第17話:領主親征! 絶望の軍勢を迎え撃つ超巨大テーマパーク
「もう容赦はせん……! 我がバロア家の全戦力、そして古代の禁呪をもって、あの悪魔のダンジョンを粉砕してくれるわぁぁぁッ!」
バロア子爵はついに正気を失っていた。
騎士団全滅、Aランク冒険者消息不明、伝説の暗殺者も帰らず。
追い詰められた子爵は、領内から集められるだけの私兵・傭兵・魔導兵器を総動員。さらに『災厄の魔導羊皮紙』の封印を解き、古代の超巨大魔導ゴーレム『タイタン』まで蘇らせて自ら親征を開始したのだ。
その数、およそ五千。
地響きを立てて進軍する重装歩兵隊、空を覆う魔導砲台、そして山のように巨大なゴーレム。
まさに「国家ひとつを滅ぼせる」レベルの、絶望的な軍勢であった。
「ワハハハ! 見よ、この圧倒的な武力を! どのような罠があろうと、我が軍の力で踏み潰してくれるわ!」
子爵は豪華な馬車の上で、高笑いを上げた。
◇
一方、ダンジョン最奥のモニター室。
「——タクミ様! 敵軍勢、ダンジョン前に到着! 兵力およそ五千、さらに全高三十メートルの古代魔導ゴーレムを確認!」
エレノアが青ざめた顔で報告する。
「やっぱり来たか……! 僕の予想通り、子爵は本気で国家転覆レベルの総力戦を挑んできたんだ!」
タクミは手帳をギュッと握りしめ、覚悟を決めた目でモニターを見つめた。
「たくみちゃん、さすがに五千人は多すぎるんじゃない……? 1階層も2階層も埋まっちゃうわよ〜!」
コアが心配そうにタクミの胸元に顔をうずめる。
「大丈夫だよ、コア。この日のために突貫工事で創り上げたんだ……最終防衛ライン、【全自動・超巨大おもてなしテーマパーク階層『ダンジョン・ランド』】をね!」
タクミの指示一発で、ダンジョン全体の構造が「ガコンガコン」と組み替わっていく。
「五千人もの兵士が抱える一番の弱点……それは『集団心理による過度な緊張』**と**『長距離行軍による空腹・欲求不満』だ!」
タクミはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「どれほど強大な軍隊も、楽しすぎるアトラクションと絶品テーマパークフードの前には、ただの『はしゃぐ観光客』に変貌する! 過剰防衛テーマパーク作戦——オープン!!」
◇
ダンジョン1階層へと雪崩れ込んだ五千のバロア子爵軍。
「突撃ぃぃぃッ! 敵を殲滅せ……ぬおっ!?」
最前線の隊長が怒号を上げようとした瞬間、彼らの視界がパッと明るく輝いた。
そこは暗い洞窟ではなく——煌びやかなイルミネーションが輝き、陽気なブラスバンドの音楽が響き渡る、おとぎ話のような巨大遊園地であった!
「な、なんだこの部屋はぁぁぁッ!?」
「敵の攻撃か!? 構えろッ!」
混乱する兵士たちに、全自動の【爆速ジェットコースター・過重力メンタル解放マシン】の安全バーがガチャンッと容赦なく装着された!
*ゴーッッッ!!!*
「**ひあああぁぁぁぁぁッッッ!!!???**」
時速二〇〇キロで垂直落下し、360度回転する絶叫コースター!
日頃、ブラック領主の理不尽な命令に怯え、死の恐怖に震えていた兵士たちの脳内に、大量の脳内物質がドバドバと噴出する!
「**ハハハハハ! なんだこれ超楽しいーっ!!**」
「**生きているって最高だぁぁぁッ!!**」
一回転するたびに殺気とストレスが吹き飛び、恐怖は歓喜へと上書きされていく。
さらにコースターを降りた兵士たちの前には、全自動のカートが走り寄ってきた。
『いらっしゃいませー! できたての「バター醤油ポップコーン」と「サクサク長〜いチュロス」、キンキンの「極上コーラ」が食べ飲み放題でーす!』
「うまぁぁぁいッ! チュロス外カリカリ中モチモチだぁぁぁッ!」
「コーラの炭酸が喉に弾けるッ! もう戦争なんてやってられるかぁぁぁッ!」
わずか十分で、五千の精鋭軍は「ポップコーンのバケツを抱えてパレードを鑑賞する笑顔の集団」へと完全無力化された。
◇
「な……な……なんだこれはぁぁぁッ!? 我が軍が……我が厳格な軍隊が、笑顔でチュロスを食っておるだとぉぉぉッ!?」
最後尾にいたバロア子爵は、目の前の異常事態に血吐く思いで叫んだ。
「おのれぇぇ! 役立たずどもめ! 行け、古代魔導ゴーレム『タイタン』よ! あのふざけたアトラクションごと叩き潰せぇぇッ!」
全高三十メートルの巨大ゴーレムが、地響きを立てて拳を振り上げた、その時。
*ジャキーンッ!!*
ゴーレムの足元から突如せり出してきたのは、タクミがクラフトした【超巨大スチーム&高圧オイル・全自動メンテナンスピット】!
*シューーーッ! ガコンガコンッ!*
「グ、オオオ……?」
数百本の魔導アームが一斉に動き出し、数百年間メンテナンスされず全身錆びついてギシギシいっていたゴーレムの関節へ、一気に高級潤滑オイルを注入! さらに全身の汚れを超音波洗浄し、魔力炉の煤をピカピカに磨き上げた!
*ピカァァァァッ……!*
「グ……グラアァァァッ(超快適)!!」
体調が完璧になった古代ゴーレムは、あまりの体の軽さに大歓喜!
子爵の命令を完全に無視し、テーマパークの「巨大マスコットキャラクター」として、子供のようにお客さん(元兵士たち)に手を振り始めた!
「タイタン!? お前まで裏切るのかぁぁぁッ!!」
孤立無援となった子爵の足元の床が、不吉にパカリと開いた。
「ヒッ……!? ぎゃあああぁぁぁッ!?」
落とし穴へと落ちていく子爵。彼が辿り着いたのは——ダンジョン最深部に作られた【VIP限定・極上貸切露天風呂スパエリア】であった。
◇
「……ハッ!? ここは……?」
気がつくと、子爵はヒノキの香りが漂う温かい露天風呂に肩まで浸かっていた。
目の前には、贅を尽くした「飛騨牛の極上すき焼き」と「冷えた最高級日本酒」。
背中には、絶妙な力加減でコリをほぐしてくれる魔導マッサージチェア。
「ぐ、ぬぬぬ……毒か!? 精神攻撃か!? ワシは騙されんぞ……騙され……」
子爵は震える手で、すき焼きの肉を口に運んだ。
「……ッ!?」
口の中でとろける最高級の肉と、甘辛い割り下、そして生卵のハーモニー。
それを冷えた酒で流し込んだ瞬間、子爵の目からぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「う……美味すぎる……ッ! ワシは……ワシは毎日、領地経営の赤字と王都へのゴマすりに追われ……まともな飯も食えず、胃薬を飲む毎日だったのだ……ッ!」
豪遊しているように見えて、実は激務とストレスで精神の限界を迎えていた子爵。
温かい温泉と絶品料理、そして心地よいマッサージに包まれ、彼の屈折した野心は跡形もなく溶け去った。
「もう……領主なんて嫌だぁぁぁ……! 税金の計算も、貴族の派閥争いも嫌だぁぁぁ……! ワシはここで一生、温泉に入ってすき焼きを食っていたいんじゃあぁぁぁ……ッ!!」
バロア子爵は、豪華な浴衣を着たまま幸せそうに号泣し、完全降伏を宣言したのであった。
◇
数日後。
ダンジョンのエントランス前には、長蛇の列が出来上がっていた。
「へいらっしゃい! 『ダンジョン・ランド』の当日券はこちらだよー!」
元Aランク冒険者のザックが、笑顔でチケットを売っている。
「名物のチュロスとポップコーン、いかがですかー!」
元大魔導士のメラニーが、可愛いテーマパーク衣装で接客している。
「本日のアトラクション待ち時間は四十分となっております。列を乱さずにお並びください」
元暗殺者のクロムが、完璧な誘導でゲストを案内していた。
なんと、バロア子爵が領主の権限でダンジョン周辺を「公認テーマパーク特区」として申請・許可を出したため、外界から観光客が殺到する大人気スポットへと変貌を遂げたのだ!
元兵士や元冒険者たちはテーマパークの「スタッフ」として正規雇用され、高給と充実した福利厚生に大満足で働いている。
◇
ダンジョン最奥のモニター室。
「ふう……テーマパーク化は大成功だね。みんな楽しそうだし、平和になって良かったよ」
タクミは手帳を閉じ、ほっと胸を撫でおろした。
「本当にタクミ様は凄いです……! 5000の軍勢を一人も傷つけず、笑顔で降伏させるなんて……!」
エレノアが憧憬の眼差しで見つめる。
「たくみちゃんったら、世界一のダンジョンマスターなんだから〜♡」
コアがタクミの首に抱きつき、チュッと頬にキスをした。
だが——タクミの目が、ふたたび「怪しい光」を放ち始めた。
「……待てよ?」
「え……?」
タクミは真剣な顔で世界地図を広げた。
「このダンジョン・ランドの噂は、いずれ【隣国の軍事帝国】**や**【魔王軍の耳】**にも届くはずだ! 楽しそうな娯楽施設に見せかけて、実は世界征服の拠点ではないかと疑われ、**【空飛ぶ魔導戦艦艦隊】**や**【異次元からの魔神】が押し寄せてくるかもしれない……ッ!」
「ええええぇぇぇッ!? ま、またですかー!?」
エレノアが脱力して叫ぶ。
「心配無用だ! 次の防衛計画——【対・宇宙・異次元対応・全自動銀河おもてなしステーション】の設計に入る!!」
「どこまで先回りする気なのよぉ〜〜っ!?」
コアの悲鳴にも似たツッコミが響く中、タクミの無限の心配性と過剰防衛クラフトは、今日も元気に暴走し続けるのであった。
(おわり)




