第6話 異形の骸骨
そいつはまさしく異形のウェアクローズだった。
ウェアクローズの源流は服だ。
この広大な宇宙に人が適応するために作った服に様々な機能を追加していくうちに巨大化し、戦闘も行えるように改造したものがウェアクローズである。
だから大抵のウェアクローズは一部の隙もないと称される。
人型で頭があって四肢があり指が五本。
全身が装甲に覆われた、画一的な標準仕様。
いわばサラリーマンが着るようなスーツだ。
しかし、目の前にいるウェアクローズは違った。
必要最低限以外の不要な要素を全て削り取ったことで存在感がない。
そこにいるのにそこにいない、恐ろしい幽鬼か何かのようだ。
「これが新型?」
「その試作機、実験機でも良いわ」
「特化機ってことか?」
「すごいわね、それを一目で理解できるなんて」
トーマはそうでもない、と肩をすくめた。
「今のウェアクローズは万能機だからな。そこから皮を剥がれた骨みたいな機体があったら、そう思うだろ」
といってもトーマがそこまでわかっているのは前世の記憶のおかげなのだが、それは言えないのでもっともらしいことを付け加える。
「それがわかるのなら、スカウトした甲斐があったわ。田舎まで来てみるものね」
ふふふとユリアは笑いながら手を振る。
骸骨ウェアクローズのスペックをホロウィンドウがトーマの目の前に表示された。
一目見て呻く羽目になった。
「装甲のほとんどを取っ払っているのは良いが、なんだこりゃ」
百万歩装甲については譲るとしても、まともに動かすことをまるで考えていない設計すぎる。
見る限りゼロからの建造ではなく、既存のウェアクローズの改造品ということでるらしいが、何をどうしてこうなったのか切実に説明を求めたくなった。
「頭部パーツなんてカメラアイだけしかいれないじゃないか」
制御モジュールやセンサーの類は頭部パーツの中でも重たく精密なものだ。
軽量化を考えていたのだろうことは見ればわかるが、そのために人間でいう脳の大半を抜くという馬鹿げすぎている暴挙を行っている。
これでは制御モジュールやAIによって自動化されていた操作系がマニュアルオンリーになってはちゃめちゃに難しくなっていることは想像に難くない。
そんなすっかすかの頭部にカメラだけが鎮座していた。
この場の光を怪しく反射している様は、ターミネーターかよとツッコミをいれたくなるほどだ。
まだあちらの方が機械が詰まっているからより酷い。
「胴体もコックピットブロックがむき出しだぞ。搭乗者の安全性が皆無じゃないか」
最低限エネルギーコアだけは装甲で覆っていますが、何か? みたいな顔をしているのが最悪だった。
それが肋骨のように見えるのも骸骨感を増している原因なのだろうが、なんとも酷い。
流石に腕と脚はきちんとしているように見えて、やはり駆動系、アクチュエーター、エネルギーパイプやらがむき出し状態。
マニュピレーターなんて五本のうち三本だけが動くようで、他二本は手ですよと見せかけるためのハリボテという始末。
宇宙空間で必須のスラスターなんて最初からどこにもついてない。
新型を開発しようとしたら既存機がバランスが良すぎて劣化するとは言ったが、ここまで劣化しているのはもう開き直りすぎだろといいたくなる。
「そぎ落とし過ぎだろ。何を考えてんだ、こいつは」
フレームは帝国標準規格を流用しているとは思えない異形っぷり、化け物っぷりだ。
ただそんな感想の全てはユリアの一言で吹っ飛んだ。
「走ることよ」
「――――」
「レーサーの相棒なんだから走るための機体に決まってるじゃない」
走る以外のいらない機能の全てを削ぎ落した。
それがこの異形のウェアクローズ。
「……はは」
なんだよ、それは。
そんなの――。
「最高だな」
「でしょう。こういう改造機をたくさん作ってデータをとって、わたしたちはゼロから新型のウェアクローズを作るつもり」
「そのためのテストパイロットをしろってことだな、俺に」
「そういうこと」
「乗って見て良いか?」
「もちろん。この子も首を長くして待っていたはずよ」
待たせているシーナとルカには悪いとトーマは思っているが、乗りたい衝動は止められない。
触れたら折れてしまいそうな異形の機体のコックピットへと向かう。
コックピットは通常のウェアクローズとは変わらない。
空圧音とともにコックピットハッチが開き、暗闇が出迎える。
躊躇うことなくトーマは飛び込んだ。
新しい機体特有の何にもしていない無垢な新品の匂いが鼻孔を擽る。
空圧音とともにハッチが閉じる。
暗闇になるかと思ったが、まるで夜空の星々のようにいたるところから光が漏れているようだった。
「宇宙で使うことを考えてないなこりゃ。起動IDはいらないか」
まだ初回起動であるため、ID入力の必要すらない。
起動ボタンを押せば、それだけでこの骸骨は命を宿す。
ブートアップシーケンス開始。
起動プログラムが走る中、機体の開発コードが表示される。
「スカルフェイス。まんまだが、良いな。こういうので良いんだよ、こういうので」
うんうんと頷いている間に起動完了。
ほぼ正面のみを移すカメラにユリアの姿が映る。
何かを言っている。
『立ってみて』
どうやら起立をご所望らしい。
「良いぜ」
軽くフットペダルを踏み、操縦桿を回す。
想像通りすべてがマニュアル操作だが、もとより電脳化も何もしていない身の上だ。
いつだってマニュアル操作をしているようなものだったトーマに苦労はない。
ゆっくりとカタカタと骸骨の怪物が震えながら、丸まった待機姿勢を解いてゆっくりと立ち上がる。
アクチュエーターが唸りを上げ、パイプの中をエネルギーが駆け巡っていくのが極限まで削られた板のような装甲を貫通する。
コックピットに直接伝わる、ウェアクローズの剥き出しの躍動のままスカルフェイスは直立した。
「軽いな、空すら飛べそうだ」
この機体ならどこまで走れるのだろうか。
試してみたい欲に駆られる。
ちょっとだけ外に出してみようかそう思いかけた時――。
「あー! あっしのスカルフェイスが立ってる!」
ざらついた甲高い声が格納庫に響いた。




