第27話 激戦
最新スラスターを使ったブーストをなりふり構わずふかしてウォーマシンはスカルフェイスに並んでいた。
『よう、追いついたぜ!』
「来たな」
来るだろうと、トーマは予想していたので慌てることなく、どこまでやれるのかと操縦桿を倒す。
行かせるかと言わんばかりにさらにブースターをふかしてウォーマシンが加速。
それはかなり無茶をしているとトーマは冷静に判断する。
ウォーマシンの出力は当然ながらスカルフェイスに及んでいない。
完成したダブルコア理論によりその出力は通常の二乗ではきかない。
その分だけ速力の差が出ている。
だから、いずれ引き離せると思っていたが、ウォーマシンはいつまでも追従する。
「スラスラーのブーストには限界があるはずだが、おいおいマジか」
カレンはスラスターのブーストが最大加速から失速するにウェアクローズの機能を使ってスラスターを新しいスラスターに作り直して再度ブーストを行っていた。
一瞬でもタイミングをミスすれば失速するだろう荒業だ。
まるでロボットのアームに箸を握らせて針穴に糸を通すが如く繊細な操作をカレンは行っていた。
AIでは、そんな繊細な操作はできない。純粋な彼女の技量にトーマは舌を巻く
「猛獣のくせして、本当に繊細な奴め」
おかげで追いつかれた。
ブーストによる最大瞬間加速度は、ウェアクローズのあらゆる加速を行う手段の中で最速を誇る。
ただそれは本当にブーストを使用した瞬間、刹那の最大加速度がそうというだけで、恒常的にその速度が出せるわけではない。
しかし、カレンはその最大加速度を、スラスターを連続作成することでブーストのクールタイムをスキップして維持していた。
最新のエネルギーコアとスラスターのため、砲撃回避によって速度の落ちたスカルフェイスの走行についてこれているほどの加速。
いや、こちらがブーストなしで回避を強制される走りということを考えれば、追い抜かれる可能性すらある。
久方ぶりに感じる肩を引かれる感覚にトーマは笑う。
それは走る者を襲う敗北の恐怖。
後ろから肩を叩く敗北という名の死神の手だ。
「これだ。俺は、今、本気で走っている!」
トーマの脳内を駆け巡る興奮。
ただ一人で走っては到底感じられない感覚が頭から全身を突き抜けていく。
それはただひたすらに純粋な歓喜。
人という存在を拡張する鋼鉄の衣服が、舗装路を踏みしめて走る喜びだけを与えてくれる。
ここに苦しみはない。
酸素を求める息苦しさも、足の筋肉がもうダメだと泣きごとを言うのも、ここには存在しない。
どこまでも止まらずに走ることができる。
ノンストップ。
ブレーキはない。
「これだけやって同等程度かよ、化け物だな、あの機体は!」
カレンは繊細な機体制御をこなしてながらモニターに映るスカルフェイスを睨めつけた。
ここまでされていればカレンとて気が付く。
スカルフェイスのエネルギーコアは何かしら特別な技法で製造されている。
つまり、エネルギーコアの密造が行われていたということに他ならない。
『どこの誰が製造したのかしらねぇ。ヴィスニウムの流通はこちらが握っているから、どこかで不正があれば検知できるのに。そもそも製造するにはかなり大がかりな設備がいるからコロニーでやるとバレるし、どこかの小惑星でやったとしても物資の動きでわかるはずだけれど……』
エネルギーコアを製造するにはかなりまっとうな設備が必要になる。
コロニー内でそんな設備を作ったりしようものなら、即座にコロニー警察が動く。
全てのコロニー市民IDは追跡されており、いつどこで誰が何をしたのか、全て把握できるから密造なんてことは不可能なはずだった。
本島にどうやったのかしらと、監督が困り顔をしているのでカレンは怒鳴りつける。
「そんなことはどうでもいいんだよ。どうやったらあんな出力が出るんだ、対策は!」
『私も知りたいわ! カレンちゃん、いっぱいデータ取って頂戴ね! あとできれば勝ってね!』
「わかってるから対策案!」
『カレンちゃんの方が良くやってるわ。そのままよろしくね♪』
「結局、これしかないってことかよ!」
綱渡りをまだまだ続けなければいけないらしい。
勘弁してくれと思いながらも操縦桿とフットペダルを連続コマンド。
機体が悲鳴を上げるように嘶いてブースト加速を継続。
スラスターを作る素材のゲージを横目に見る。まだまだ潤沢。
ウォーマシンはとにかく弾幕を張るコンセプトであるから、それに合わせてマテリアルも十分な量積んでいたのが功を奏している。
「こんなことの為に持ってきたわけじゃねえってのに」
攻撃しないで神経を使う作業を強いられるのは苦痛だ。
しかし負けるのはもっと苦痛だ。
「何がなんでも勝って奢らせてやるからな!」
このレースの後に待ち受けるであろうことはあえて目をそらしながらカレンはブースト加速連打を続行。
装甲が軋み、加速度が身体をシートに押し付けるのを感じながらカレンはコースを見た。
目の前にはほぼ直角に曲がるカーブがある。
前に出る勝負をするならばここだと直感した。
カレンは二基で動かしていたスラスターを四基に増設。
耐久速度限界を一時的に突破し、カーブへ向けてさらなる加速を実行した。
奇しくもスカルフェイスもまたウォーマシンと同時に加速していた。
「だよな! お前も来る! わかってんだよ! チキンレースと行こうや!」
この速度のままカーブに突っ込めば、その先にある巨大な岩石にぶつかることになるだろう。
だから、カレンは加速した。
挑んだのだ、チキンレースを。
どちらが加速を緩めるのか勝負を挑んだのだ。
トーマもまた同じ考えだった。
二人はカーブに向けて加速していく。




