第6話:極楽サウナと姫騎士の敗北
「ふふ、トイレだけでも十分夢のような空間だけど……たくみちゃん、まだ何か作る気でしょう?」
コアが楽しそうに目を細める。
「ふふふ……よくぞ気づいてくれた、コア! お風呂やトイレだけじゃ、現代人の深い疲労は取れないんだよ……。今から作るもの、それは——『本格フィンランド風サウナ&極上冷水風呂』だ!!」
タクミが腕を掲げると、浴場の奥に新たな扉が出現した。
室内には香ばしいヒノキの木材が惜しみなく張り巡らされ、中央には魔力で真っ赤に熱せられたサウナストーン。そのすぐ隣には、魔導冷却技術で【常時15度】にキープされた清らかな冷水風呂と、謎の折りたたみ椅子が並んでいる。
「むむ……? 主よ、この木に囲まれた部屋は一体……? 部屋全体が異様に熱気で満ちておりますが、まさか……罪人を閉じ込めて蒸し焼きにする拷問部屋でしょうか!?」
エレノアがサウナ室の前に立ち、宝剣の柄に手をかけながら戦々恐々と警戒の声を上げた。
「拷問部屋じゃないよ! これは身体を温めて汗をかき、深いリラックスを得るための『サウナ』っていう健康法なんだ。さあ、大きなタオルを巻いて入ってみてくれ」
「は、ははっ! 主が『入れ』とおっしゃるなら、たとえ火の海であっても飛び込みます!」
悲壮感を漂わせつつ、固くタオルを巻き直してサウナ室内へ踏み込むエレノア。
「よし、じゃあ『ローリュ』いくぞ」
タクミがアロマ水をサウナストーンへ注ぐと、シュワァァァ……! という心地よい音と共に、柑橘系の香りを纏った熱い蒸気が一気に室内へ広がった。
「っ!? 熱気が……温かい蒸気の波が押し寄せてきます……っ!」
エレノアは最初こそ体を強張らせていたが、熱風が全身を包み込むにつれて、その表情が劇的に変化していった。
「あ、熱い……ですが……不思議です。身体の深部からじわじわと温まり、身に溜まっていた戦の疲労や毒素が、汗とともに押し流されていくような……! ふぁあぁぁぁ……っ、なにこれ凄く気持ちいいです主よ……!」
熱気に包まれ、白銀の髪を湿らせながらうっとりと目を細めるエレノア。
しかしその隣では——
「んあぁっ……! あはぁっ……たくみちゃん、ダメ……っ! ダンジョンの真ん中でこんなに熱い蒸気を噴き出されたら……私まで……溶けて……溶けちゃいそう……っ♡」
サウナ室の過剰な熱気と魔力蒸気がダンジョンコア(自身の身体)に直撃し、コアがトロトロに蕩けた表情でタクミの肩へともたれかかってきていた。
豊満な肉体が汗でぐっしょりと濡れ、薄手のタオル越しに柔らかい感触がダイレクトにタクミの二の腕へと伝わってくる。
「コ、コアさん、密着度が高すぎます……!?」
「だってぇ……力が入らないんだもの……っ。たくみちゃんが私を熱く火照らせるのが悪いんだからね……♡」
しっかりと汗をかいて身体が温まったところで、タクミは二人を促した。
「よし、身体が十分に温まったら……次はこの『冷水風呂』に入るんだ!」
「ええぇっ!?」
エレノアが飛び上がらんばかりに目を見開いた。
「主よ!? この熱々になった身体で、あの見るからにキンキンに冷えた水風呂に入るのですか!? それこそ心臓が止まってしまう拷問では……っ!?」
「騙されたと思って入ってみてくれ。絶対飛ぶから!」
「うぅ……主のお命じとあらば……っ!」
意を決したエレノアが、恐る恐る足先から冷水風呂へ浸かり——一気に肩まで沈んだ。
ドボン……!
「きゃあっ……つ、冷た……ッ!? ……あ、あれ……? 冷たいのに……痛くない……? むしろ熱く火照った皮膚の表面がキュッと締め上げられ、体内で熱がギュッと凝縮されていくような……っ! な、なんですかこの快感は……っ!? 全身の血流が激しく脈打っています……っ!!」
冷水風呂の衝撃と快感に、エレノアは興奮で頬を真っ赤に染め、瞳を爛々と輝かせた。
「よし、十分に冷やしたら体を拭いて、この『ととのい椅子』に深く腰掛けて、身を委ねて目を閉じるんだ」
「は、はい……!」
濡れた身体を素早く拭き、リクライニングされたインフィニティチェアへ深く身体を預けるエレノア。
その瞬間——。
脳内物質が一気に溢れ出し、圧倒的な『浮遊感』と『至福の快楽』がエレノアの全身を突き抜けた。
「ふぁはぁぁぁぁ……っ……ん……ッ……♡」
エレノアの口から、もはや聖騎士としての矜持など欠片もない、トロけた吐息が漏れ出した。
重力から解放されたかのような心地よさ。視界が心地よく回転し、全身の細胞が歓喜の産声を上げている。
「す、すごいです……世界が……ぐるぐると包み込んで……私、天界に昇ってしまいそう……っ」
あまりの気持ち良さに警戒心も自尊心も完全に崩壊。
汗と蒸気で胸元のタオルの結び目がすっかり緩み、豊満な胸の谷間やしなやかな太ももが盛大にはだけているのにも全く気づかず、エレノアは口を半開きにしたぽわ〜んとした表情で、完全に力を抜いて脱力していた。
凛々しい聖騎士長としての面影はゼロ。ただただ『ととのい』の快楽に敗北し、無防備すぎる極上の痴態を晒し切っている。
「あっはは! 伝承の聖騎士様、完璧に『ととのって』骨抜きにされちゃってるわね〜」
先に水風呂から上がっていたコアが、クスクスと笑いながらタクミの背中に抱きついてくる。
「……まあ、喜んでもらえたなら作った甲斐があったかな」
サウナ、冷水風呂、そしてインフィニティチェア。
現代日本の誇る極楽のリラックスギミックに完全に敗北した姫騎士を前に、タクミは苦笑しつつも、ダンジョンの平和で過剰な夜を満喫するのだった。




