ。
丁寧に煮込まれたジャムの甘さが疲労感やどうしようもない行き詰まり感を少しだけ忘れさせてくれる。
「それでね、セドリック殿下に、王宮に腕輪を見に来ないかって誘われたんだけど……王宮に行ったら色んな人と会う……よね?」
言いながらおずおずと上目遣いでシェリルちゃんを見つめる。最後まで言わなくても察したシェリルちゃんは苦笑いを浮かべた。
年下の女の子に頼り切りで恥ずかしくないのかって? 強がってひとりで突撃して失敗するほうが怖いよ! いやまあ殿下が何にも考えなしに招いてるとは思わないけど。味方は多いほうがいいよね。
「仕方ないわね。殿下の許可が取れたらついて行ってあげるわ。殿下へのお手紙の出し方はわかる?」
「お、教えていただけますと……」
「まったく、リアは世話が焼けるわね」
書き物机から便箋を取り出したシェリルちゃんは、呆れつつもどこか嬉しそうにしていた。




