第26話 双子の心臓
「さあ、走れ相棒」
黒煙のベールを引き裂いて、骸骨が躍り出る。
スタート直後、けたたましく鳴り響く警報。
その身に装填された、あらゆる武装の全てをスカルフェイスに向けて放つカレンのウォーマシン。
回避も何もない。走り出すその瞬間を狙った攻撃。
本来ならばトーマの技量をもってしてもこのタイミングの攻撃は回避できない。
カレンはトーマを動かすことの意味をよくわかっていた。
彼がヘレフェール宙域において発生した宇宙怪獣の大氾濫を鎮めた時のことが脳に焼き付いている。
ただ一機で銀河に巣食った宇宙怪獣を焼きつくした圧倒的な暴力を間近で見たのだ。
だから、その対処をした。
「悪いな、今のスカルフェイスなら」
回避すらいらない。
フットペダルを踏み込むことで、出力を一気にトップにまで持っていく。
ただそれだけのことで事足りてしまう。
唸りを上げるダブルコア。
二つの圧縮ヴィスニウム結晶が安定層の中で高速回転し共鳴を引き起こす。
回転させるというトーマの発想は、ダブルコアにさらなる飛躍をもたらした。
高速回転する圧縮ヴィスニウム結晶はさらなる相乗効果を引き起こし、より多くのエネルギーを創出する。
二倍、二乗どころではない出力。
莫大なまでのエネルギーが機体フレームの隙間を埋めるが如く噴出する。
それにより形作られた物質的密度を持ったエネルギーの層がスカルフェイスへの攻撃を無に帰した。
いわゆる余剰エネルギーを利用したシールド装甲で、コロニーや都市船などの大型艦船が持つデブリシールドなどと同様の原理。
つまるところ莫大なエネルギー生産能を持つエネルギーコアの余剰を防御力へと変換する機構によるものだ。
骨のようだったスカルフェイスは今や物質化したエネルギーの鎧を身にまとっている。
スカルフェイスは疾走を開始する。その剥き出しの躍動を全宇宙へと見せつけて。
「ああ、良いな。良い仕事だ、ヒェミィ!」
まるで空を飛んでいるかのように軽快にスカルフェイスは舗装路に足跡を刻まずに滑るように走っている。
アクチュエーターの駆動音が骨の鳴りのようにけたけたと笑い、エネルギーコアが心臓の鼓動のように鳴動する。
「くそ、速すぎだろうが!」
どんどん遠ざかっていく向こう側すら透けて見えそうな背中にカレンは必死に手を伸ばす。
ウォーマシンのエネルギーコアの出力は従来のものよりも上がっている。
既に撃ち尽くしたミサイルポッドと砲はパージして軽量化も図っていた。
ウェアクローズに内蔵されているファブリケーターを利用すれば弾薬も作れるが、今はそれ以上に軽量化が必要だった。
しかし、それでもなお追いつけない。
「何をしやがった!」
ウェアクローズがコロニーシールドのようにエネルギーが物質的性質を獲得するなど尋常ではない。
確実に何かのブレイクスルーがあったのだろうことは想像に難くなく、カレンの脳裏では凄まじい速度での情報検索が行われている。
必要なのは対応策。
このままでは負ける。
だからこそ銀河ネットワークに接続されているサイボーグとして、その権限を最大限行使。
AIが提案する数々の案を加速思考で吟味し、実行する。
「攻撃だよなぁ!」
相手の脚が速いことはわかった。
ならば必要なのは攻撃だ。
それも自分以外にさせる。
「おい、レーサーども!」
近距離通信網を構築し、カレンは他のレーサーを専用VRルームに乗せる。
「前を走るあいつに攻撃しろ、生半可じゃねえ、全力でだ」
『やる意味はあるのか? 台本から逸脱しているんだぞ』
「私が勝つために必要なんだよ。私からの新しい台本の提案と思ってろ」
『なるほど。責任は君が取るでいいのかな?』
「ああ、それでいいから協力しろ。まずはあの骸骨野郎の脚を止める」
『長距離射撃装備のデータを共有してくれるか? 君はカッティング・デザインは新作を開発していると聞いている』
「良いぜ」
カッティング・デザイン社が開発中未発表未発売の最新式長距離狙撃用大型ライフル「フィンバック」の設計データを転送してやる。
他社のレーサーにデータを渡すなど本来であれば問題になる行動であるが、勝つためならばそのようなリスクは些事と切り捨てた。
『ウァオ、良いね。コピーを取るからちょっと待ってろ』
「良いからさっさとやれ」
『ちょっとぉ! カレンちゃん、何してるのよぉ!』
通信ウィンドウの向こうでのぶとい女口調の男が頭を抱えていた。
「悪いな監督、勝つためだ」
『もう、これだから新人ちゃんはやんちゃなんだから! 良いわ、その代わりあんたたちもデータ出しなさい!』
『では、こちらも未発売の最新スラスターのデータを渡そう。その代わり勝って宣伝してくれと上が言っている』
「気前がいいじゃねえか。こんなもん隠してたのかよ。確約はできねえがデータは取ってやるよ」
『それで十分らしい。経営陣は怒鳴っているが研究者どもは相当に無茶をさせたデータがあればいい、だそうだ』
「企業ってのは大変だねぇ」
『大変にしてるのはカレンちゃんなのよ!』
『こちらは好評前のブレードのデータを出そう。カッティング・デザインの新型コアでの使用データをくれ』
「使い潰してやるよ!」
他にも様々なデータがやり取りされる。
企業人たちは右往左往のてんてこ舞いだ。
『では任せるぞ。プリンセスビースト』
「おい、待て。誰だ、私の不名誉なあだ名知ってたやつは!」
仮想会議は蜘蛛の子を散らすように参加者が逃げたことで強制終了。
それと同時にウォーマシン以外のウェアクローズは、一斉にフィンバックを形成しスカルフェイスへと狙いをつけた。
「おいおい、マジか」
協力してくるのは、トーマも流石の予想外だ。
「昔から人を巻き込んで乗せるのがうまいんだよな、カレンは。相変わらずかよ!」
『えへへ、予想スペックだしたよ』
「コロニーを貫通するほどの威力とか馬鹿なのか?」
フィンバックはコロニーシールドを貫通し、余裕で外壁も消し飛ばす威力の最新鋭超大型狙撃エネルギーライフルという予想データを見せられて、トーマは思わず天を仰いだ。
『えへ、全部受けたらトーマ、死んじゃうね、えへえへ』
「当たればだが、回避に集中はせざるを得ないな」
流石のスカルフェイスもビームよりは速く走れない。
打ち出された極太のビームをスカルフェイスは左右に移動して躱すが、おかげでスピードは相応に落ちてしまう。
『追いついたぜ!』
「カレン!」
その隙にウォーマシンがスカルフェイスに並んだ。




