第23話 完成への一手
なぜ失敗したのかを検証して次の実験を行っていく地道な作業は、暇な時間よりも大いに充実していたと言ってもいい。
トーマの発想によってダブルコア理論は完成へ近づいたと言ってもいいのだが、未だに爆発を繰り返しているのだけは流石に辟易してくるが。
こうなってくるとトーマとしてはそろそろ走りたくもなってきた。
ここ最近、工房と家を往復する毎日であったから、そろそろ潤いが欲しい。
「というわけで、レースに出たいんだが」
「まだ新しいエネルギーコアが完成してないんだから、もう少し我慢しなさい」
「いつになることやら……はぁ、どうして爆発するんだ?」
「えへえへ、それはねぇ」
工房隅に新しく――あまりにも爆発して煤塗れになるため――設置されたシャワー室を区切るカーテンをヒェミィが開く。
まだ裸であるし、水も滴っている。
慌ててトーマはカーテンを閉めた。
「服を着てから出ろ!」
「えへへ」
ごそごそっと音がして濡れたままいつもの格好になったヒェミィが出てくる。
「風邪ひくぞ……」
「サイボーグだから、大丈夫、えへ。それでね、失敗する理由だけど、二つの圧縮ヴィスニウム結晶の配置が悪いから」
「配置?」
「えへへ、うん。安定層内での配置が正解の位置にないから過干渉を起こして爆発してるの」
「なるほど……配置、配置ねぇ」
「色々試して、正解の位置を探り中、えへへ。これはきちんと実りある爆発」
「爆発に実りがあってたまるか」
しかし、正解の位置とはどういうところなのか。
そこに辿り着くまでトーマにはどれほどの試行回数が必要かわからないが、それが莫大であることはわかる。
「じゃあもう、同じところに置いておかずに安定層内で回転でもさせたらどうだ」
またヒェミィがフリーズした。
「あら、これはまたハグかしら」
「最終結果だけいうなよ」
「でもこうなったからには結果としてそうなるじゃない。また良い発想をしてくれてあなたを雇った甲斐があるってものね。掘り出し物だったわ」
「そいつは良かったよ」
「よくもまあ、そんなに変な発想ができるものよ」
「あんたたちが凝り固まりすぎなんだと思うぞ」
帝国が強固に規格統一などで思考を凝り固めているからこそ、異世界から転生してきたトーマの普通の思考がコロンブスの卵的に作用しているのだろうと、バスタオルをファブリケーターで作る。
それを自分の前で広げてトーマは待つ。
「えへ、ハグ!」
予想通り濡れたヒェミィが両手を広げて突っ込んできたので、バスタオルで包み込んでやる。
ハグされるのは構わないが、濡れている状態では水気が伝播して気持ち悪くなってしまうのだ。
「むぎゅ、えへ」
「で、今度はどうした」
「たぶん、これで安定。しかも、安定層の強度問題もなんとかできる。トーマ、天才」
「別に天才じゃないっての」
ただ前世の記憶があるだけである、とは言えずにとりあえず濡れた髪とかを拭いてやる。
妹を相手にしているようで微笑ましい。
妹以上の肉感に関しては何も考えないようにする。
役得だと思うのが良いだろうが、隣にいるユリアにバレたら何を思われるかわかったものではないため務めて表情には出さないように水気をぬぐう。
それらを終えて解放した途端、ヒェミィはリードを外した犬のようにファブリケーターへと突進していった。
猛然とホログラムが彼女の手の中で形を変えていく。
「これが成功したら次のレースの準備かしらね」
「次はどんなレースにでるんだ」
「わたしたちは本当に運が良いわね」
中空で視線を彷徨わせていたユリアがホロウィンドウを表示する。
次のレースのテーマがそこには見覚えのある顔とともに表示されていた。
「……エネルギーコアのテストレースか」
つまり出来レース。
このテーマのレースはエネルギーコアを作ることのできる帝国の技研とユニバーサル・フレーム社、カッティング・デザイン社の独壇場だ。
彼ら以外の選手は、彼らの噛ませか、彼らのスポンサーシップを受けたレースチームで実験機を借り受けることができた幸運の持ち主しかいない。
当然のように技研か、ユニバーサル・フレーム社か、カッティング・デザイン社が改良したエネルギーコアの持ち主が勝つようになっている。
誰も他の誰かが勝つだなんて思っていない。
そういうレースだ。
「そこでわたしたちが勝つ。帝国技研とユニバーサル・フレーム社、カッティング・デザイン社全部にわたしたちの成果を叩きつけられるわね」
「銀河中にってわけだ。大事になりそうだな」
「なるでしょうね、でもそれが目的だもの」
「圧倒すればいいか?」
「圧倒しなさい」
「機体は?」
「スカルフェイスに決まってるでしょ」
「フレーム強度とかは大丈夫なのか?」
上がった出力に機体の方が耐えられないで自壊とか格好悪くて勘弁してほしいと両手を上げる。
「そこはヒェミィがうまくやるでしょう。テストランする時間が今回はあるんだから、なんとかできると思うわ」
「了解した」
「やったー! できたー! えへえへへへへ」
設計図ができて跳ね回るヒェミィに生暖かい視線を送りつつ、ユリアはレースの申請などの準備の為に工房を出ていく。
振り返らないのは信頼の証と思っていいだろう。
トーマは見送ってからレースの開催を告げるウィンドウをに映った人物を見る。
亜麻色の髪をした小動物のような可愛い顔立ちの女性レーサーの顔を懐かしむように触れた。
「なんだこのアイドルみたいな写真は似合ってないぞ、カレン」
カレン・イグナス。軍入隊時の同期で、同じ船に配属された仲間だ。
トーマが軍を辞めた時に、軍に残ったはずだが、どういう経緯か彼女も軍を辞めてレーサーになったらしい。
「軍が天職とまで言ってた猛獣がレーサーになるなんてな、どんな心境の変化だ?」
どちらにせよ厄介な相手であることに違いはない。
俄然、レースが楽しみになってきた。
この後は、爆発もなく静かに時間は過ぎていった。




