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第31話 潜入

 降下後、ポッドから出るとリサイクルモードが発動し、素材マテリアルへと分解されスーツの腰に備え付けられたポートへと吸収される。

 簡易ファブリケーターを備えた単独潜入用スーツなので、何かあればこれで作成することが可能だ。


 身体の状態とスーツの状態を確認し、座標を確認する。

 寸分たがわずにポッドは降下地点にシュートされたようで、収容施設の近郊に無事に降り立つことができた。

 クレーターの外側である。


「さて……」


 ヘルメットの望遠機能で収容施設を観察するために、クレーターの縁に身を伏せた。

 収容施設はクレーターの底で、監視はレーダーとセンサー類に頼っているようで、監視ドローンなどは見当たらない。

 監視カメラの類の反応もなかった。

 そもそもの話、外からの侵入者はマザー・シリウスというチートと化石としか言いようのない降下ポットでもなければ衛星軌道上のステーションが張り巡らせた監視網で十分なのだ。

 外からの侵入者を想定せず、内側からの脱走にのみ注意を払った監視体制はこちらとしては好都合。


 それでも警戒は怠らないに越したことはない。

 軌道上のステーションから今も収容施設は監視されているのだから、しっかりとスーツの偽装機能を調整しオンにする。

 スーツ表面に塗布されているナノレイヤーが周辺の環境情報を取得し、タコのように質感や色彩を変化させ、周囲に溶け込む。


 カモフラージュに問題がないことを確認し納得してからトーマは進み始めた。

 クレーターの縁から砂ぼこりを立てないようにゆっくりと移動していく。

 移動はなるべく障害物が多く厳しいルートをとった。


 そこからは来ないであろうと人が思うようなところこそ最も安全なルート。

 もとよりこのクレーター周辺は全て誰も通ることを想定していない。

 クレーターの縁は反り立つ壁で、なんの装備もない人が昇るのはほとんど無理だと思えた。

 じれったくなるほど時間をかけてゆっくりとクレーターを降り、痕跡を残さないようにしながら匍匐で進む。


 じっとりとスーツの下に汗をかく頃、ようやく収容施設へと到着した。

 壁面に入り口らしきものは見られない。

 こういう建物は衛星軌道上から降下して収監したり、移動したりするためそもそも壁面に出入り口を作らない作りであるというのはマザー・シリウスがいっていたこと。

 その通りだと思いつつ、マザー・シリウスの図面データを参照する。


「今のところ、合ってるな」


 ちょうど壁に接触する場所にはダクトがあった。

 人が使用する施設であるために避けられない隙間だ。

 ここから侵入するために降下地点は設定されていた。


 ダクトには格子があり、継ぎ目はない。

 外すことができないように見えるが、外す方法はある。

 腰のポーチから小さな瓶を取り出す。

 それについたダイアルを回し、ダクトを塞ぐ格子に押し付ける。

 数秒すると薬液の色が変わった。

 それをダクトにかけるといともたやすく格子は解け空気に溶けていった。


 この収容施設の製造は大型ファブリケーターを使用しての製造である。

 最近の建物はほとんどそれで先ほど使った薬剤は建物の建材を素材へと戻すリサイクル溶液だ。

 建材素材の組成をきちんと入力して使わないといけないため、何もかもに穴をあける使い方はできない。


「さて、内部の構造も予想通りだと良いんだが」


 カモフラージュを変更し、ダクト内へと身を滑り込ませた。


「…………」


 そこで数秒留まるが、施設内から特に音がしない。

 スーツの集音機能を最大にしても誰の話し声もしなかった。

 それでも油断せず、ゆっくりとダクト内を進んでいく。


「ここを曲がると倉庫の上だな」


 合っていることを祈ってダクトを進むと、倉庫へと辿り着く。

 予想施設マップは合っている。

 どこへ行ってもマザー・シリウスが予想した通りの施設構造をしていた。

 ここに至ってもなおトーマは帝国の規格の統一を甘く見ていたようだ。

 偏執的なまでの規格の統一は、建物の構造すらも対象だったようで、ダクト内を這い進んで完成させた本当のマップと予想のマップを見比べても誤差はまるでなかった。


「まあ、ありがたいことだ。それにしても監視員とかいないんだな」


 それどころかどこの房も囚人の類はいなかった。

 罠を想起させる。

 気を抜かずにトーマはユリアが捕らえられているという区画へと急いだ。


 順調にトーマはユリアがいる独房へと辿り着いた。

 ダクトをこじ開けて内部へと進入を果たす。

 監視カメラがないかだけ確認。

 独房の入り口の方にあるが、ダクトのある側はお誂え向きに死角があるようだ。


「おい」

「誰……!」

「俺だ、助けに来たぞ」

「なっ!? トーマ!? なんで!?」

「しー。静かにしてくれ気が付かれる」


 ユリアは丁寧に扱われていたようで、どこにも怪我はなさそうだった。

 そこに安堵しつつ、ダクトの格子をリサイクル溶液で解く。

 スーツ表面と同じ機能を持った布をそこから広げて、壁に同化する。


「これで良し」


 トーマはダクトから出てユリアの前に立った。


「というわけで逃げるぞ」

「なんで来たのよ! わたしは……!」

「ああ、そういうの良いんだよ。俺たちはあんたを助けたいから来たんだ。好きなことやってんだから、言いっこなしだ」


 暴論である。ユリアは驚きと呆れが入り混じったなんとも言えない表情を浮かべている。


「とにかく逃げる」


 ファブリケーターでユリア用のスーツを作る。


「ああもう、そういうことじゃないのよ!」

「なにが?」

「もうすぐこの施設は消滅させられるのよ!」


 トーマはこの施設に誰もいなかった理由を理解した。


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