第16話:伝説の暗殺者、極上の肩こり解消とASMRで『ととのう』
バロア子爵が呼び寄せたのは、裏社会で「不可知の死神」と恐れられる伝説の暗殺者——クロムであった。
彼は『災厄の魔導羊皮紙』の契約によって呼び出され、影の中に身を潜める特殊な影歩き(シャドウ・ステップ)の達人である。
「ターゲットは一網打尽に消す。痕跡すら残さん」
黒い装束を纏い、冷徹な瞳を光らせるクロムは、報酬の金貨を懐にしまうと、夜の闇に紛れてダンジョンへと侵入を開始した。
影から影へと高速移動し、通常の探知魔法や罠の踏み板を一切踏まずに進む。まさに暗殺のプロフェッショナルであった。
◇
一方、ダンジョン最奥のモニター室。
「——タクミ様! 2階層の影探知センサーに『高密度の魔力反応』を検出! 姿が見えませんが、猛烈な速度で核心部へと接近中!」
エレノアが緊急警告を鳴らす。
「来たか……ッ! 暗殺者の影潜行術だ!」
タクミはモニターの暗視・波長変換モードを起動し、影の中に潜むクロムの姿を捉えた。
「たくみちゃん、相手は物理体を持たない影の術者よ? 剣も魔法も通りにくそうだけど大丈夫……?」
コアが心配そうにタクミの腕にしがみつく。
「フフッ、甘いよコア。影の中に潜伏しているということは、『外界の刺激に対して神経が極限まで過敏になっている』ということだ! 闇に潜む暗殺者ほど、自律神経の乱れと精神的ストレスは深刻なんだよ!」
タクミはドヤ顔で手帳を叩いた。
「影の術者が一番弱いのは、物理ダメージじゃない……【過剰なリラクゼーションと自律神経へのダイレクトアタック】だ! 新罠エリア、稼働!!」
◇
ダンジョン2階層・接続通路。
(ふっ、他愛もない。どれほど強固なダンジョンだろうが、影に溶け込むこの俺を捉えることなど——)
暗殺者クロムが通路の影を滑るように進んでいた、その時。
*ピカーーーッ!!*
突然、壁一面の魔導ライトが眩いばかりの『サンシャイン・高演色ホワイト光』を照射した!
「ぐあっ!? ま、眩し——」
影を奪われたクロムは強制的につま先立ちで実体化させられた。
その足元が踏みしめたのは、冷たい石畳ではなく——
*ゴゴゴゴゴ……ッ!*
「なっ!? 床が……動いている!?」
床全体が超重力空間へと変貌し、無数の高反発ジェルローラーが隆起した!
タクミが急遽クラフトした【超重力・全身ツボ押しローラー通路】である!
*ポキポキポキポキッ!*
「**あがぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!???**」
クロムの足裏の「湧泉」と「太衝」のツボに、過酷な暗殺稼業で溜まりに溜まった疲労を打ち砕く激痛と快感がダイレクトに突き刺さった!
「な、なんだこの圧はぁぁぁッ!? 足裏から全身の骨盤の歪みが矯正されていく……ッ!? 骨が……関節がぁぁぁッ!」
何年も夜間に影の中を匍匐前進し続けたことで酷い骨盤の歪みと坐骨神経痛を抱えていたクロム。
超重力ローラーが絶妙な角度で彼の腰椎をキャッチし、ズレた関節を『パキッ』と完璧な位置へ嵌め戻した!
「**ひあぁぁぁぁッ!? 腰の関節がハマったぁぁぁッ!? 重い痛みが消えていくぅぅぅッ!!**」
あまりの「激痛からの圧倒的快感」に、クロムは膝をついて絶叫した。
だが、過剰防衛の真骨頂はここからだった。
*パパンッ! パパンッ! パパンッ!*
天井からポップアップした【自動連打・高反発麻痺ハリセン・ターレット】が起動!
完璧なリズムで、クロムの「固くなった肩と首筋」を正確にポカポカと叩き始める!
*シュワーーー……*
さらに空気中には、タクミ特製の『極上ラベンダー&ホットアロマスチーム』が噴出し、耳元に仕込まれたスピーカーからは、癒やしのASMR音声が立体音響で流れ出した。
『お疲れ様……毎日影の中に隠れて、寂しかったでしょ……? もう殺さなくていいんだよ……温かいスープを飲んで、ゆっくりおやすみ……』
「あ……あ……」
絶妙なハリセンの肩たたき、温かいアロマの香り、そして脳を直接揺らす癒やしの囁き。
長年、暗闇の中で「誰かを殺すこと」だけを考えて生きてきたクロムの凍りついた心が、急速に溶け出していく。
「お袋……俺……本当は……明るいお日様の下で……普通に野菜とか育てて暮らしたかったんだ……ッ!」
伝説の暗殺者クロムは、涙と鼻水をボロボロと流しながら地べたに崩れ落ちた。
殺気は完全に消え去り、そこにはただの「極上のマッサージとASMRでメンタルが浄化された一人の男」が横たわっていたのだった。
◇
数分後。
「ふむ……やっぱり『自律神経アタック』は影の術者に劇的に効くな」
タクミが満足そうに頷きながら歩み寄ってくる。
その後ろには、ツルハシを担いだ元Aランク冒険者のザックとボブが控えていた。
「おいおい、今度の新人(捕虜)は随分と身軽そうな奴だな」
「へっ、その細腕じゃ最初は掘削作業も辛いだろ。安心しろ、大浴場には『電気風呂』もあるからすぐ肩こりは治るぞ!」
先輩作業員(元冒険者)たちに温かく声をかけられ、クロムは涙目で頷いた。
「あ、ありがてぇ……俺、明日から夜間のダンジョン見回り作業員として、一生懸命働きます……!」
こうして、裏社会最強の暗殺者クロムもまた、怪我一つ負うことなくあっさりとホワイトな労働環境へと取り込まれたのであった。
◇
モニター室に戻ったタクミは、手帳を開いてさらに表情を硬くしていた。
「……タクミ様? 暗殺者も無事に無力化できましたが、何かご不満でも……?」
エレノアが首をかしげる。
「甘いよエレノア。暗殺者まで失敗したとなると、バロア子爵はもう後がない」
タクミの妄想スイッチが、さらに上のギアへとシフトする。
「ここまできたら、子爵は自ら【国家転覆レベルの古代禁呪】**を解くか、あるいは**【隣国の軍隊を買い叩いて総攻撃】を仕掛けてくるに違いない! 相手は正真正銘の狂気だ!!」
「こ、国家転覆レベルの禁呪に……隣国の軍隊……!?」
エレノアが息を飲む。
「ああ! だからこそ、我がダンジョンの最終防衛ライン——【全自動・超巨大おもてなしテーマパーク階層】の建設を急がなければならないッ!!」
「テーマパーク……!? それは一体どのような過剰防衛なのですか……!?」
「敵の全軍隊をまるごと『アトラクション』に誘導し、絶叫マシンと絶品グルメで戦意を完全に喪失させる……史上最大の平和的無力化計画だ!!」
タクミの暴走する心配性とチートクラフトが、ついにダンジョンを「テーマパーク」へと変貌させようとしていた。




