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幽霊が見える探偵と彼の秘密  作者: 黒豆子犬


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第35話 明かされる一端

すべてのノイズが消え去った絶対的な静けさの中。

 二人が辿り着いたシステムの中枢部、そこは巨大な大聖堂を思わせる丸天井の空間だった。

 空中のそこかしこに、巨大な『ガラスの瞳』が数千、数万と浮かび、それぞれが微細な機械音を立てて絶えず蠢いている。それらすべての瞳は、空間の中央に座す一際巨大な眼球の集合体――神と化した兄のコアへと光の束で繋がっていた。

『よく辿り着いたね、葵。そして、君の忠実な猟犬も』

 その声は、空間全体から響き渡った。間の声帯から発せられるものではなく、無数の瞳孔の振動が音波を形成していた。

「……お兄ちゃん。……あなた、もう元の体には戻れないの?」

『戻る必要などない。私は今、ボードメンバーというシステムそのものだ。私が見ることでこの世界は停滞し、完全な美しさを保つ』

 巨大な眼球群が、ぎょろりと氷室を見た。


 その瞬間、氷室の右半身を覆っていた白銀の結晶が、音もなく蒸発した。

「……があああッ!」

 氷室が激痛にうめき声を上げ、膝を突く。

 神の権能は、物理的な現象ではない。システムの中枢である彼が『不用』と観測した瞬間に、現実の座標から存在そのものが『否定』されるのだ。

「氷室さん! ……やめて、お兄ちゃん!!」

 葵が間に立ち塞がり、確定の力で氷室の存在を繋ぎ止めようとする。

 だが、神の無数の瞳が放つ『否定』の演算量は、葵個人の許容量をあっという間に凌駕しようとしていた。


「……てめぇに、俺の寿命を決めさせるかよ」

 氷室が、口から血を吐きながら力強く立ち上がった。

 彼の全身から、残されたすべての生命力を燃やし尽くすような、凄まじい白銀の光が放たれた。それは防壁を張るためではない。葵が前に進むための、文字通りの『肉を削った道』だった。

「行け、葵! あいつのコアのど真ん中に、お前の目を叩き込んでやれ!!」

 氷室が全速力で駆け出し、無数の瞳が放つ『否定の視線』を、自らの白銀の体で強引に弾き返す。視線の直撃を受けるたび、彼の腕が、肩が、光となって崩れ落ちていく。

 葵はその氷室の背中に守られながら、神の巨大なコアの至近距離へと肉薄した。

「……私は、あなたの空っぽな世界なんか望んでない!」

 葵が両目を見開き、神のコアのど真ん中へ、魂のすべてを込めた『確定』の楔を撃ち込んだ。


 パシィィィンッ!!

 神の絶対防壁にヒビが入り、巨大な眼球の一つが砕け散る。

 だが、次の瞬間、砕けたはずの眼球の奥底から、地鳴りのような哄笑が響いた。

『……素晴らしい。……実に素晴らしいよ、葵!』

 神はダメージを受けるどころか、愉悦に満ちていた。

『君のその強烈な「確定」のエネルギーこそが、このシステムが最後に求めていたマスターピース(最後の部品)だ! ……さあ、共に世界を観測しよう、葵!』

 神のコアから無数の光の触手が伸び、葵の身体を包み込んだ。

 神は最初から、葵に自分を攻撃させることで、彼女の魂のエネルギーをシステムに取り込み、自分と同化させようとしていたのだ。


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