第10話:試作トラップ②・黒歴史投影と乙女の悲鳴
「さて、次は【案②:精神破壊・黒歴史4K投影トラップ】のテストといこうか!」
翌日、プライベートエリアにて。タクミが新しく制作した液晶モニター型のトラップパネルを操作しながら言った。
「これは『概念干渉』の応用でね。侵入者の脳内記憶から『人生で最も恥ずかしかった黒歴史』を自動抽出して、壁一面の巨大4Kスクリーンに大音量で投影するっていう精神攻撃系トラップなんだ」
「精神攻撃……!? たくみちゃん、相変わらず地味にエグい罠を考えるわねぇ」
コアが感心したように胸を揺らす。
すると、昨日『堕落の迷宮』から命からがら(?)生還し、ようやく正気を取り戻したエレノアが、毅然とした態度で前へ躍り出た。
「ふッ……主、今回は私の勝ちですね。私には黒歴史などありません。私は幼少の企みより武道と聖騎士の道一筋に生きてまいりました故、疾風迅雷の如き隙なき人生を歩んでおります!」
エレノアは腰の宝剣に手を当て、絶対の自信を覗かせた。
彼女の記憶には、厳格な騎士団での訓練と、国を守るための高潔な戦いしか存在しないはずだった。
タクミは口元を歪め、ニヤリと笑った。
「へぇ……一点の曇りもない人生ねぇ。じゃあ試してみるか?」
「ははっ! 我が白銀の誇り、一点の狂いもないことを証明してみせましょう!」
胸を張り、堂々と『黒歴史投影エリア』へと踏み込んでいくエレノア。
◇
そこは、照明が落とされた薄暗い劇場のような空間だった。
エレノアが部屋の中央へ進み出ると、突如として正面の壁一面に、縦5メートル・横10メートルの超巨大な【魔導4K液晶スクリーン】が眩い光を放って起動した。
『システム:対象「エレノア」の深層記憶をスキャン……黒歴史データ抽出完了。高画質4Kにて上映を開始します』
「ぬ? な、何やら不吉な音声が……」
エレノアが眉をひそめた直後。大音量のスピーカーから、痛々しい重厚なBGMとともに、【12歳頃のエレノアの映像】が鮮明に映し出された。
スクリーンの中の少女エレノアは、木刀を両手で構え、自分の部屋でノリノリで決めポーズを取っていた。
『ふふふ……我が名は白銀の雷刃エレノア! 闇の軍勢よ、我が秘められし邪眼と聖なる雷にひれ伏すがいい……! 受けよ、我が奥義——【ギガント・超絶・サンダー・ブレイカーーーッ!!】』
さらに画面は切り替わり、少女エレノアが自作した『秘密のポエムノート』がアップで映し出され、機械音声が感情たっぷりに朗読し始めた。
『〜漆黒の夜に咲く一輪の雷光……私の心は誰にも縛られない……我が血に眠る竜の力が暴走しそう……〜』
「あがっ……!? ぎゃあぁぁぁぁぁぁッッッ!!!???」
その瞬間、エレノアの口から悲鳴とも絶叫ともつかない爆音が上がった。
「な、なぜそれをぉぉぉっ!? あれは誰にも見られぬよう、部屋の床下に厳重に封印したはずの黒歴史ノートぉぉぉッ!!??」
顔が火を噴くほど真っ赤になり、頭を抱えて地面にの転がり回るエレノア。
しかし、タクミの『過剰防衛クラフト』が誇る4Kトラップは、容赦なく次の映像へと切り替わった。
『続きまして、5年前。聖騎士団に入団したての酔っ払い映像です』
画面には、果実酒を飲みすぎて顔を真っ赤にした15歳のエレノアが映し出された。
彼女は「理想の王子様」のイラストを描いた自作の抱き枕をギューッと抱きしめ、デロデロの甘え声でゴロゴロと転がっていた。
『えへへぁ〜……王子様ぁ……エレノアを……エレノアをお嫁さんにしてくださぁい……♡ 毎日ご飯作ってあげるからぁ……んふふ♡』
「やめてぇぇぇぇぇッ!! 消してぇぇぇぇッ!! 主、頼むから見ないでえぇぇぇぇッ!!」
あまりの羞恥に、エレノアは目からボロボロと大粒の涙を撒き散らし、床に頭を叩きつけて土下座の姿勢を取った。
「私には黒歴史はないと言ったな!? あれは嘘だ! 嘘です! 頼みますからその画面を破壊してくださいぃぃぃっ!!」
「ほう……なかなか強烈だな。だがエレノア、まだ最新の映像が残っているぞ?」
タクミがニヤニヤしながら画面を見つめる。
画面には、【昨夜、誰もいないタクミの部屋に忍び込んだエレノア】の映像が映し出された。
彼女はタクミが脱ぎ捨てた上着を両手で抱え込み、顔を埋めて深呼吸していた。
『はぁぁぁぁ……主の匂い……すごく安心します……。ああ、主……いつか私を本当の妻に……ッ♡』
「あああああぁぁぁぁぁッッ(発狂)!!!!」
ドバァァァンッ!!
限界を迎えたエレノアの脳内で何かが弾けた。
彼女は涙と鼻水を顔中に散らし、恥ずかしさのあまり白目を剥いてその場に卒倒。全身をプルプルと痙攣させながら、泡を吹いて気絶してしまったのだった。
モニター室で見ていたコアが、お腹を抱えて爆笑する。
「あははははッ! 凄いわたくみちゃん! 物理的な攻撃ゼロで、あの最強の姫騎士を完璧に撃破しちゃったわ!!」
「うん……相手の精神をダイレクトに粉砕する……これぞ『過剰防衛』の真骨頂だな!」
気絶してピクピクと動くエレノアを回収しつつ、タクミは手帳に大きく「精神破壊:即死級」と記録するのだった。




