第14話:Aランク冒険者、過剰おもてなしの前に散る
ダンジョン最奥のモニター室。
「——タクミ様、敵影を捕捉いたしました。Aランク冒険者パーティー『赤き竜の牙』の4名でございます!」
エレノアがモニターを指さしながら報告する。
画面に映し出されているのは、大剣士ザックを先頭に、大魔導士メラニー、罠解除士ボブ、重戦士ゴライアスという、男女混成のベテラン4人組だ。
「……うーん、さすがAランク。みんな装備が使い込まれてるし、隙がないな」
タクミは手帳を広げながら、真剣な表情で画面を注視する。
「たくみちゃん、相手は本物のプロよ? 1階層に配置予定だった『いつもの魔導コタツ罠』で大丈夫かしら〜?」
コアがタクミの膝の上に乗り、豊満な胸を二の腕に押し当てながら心配そうに覗き込んでくる。
「いや、ダメだ! 従来のコタツだけじゃ甘すぎる!!」
タクミは力強く首を振った。
「相手は長年過酷なクエストをこなしてきたベテランの男女混成パーティーだ。プロの警戒心は甘くないし、特に前衛の男二人を見てごらんよ。あの重い甲冑と、神経をすり減らす罠解除の構え……絶対に『慢性の腰痛・肩こり・蓄積疲労』が限界を迎えているはずだ!」
「む……! たしかに冒険者とは慢性的な肉体疲労との戦い。一理ありますぞ、主!」
「だからこそ、ただのコタツじゃなくて罠のグレードアップが必要なんだ! 敵の油断を誘うには、心も身体も根底から骨抜きにする【改良型おもてなし足湯コタツ・居酒屋仕様】を急遽クラフトする!」
タクミは両手を掲げ、チートスキル『神級クラフト』を発動させた。
「1階層のコタツ下に『高濃度炭酸泉の足湯』をドッキング! さらに過酷な旅路で冷えた胃袋を直撃する『アツアツのニンニク醤油もつ鍋』と『マイナス2度の極上生ビール』を召喚! これでベテランたちの警戒心を疲労回復と圧倒的美味で完全に破壊するッ!」
「まあ……っ! 相手のコンディションに合わせて罠を即興改造するなんて、たくみちゃんったら本当に過保護……じゃなくて過剰防衛なんだから〜♡」
コアがうっとりとタクミの頬に身を寄せた。
「よし、準備完了! 過剰防衛トラップ本番稼働——スタートだ!」
◇
一方、ダンジョンエントランス前。
「フン、Bランク騎士団が50人全滅だと? 所詮は領主の威光を傘に着たお坊ちゃんどもの集まりよ。本物の修羅場を潜ってきた我らAランク冒険者の敵ではないわ!」
大剣士ザックが不敵に笑う。
「メラニー、内部の魔力探知はどうだ?」
「おかしな反応ね。見たこともない複雑な構造で蠢いているわ。……でも大丈夫、私の『広域魔力遮断』を張れば、どんな罠も発動前に無力化できるわ」
「へへっ、どんな極悪な仕掛けだろうが、俺の『神眼』で罠の構造を見破って解除してやるさ」
ボブがニヤリと鼻を鳴らし、自信満々の4人はダンジョン内部へと足を踏み入れた。
◇
ダンジョン1階層。
「ん? なんだこの通路は……?」
重戦士ゴライアスが眉をひそめた。
冷たい石造りの通路を進んでいたはずが、足元から温かい湯気が立ち上り始める。
角を曲がった彼らの視界に飛び込んできたのは、赤提灯が優しく灯る居酒屋風の一角——『魔導足湯コタツカウンター』だった。
「な、なんだこの部屋はぁぁぁッ!?」
ザックが大剣を構えて警戒する。
「騙されないで! 罠よ! これは精神攻撃!!」
大魔導士メラニーが叫ぶ。
だが、重い甲冑で長年「慢性の腰痛と膝痛」に悩まされる重戦士ゴライアスと、罠解除の神経すり減らし作業で「ひどい肩こりと胃痛」を抱えていた罠解除士ボブの脚が、吸い寄せられるように勝手に動き出した。
「お、おいボブ!? どこへ行くッ!」
ボブは吸い込まれるようにカウンター席へ座り、靴を脱いで足湯コタツへと足を滑り込ませた。
シュワシュワシュワ……ッ!
「ほあぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!??」
足湯に仕込まれていた高濃度炭酸泉の気泡が、ボブの足先からふくらはぎへと浸透し、蓄積していた長年のむくみと疲労を一瞬で分解していく!
「足が……足が軽くなっていくぅぅぅッ! 膝の痛みが消えていくぞぉぉぉッ!」
たまらずゴライアスも隣に飛び込み、足湯に脚を漬けた。
「んあぁぁぁぁ不快感が消えるぅぅぅッ! 腰の重みが嘘みたいだぁぁぁッ!」
そこに、カウンターの奥から全自動でせり出してきたのは、タクミ特製の『ニンニク醤油仕立て・アツアツ豚もつ鍋』と、グラスの表面に薄氷が張った『氷点下マイナス2度の極上生ビール(大ジョッキ)』!
「グビッ……グビッ……プハァァァッッ!!」
ボブがジョッキを一気に干し、涙目で叫んだ。
「うまぁぁぁぁいッ! なんだこの喉越しはッ! 疲れた身体にビールとニンニクが染み渡るぅぅぅッ!!」
「肉がプリンプリンだ! 噛むたびにジュワッと旨味が溢れ出てきやがるッ!」
足元は温かい炭酸足湯でぬくぬく、背中には絶妙な力加減の魔導マッサージャー、お腹にはアツアツのもつ鍋とキンキンの生ビール。
「おいゴライアス! ボブ! しっかりしろ! 罠だぞ!!」
ザックが怒鳴るが、二人の目にはもう焦点が合っていなかった。
「……ザック、俺たち……なんで毎日怪我しながらダンジョン潜ってたんだっけ……?」
「もう戦いたくねぇ……俺、ここで一生足湯に浸かって、この鍋食って過ごしたい……」
ベテラン冒険者二人は完全に『ととのい』の境地へ達し、カウンターの上に突っ伏して幸せそうな顔で脱落したのだった。
◇
「くそッ! なんだこの恐ろしい部屋は……! 行くぞメラニー、奥のマスターを叩く!!」
「ええッ! 私の広域魔法で一気に通り抜けるわ!」
残されたザックとメラニーは、仲間を見捨てて2階層へと駆け込んだ。
しかし、2階層の通路へと足を踏み入れた瞬間——
シューーーッ!!
天井から薄桃色のナノ魔導モヤが一気に噴出し、メラニーの『広域魔力遮断』は壁の『魔力吸着壁』にあっけなく吸収・無効化された。
「なっ!? 魔法が……発動しない!?」
直後、メラニーが手にしていた大魔導士の証である術具杖が——
ふにゃあぁぁん……
ピンク色の綿あめへと性質変化し、ふにゃりと力なく折れ曲がった!
さらに、彼女が着ていた高級魔法法衣が、一瞬にしてドロドロのゼリー状へと変化し、ポロポロと剥がれ落ちていく!
「きゃあああぁぁぁっ!? 服が……服が溶けて脱げちゃうぅぅっ!?」
透け透けの薄布一枚になり、豊かな胸元と脚を露出してパニックになるメラニー。
そこへ追い打ちをかけるように、壁一面の巨大な【魔導4K液晶スクリーン】が起動した。
『システム:対象「メラニー」の深層記憶をスキャン……黒歴史データ抽出完了』
大音量のスピーカーから、痛々しいBGMとともに、14歳の頃のメラニーの映像が大画質で映し出された。
『フフフ……我が内に眠る漆黒の黒龍よ……今こそ目覚めよ! 奥義・極大滅殺黒炎陣術ッッ!!』
決めポーズを叫ぶ14歳のメラニー。さらに画面には、彼女が昔描いていた「ザックとの妄想恋愛ポエム&照れ顔のファンアート」がアップで映し出された!
「ぎゃあああぁぁぁぁぁッッッ!!!???」
メラニーは目から涙と鼻水を撒き散らし、頭を抱えて地べたをのたうち回った。
「消してぇぇッ! 見ないでザックぅぅぅッ! 頼むからその画面を壊してえええぇぇッ!!」
「メラニー!? くそッ、どうなっているんだこのダンジョンはぁぁッ!」
ザックが大剣を引き抜き、スクリーンへ向かって躍り出ようとした、その瞬間。
ボヨンッッ!!
部屋全体の床が高弾力スライムクッションへと変貌!
ザックの手の中で大剣がふにゃふにゃの粘土と化し、全身が猛烈な勢いで天井へと跳ね上げられた!
ボヨン! ボヨン! ぽよんッ!
「あぐっ……な,なんだこの跳ね返りはッ!? 衝撃が殺されて前進できない……ッ!」
どれだけもがいても、クッションの圧倒的な弾力にすべての運動エネルギーが吸収される。
メラニーは羞恥のあまり泡を吹いて卒倒し、ザックも跳ね回るうちに酸欠と疲労で意識が朦朧となり、下着同然の姿でポヨンポヨンと揺られながら完全に行動不能となった。
◇
数分後。
スライムクッションの部屋に、カツン、カツンと静かな足音が響いた。
「ふむ……やっぱり敵の特性に合わせた『足湯おもてなし』の導入と、『スライム捕獲』&『黒歴史投影』のコンボは完璧だったな」
ゆったりと歩いてきたタクミが、手帳にペンを走らせながら満足そうに頷く。
その横には、エレノアと、ぴちぴちの作業服を着たコアが控えていた。
「ヒぃ……ひいいぃぃっ……!」
下着同然の姿で泡を吹き、命乞いすら忘れてガタガタと震えるAランク冒険者たち。
「さて、ザックさん」
タクミは怯えきる彼らに優しく微笑みかけた。
「君たちも今日から我がダンジョンの『第3期開拓作業員』だ。ツルハシを持ってもらうから、しっかり掘ってもらうよ? あ、作業の後は温かいもつ鍋と足湯、それと温水洗浄トイレもあるから安心してね」
「「「「は、はいぃぃぃぃっ! 喜んで掘らせていただきますぅぅぅっ!!」」」」
こうして、辺境都市最強のAランク冒険者パーティー『赤き竜の牙』は、怪我一つ負うことなく完璧に分からされ、ダンジョンの優秀な労働力として吸収されたのであった。




