第3話:封印された古代の姫騎士
ダンジョン最奥部——風化した石造りの通路を抜けると、そこは広大なドーム状のホールだった。
空間の中央に佇んでいるのは、一際眩い光を放つ巨大な氷結結界。
そのクリスタルのような蒼い氷の結晶の中に、ひとりの少女が眠っていた。
美しく整った顔立ち、白銀の髪。
身に纏っているのは、優美でありながら重厚な装飾が施された白い甲冑。
目を閉じ、胸元で宝剣を抱きしめるその姿は、まるで時の流れから取り残された一枚の絵画のようだった。
「これは……美しい……」
思わず息を呑むタクミの横で、コアが身を寄せるようにして呟いた。
「間違いないわ……何百年も前、世界を震撼させた『古代アヴァロン王国』の最高戦力……聖騎士長『エレノア』よ。どうしてこんなところに封印されているの……?」
「聖騎士長……そんなすごいヤツが、なんで氷漬けに?」
「当時の古代王朝が滅びるとき、再起をかけて彼女をこのダンジョンの最深部に封印したのかもしれわね。もし彼女が目を覚ませば……一国を容易く滅ぼせるレベルの戦力よ」
一国を滅ぼすレベル。
恐ろしい言葉だが、タクミは氷の中の少女を見つめながら、持ち前のクラフト眼を働かせた。
(待てよ……この氷、ただの氷じゃない。極めて複雑な魔導術式で二重三重にロックされてる。でも、今の俺なら……!)
「コア、この結界……解けるぞ」
「えっ!? ちょっとたくみちゃん、危険すぎるわ! 目覚めた彼女が私たちを敵と見なしたら——」
「大丈夫だ。解凍と同時に、術式を組み替えて俺の魔力を同調させる!」
タクミは両手を氷の表面にかざした。
脳内で発動する『神級クラフト』。古代の複雑な封印術式が、まるでデジタルデータのように解体され、新たな構造へと再構築されていく。
カァン……ッ! パシィンッ!!
甲高い音を立てて、蒼い氷に幾重もの亀裂が走った。
直後、まばゆい光の奔流とともに、氷結結界が砕け散る。
ドォォォン……!!
「くっ……!?」
氷が弾けると同時に、部屋全体を押し潰さんばかりの暴虐的な「光の覇気」が吹き荒れた。
床の石畳がミシリと音を立て、激しい風がタクミの髪を吹き散らす。
光の煙の向こう側で、白銀の髪の少女が静かに瞳を開いた。
その双眸は、宝石のように透き通った藍色。
彼女はゆったりと手にした宝剣を引き抜き、鋭い眼光でタクミを射抜いた。
「……我が封印を破りし者は……何者だ」
その声には、一国の軍勢すら平伏させる圧倒的な威厳と圧圧感が宿っていた。
一触即発の緊迫感が空間を包み込む。
しかし、タクミは恐れることなく、まっすぐに彼女の目を見返した。
「俺は冴島匠。このダンジョンのマスターだ。……あんたを助けたくて、結界を解いた」
「ダンジョン……マスター……?」
エレノアは一瞬怪しむように眉をひそめたが、直後、ハッと目を見開いた。
彼女の体内に流れ込んできたのは、結界を解いた際に同調された、たくみの温かく膨大な魔力。
「この……清らかなる魔力の波動……。貴方様が、私を長き眠りから救い出してくださったのですか……」
エレノアの瞳から警戒の色が消え、代わりに深い敬意と忠誠の色が宿る。
彼女は宝剣を床に突き立てると、甲冑の擦れる音を響かせ、タクミの前に恭しく膝をついた。
「失礼いたしました、我が主よ。私はアヴァロン聖騎士長、エレノア……只今より、この剣と命の全てを貴方様に捧げます!」
凛々しく、そして誇り高き誓い。
完璧な最高戦力の配下を得たことに、タクミは胸を撫で下ろした。
「よかった……伝わって。よろしく頼むよ、エレノア」
「はっ! 主のお役に立てるよう、命を賭して——っ!?」
タクミの言葉に感激したエレノアが、感極まった様子で勢いよく立ち上がった、その瞬間だった。
パキンッ! ぶちちちっ!!
「え……?」
長年の封印によって完全に劣化していた甲冑の留め具と、下着の布地。
エレノアが力強く動いた衝撃に耐え切れず、胸元の甲冑がバチァン!と勢いよく弾け飛ばされた。
「ひゃうっ!?」
甲冑の破片が飛び散り、破れた布地の隙間から、豊満でしなやかな白い肌と、眩しすぎる胸の谷間が露わになる。さらに腰回りの装甲までガタッと崩れ落ち、太もものラインが剥き出しになった。
「な、何事ですか主よ!? こ、これは敵の攻撃……っ!? いや、違う……服が、服が破れて……っ!?」
さきほどまでの凛々しさはどこへやら。
エレノアは真っ赤になって自身の胸を必死に手で隠そうとするが、溢れんばかりのボリュームは隠しきれるはずもない。
「あっはは! 伝承の聖騎士様も、何百年の経年劣化には勝てなかったみたいね〜」
コアがお腹を抱えてからかうように笑う。
「こ、コア殿! 嘲笑っている場合ではないぞ! 主の前でこのような無様な姿を……っ!」
エレノアは耳まで真っ赤にし、パニックで涙目になりながらタクミを見つめた。
「む、無礼をお許しください主よ! これは決して破廉恥な誘惑などでは……! いや、もしやこれも主が望まれた『試練』……あるいは、命の恩人に対する『夜のお供』の準備でしょうか……っ!?」
「絶対に違います!! 早く着替えるものを作るから落ち着いてくれ!!」
暴走する純情姫騎士のポンコツぶりに、タクミは頭を抱えながらも、急速に賑やかになっていくダンジョン生活に思わず苦笑するのだった。




