表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/18

第4話 家族へ相談

 日和ったトーマをユリアは笑わなかった。

 むしろ、当然だと頷く。


「ええ、良いわよ。ただあまり待てない。明日までに決めて」


 彼女は立ち上がりホロ名刺に連絡先を同期させて去っていった。

 トーマはそれを懐に入れて帰路に着く。


 思った以上に大事なスカウトでどうするべきか判断に困る。


「ただ……やりたいのなら仕方ないよな」


 やりたいことがやれないよりも、どんなに危険だろうとやりたことがやれる方が良い。


「俺もそうだ」


 この肉体からだで走ることはできないがウェアクローズで走ることはできる。

 妥協と言われようとトーマにはそれ以外に選択肢がなかったのだ。

 大事なのは走れること。

 前世では走りたいのに走れなかったのだから、走れているのならば不満ない。


「走れるのなら、あの人の話乗っても良い」


 のだが――。


 トーマは立ち止まってじっとそこにある建物の入り口を見る。

 ソウジロウ・コロニー外縁部にある薄汚れた街区にある寂れた診療所跡。

 グラフィティと劣化汚れが同居する建物がトーマの自宅だった。


「はぁ……」


 家族にどう説明したものかと迷って足が前に出ないでいると、背後から聞き慣れた大きな声がする。


「あれー、兄ちゃんなにしてるの?」

「うおっ、ルカ。あまり大声出さないでくれ、シーナにバレ――」

「おねえちゃーん! 兄ちゃんが帰ってきたよー!」


 妹様にはまだ帰宅がバレたくないから止めようとしたが遅い。

 ルカは小さな体全体を使ってコロニー中に響きそうな大声を出してしまった。


 ギギギギとホラー演出のように家のドアが開き、妹様――シーナ・ソウジロウがエプロン姿で現れた。


「おかえり、お兄ちゃん。今日は早いんだ」


 妹様の黒々とした瞳に見つめられるとなんだか全てを知られているように感じて謝りたくなってしまう。

 それはトーマの考えすぎだろうか。


「あ、ああ、ただいま」

「ごはん、食べる?」

「食べる」

「わかった。ほら、ルカ。早く入って、手を洗って来て。ご飯にするから」

「はーい!」


 にこにこと笑顔のルカはふわふわの黒髪を揺らしながら家に入って行った。


 ルカに手を洗わせてリビングに行く。

 シーナはトーマの分の食事を作るため、袋からきらきらと輝く粉を皿に注いでいるところだった。

 袋の中身は少なく、規定量になる前になくなってしまう。


「あ、切れた」

万能食材オールマイティの新しいの棚だったか?」

「うん、お兄ちゃんは座ってて良いよ、あたしが取るから」

「良いって」


 きちんと整理整頓された棚の中から目当ての袋を取り出してシーナに渡す。


「ありがと」


 規定量が皿に入れば、あとは機械の中にいれてボタンを押すだけ。

 電子レンジみたいな音がして次の瞬間には料理が出来上がっている。


「はい、できた」

「ありがとうな」

「良いよ、ボタン押すだけだから。お兄ちゃんが調理器買ってくれたおかげ」

「なかったころは手間と金がかかるばかりだったからなぁ」


 この時代、料理に手間はかからない。

 基本的に万能食材というなんにでもなる粉(食材)を専用の機械に入れてボタンプッシュで完了。


 今、目の前で湯気を上げて良い匂いをさせている白米やおかずなんかも万能食材が形を変えただけのものなのだ。

 味も匂いも触感もきちんと再現されていて、栄養もあるので宇宙中で万能食材が使われている。

 なによりも安価で家計的に助かる。


 天然や養殖食材(もの)は高い。

 下手な牛肉だと惑星一つとかいう天文学的お値段になる。


 正直なところを言えば、トーマは万能食材があまり好きではない。

 転生者であるから天然本物の料理の美味しさを覚えているのだ。

 おかげで万能食材料理は、どうにも微妙な味に感じてしまう。


 もっとも自分のサイボーグ化すらもままならないトーマには天然食材など夢の夢。

 給料の全て妹と弟のサイボーグ化手術の資金や学費の為に貯めているから、よっぽどのことがない限り縁はない。


 それに決してまずいわけではないのだ。

 ただもう少しナニカが足りてないなというくらいで――。


「それでどうして今日は早いの兄ちゃん!」


 そんなことをつらつらと考えていたらルカがごはんを食べながら一番聞いてほしくないことを聞いてきた。

 むせなかったのは自分を褒めてやりたいとトーマはコップを口に運んだ。


「お兄ちゃん、水こぼしてるよ」

「おっとすまん」


 思わず手が震えてこぼしてしまっていた。

 あまり話したくないことを話すというのは、転生しても緊張する。

 ただいつまでも黙っているのも気持ちが悪い。

 さっさと済ませてしまおうと居住まいを正す。


「なんで早く帰って来たかだったか。実はな。クビになって」

「クビ!?」


 ガタッ、とシーナがテーブルに両手をついて立ち上がった。


「お、落ち着いてくれ。大丈夫だ。スカウトがあって」


 大丈夫だと両手を上げる。

 ほっとしたようですとんとシーナはテーブルに座り直した。


「良かった」

「不安にさせて悪かった。お前たちにお金のことで心配はさせないからそこは安心してくれよ」

「そういうことじゃないけど……それでスカウトは受けるの?」

「いいや、それを相談したくてな」


 シーナの黒い瞳が驚愕に見開かれる。

 ルカはスプーンを床に落としていた。


「お兄ちゃんが、相談?」

「兄ちゃんが、ぼくたちに!?」


 そんなに驚かれることだろうかとトーマは首をかしげる。


「だって今まで相談されたことない」


 うんうんとルカがシーナの隣でしきりに頷いている。


「そうだったか……?」

「そうだよ、お兄ちゃん。調理器を買う時も勝手に買ってきたし」

「それは便利だし……いると思ったから……」

「軍に入る時も何も言われなかったし」

「あれしか方法がなくて……」


 確かに相談初めてかもしれない。

 なまじ転生者で、生きた年数が倍くらいに加算されているから精神的に成熟してしまっているのもあるかもしれなかった。


 まずい、このままでは勝手に物事を相談なしに決めてしまうカス野郎になってしまう。

 今度からしっかり相談しようと心に決めて、ひとまずはこの話を進めることにした。


「と、とりあえずレーサーの仕事でスカウトされたんだ」

「相談するってことは、何か問題があるの?」

「ちょっと危ないかもしれない」


 シーナとルカにユリアのホロ名刺を見せる。

 それから新型ウェアクローズを作るということはうまくボカしながら、レーサーやりつつ危険なテストパイロットをやることになるかもとだけ告げる。


「やめよう」


 一度、そう言ってからシーナははっとしたように首を振る。


「ううん、違う。それはお兄ちゃんがやりたいことなの?」

「やりたいことだな。でも、シーナとルカが反対するなら断ってもいい。どうだ?」


 シーナはルカの口元に顔をよせる。


「ルカはどう思う?」

「ぼくは良いと思う」

「危ないんだよ?」

「でも、兄ちゃんがやりたいことだよ。姉ちゃんだってやらせてあげたいでしょ?」

「うん……あたしたちのせいで学校にも行けずに軍に入って働いてくれてるんだもん。好きなことやらせてあげたい。ありがと、ルカ」

「じゃあ、明日、お菓子買っていい?」

「それはダメ」

「けちー」


 こそこそと何かをトーマに聞こえないように相談して、シーナがトーマに向き直る。


「お兄ちゃんがやりたことなら、あたしとルカは反対しないよ」

「……ありがとう」

「お礼を言うのはあたしたちの方だもん。いつもお仕事ありがとう。あたしたちが邪魔だったら追い出していいからね」

「追い出すわけないだろ。大切な家族なんだから」


 持つものはやはり理解ある家族である。


 さっそくスカウトを受けることをユリアに連絡する。

 するとすぐに彼女が家にやってきた。


「スカウトを受けてくれて感謝するわ」

「早過ぎだろ……」

「準備が色々あるからね、色々手配してきたわ」


 行動力の権化すぎる。

 電話してから十分も経っていない。


「あなたがお兄ちゃんの雇い主ですか?」


 やってきたユリアの前にシーナが立って足下から頭の上までじっと見ていく。

 ユリアはシーナの前に膝をついて目線を合わせる。


「ええ、そうよ。社長のユリア・サザンカ」

「……お兄ちゃんを裏切ったり、お兄ちゃんを不幸にしたら許しません」

「ぼくも!」

「それは約束できないわね。でも、裏切りはしないわ。あなたのお兄さんが死ぬときは、わたしも一緒に死んであげる」


 なにやらとんでもないことを言ってないか? とトーマは我が耳を疑った。

 確かにそれくらいの覚悟はいるようなことをするのかもしれないが、それを十三歳と八歳の子供に言うなよ、と内心愕然とする。


「わかりました。お兄ちゃんをよろしくお願いします」

「します!」


 何がわかったのだろう。

 怖いとトーマは思った。


「じゃあ、さっそく準備しましょう」

「準備って?」

「引っ越しよ」

「はい?」


 ぱんぱんとユリアが手を叩くと、どこからともなく作業用アンドロイドたちが現れる。

 むくつけきゴリマッチョアンドロイドたちが、あれよあれよと区画を切り離し、引っ越しコンテナにトーマたちの自宅を詰め込んでいく。


「突然すぎるだろ……シーナたちだって色々あるよな? 友達とか」

「大丈夫」

「兄ちゃんがいればどこでもいくよ!」


 やだ、この子たちかわいい、とトーマは泣きそうになった。

 ならば兄のやるべきことは一つだ。


「ユリアさん」

「ユリアで良いわ。共犯者なんだし」

「じゃあ、ユリア。危ないところにはいかないよな?」

「少なくともこのソウジロウ・コロニーよりかは良い所よ。きっと驚くわ」


 悪戯っ子のようなにこにことしたユリアについて引っ越しコンテナとともに宇宙港へと向かう。

 長ったらしい検査を終えてぐろっきーになりながらついて行った先には、巨大な白い鯨のような船が浮いていた。


「わたしの都市船シリウスへようこそ、歓迎するわ」


 トーマたちの前でユリアは不敵に太陽のように笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ