第4話:最弱ダンジョンの初戦と無双
「主よ……! このような素晴らしい装備まで与えてくださるとは……!」
ダンジョンの応急改築エリアにて。
タクミから『神級クラフト』で新たに錬成された「白銀の聖騎士装」を受け取ったエレノアは、感涙にむせびながらその胸甲に触れていた。
長年の封印で破けた旧式甲冑とは違い、上質な魔導金属とシルクで組み上げられた最新鋭のドレス鎧。過剰なまでの「自動修復」と「全属性耐性」が付与された、まさに神級の防具だ。
「さっきみたいに服が弾け飛ぶ心配もないからな。これで思い切り戦えるだろ?」
「ははっ! 勿論にございます! このエレノア、主の盾となり敵を粉砕してみせます!」
凛とした表情を取り戻したエレノアが、新調された甲冑の胸を張る。
しかしその豊満な胸のカーブにぴったりフィットした装甲は、防御力と同時に凄まじい眼福感を醸し出していた。
そんな和やかな空気を破ったのは、エントランスに設置された警報装置の作動音だった。
キィィィン……!
『警告:ダンジョン1階エントランスに侵入者あり。人間反応:4名』
コアが水晶のモニター(ダンジョンの空間映像)を空中に投影する。
そこに映し出されたのは、下品なニヤケ顔を浮かべた男たち——見るからに質の悪い冒険者パーティーだった。
「ひひっ、おい見ろよ! この廃ダンジョン、マジでコアの魔力が戻ってやがるぞ!」
「ガハハ! 儲けもんじゃねえか! 居座ってる魔物を叩き潰して、ここを俺たちの『奴隷売買と盗品の隠しアジト』にしてやるぜ!」
下劣な会話を交わしながら、武器を抜いて土足で足を踏み入れてくる4人の冒険者たち。
「……虫ケラどもが。主の聖域を汚すなど、万死に値します」
エレノアの透き通った瞳に、冷徹な殺気が宿る。
「待ってくれ、エレノア。せっかくだから……俺の作った『初期トラップ』の性能をテストさせてほしい」
タクミは不敵な笑みを浮かべ、ダンジョンの空間操作パネルを起動した。
◇
「おいおい、罠のひとつも仕掛けてねぇのか? 拍子抜けな廃ダンジョンだぜ——」
リーダー格の男が、ダンジョンの中央通路へと足を踏み入れた、その瞬間。
カチッ。
「……あ?」
足元で鳴った小さなスイッチ音。
直後、男たちの足下の石畳が、一瞬にしてドロドロの粘着質な「特殊泥沼」へと変貌した。
「うおっ!? なんだこの泥は……足が抜けねぇ!?」
「くそっ、脚力を強化する強化魔法を——な、なんだと!? 魔法が発動しねぇ!?」
タクミが仕掛けたのは、単なる粘着泥ではない。『魔力封印』と『超重力』の重複付与が施された極悪仕様だ。もがけばもがくほど、体内の魔力と体力が泥に吸い上げられていく。
「な、なんだこの異常な罠は!? 魔法もスキルも使えないなんて聞いてねぇぞ!?」
パニックに陥る冒険者たち。しかし、悪夢はそれだけでは終わらなかった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
彼らの目と鼻の先——わずか数十センチ前の床が重低音とともに崩落し、深さ100メートルの巨大な大穴が口を開けたのだ。
穴の底を覗き込んだ男たちの顔から、一瞬で血の気が引く。
最下層に渦巻いているのは、ドロドロと赤黒く波打つ灼熱のマグマプール。強烈な熱風が吹き上げ、男たちの顔を焼き焦がす。
「ひっ……ひいいぃぃっ!!? な、なんだよこれぇええっ!?」
「とんでもねぇ深さの穴!? 底にマグマ!? 馬鹿じゃねぇのか!! どんな過剰防衛だよ!!?」
一歩踏み外せば問答無用で灰になる絶望の光景。
さっきまで威張っていた悪徳冒険者たちは、腰を抜かして泥の中でガタガタと震え上がり、涙と鼻水を撒き散らした。
「ふむ……『足止め泥沼』と『マグマ大穴』の連携、悪くないな。でも動揺した敵が暴れてマグマに落ちたら死んじゃうな。念のため手加減して捉えるか」
「タクミちゃん……普通は落ちたら即死させるための罠なのよそれ……」
呆れるコアを余所に、タクミはエレノアへ合図を送った。
「エレノア、仕上げだ。生かしたまま捕獲してくれ」
「御意にございます、主よ!」
白銀の閃光が走った。
エレノアが姿を消したかと思うと、次の瞬間には泥沼にハマった男たちの目の前に着地していた。
タクミが『神級クラフト』で錬成した至高の聖剣が、一筋の美しい光を描いて振り抜かれる。
ズドォォォンッ!!
斬撃そのものが放った圧倒的な衝撃波と光芒が、男たちの頭上を突き抜け、ダンジョンの頑丈な岩壁を遥か彼方まで粉砕した。
「「「「ひぎゃあああぁぁぁっ!!???」」」」
死を覚悟した男たちは、あまりの威圧感と密度の違う強大さに眼球を剥き出しにし、泡を吹いてその場に崩れ落ちた。全滅——いや、完璧なる精神的敗北(分からせ)であった。
◇
数分後。
縄でぐるぐる巻きに縛り上げられ、涙目で命乞いをする悪徳冒険者たち。
「ご、ごめんなさいいぃぃ! 命だけは助けてください! なんでもしますからぁ!」
「俺たち、今日から改心して真面目に生きますからぁ!」
哀れに命乞いをするかませ犬たちを見下ろし、タクミは顎に手を当てて考えた。
「そうだな……殺すのも後味が悪いし。このダンジョン、まだまだ開拓と資材運搬の人手が足りないんだよな」
「なるほど……労働力(奴隷)として回収するのね? ふふ、タクミちゃんも案外悪ねぇ」
コアが艶やかな笑みを浮かべてタクミの肩に手を置く。
こうして、襲いかかってきた悪徳冒険者たちは、ダンジョン最初の「無給開拓作業員」として身柄を確保されることとなった。
「よし! 初戦は大成功だな!」
タクミは手応えを感じて拳を握りしめた。
「でも、今回は相手が弱かったから良かったものの……もし空間を転移して侵入してくる魔法使いや、概念ごと攻撃してくる化け物が来たら、100メートルのマグマ穴じゃ防げないかもしれないな」
「えっ……たくみちゃん、まだ上を目指すの……?」
「ああ! クラフトのレベルが上がったら、次は『空間を切断・歪曲させるトラップ』や、『概念ごと相手の攻撃を無効化する付与魔法』も作れるように訓練していかないと!」
少年のように目を輝かせるタクミ。
その横で、ポンコツだが頼もしい姫騎士エレノアが「素晴らしい心がけです、主!」と目を潤ませて感銘を受け、ダンジョンコアのコアは「はぁ……私の身体、これからどうなっちゃうの……♡」と期待と不安の混ざった熱い吐息を漏らすのだった。
最弱から始まる、過剰防衛ダンジョンマスターの無双劇。
その伝説は、いま始まったばかりである。




