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第21話 お宝を探る

 当然のように小惑星基地に踏み込み、ヴィスニウムを回収するのはトーマの役割だった。

 といってもそんなに煩わしいことはない。


 接舷したシリウス号から大量のドローンが小惑星基地に送り込まれ、内部構造や防衛システムをその物量とマザー・シリウスの演算能力によって突破。

 残された海賊や人質がいないこともと同時に確認し、お宝の捜索も行う。

 ただ待っているだけで小惑星基地は裸にされ、あとは指示に従ってお宝を輩出するだけ。


「楽だが結構な数だな」


 ドローンたちが見つけたお宝――つまり、エネルギーコアの素材となるヴィスニウムの他、海賊の宝物庫とは思えない美術品の数々はトーマの想像していた以上の数であった。

 どれだけ溜め込んだのか。どうやって集めたのかはこの際おいておくとして、どうにも困りものだ。


「美術品ってのはなぁ……」


 どれもこれも本物か偽物かなど目利きはトーマにはできないが、処理に困るものであることに違いはなかった。


 ヴィスニウムはこちらで使うから良い。

 宝石類も換金すればいい。


 だが、美術品は別だ。

 本物偽物含めて美術品を銀河帝国で捌こうとすると必ず足がつく上に、特殊な販路でも持っていない限り値段的価値がない。


 美術品を嗜む者は大抵が貴族であり、美術品は血統書付きの犬のような帝国が定めた鑑定士の証明書がないと認められない上、帝国が認めた一部御用商人たちにのみが扱える代物なのだ。

 盗品だとバレたりすれば捕まって問答無用の裁判にかけられる。


 つまり一部の御用商人たちにとってはうん百億クレジット以上で取引されるが、一般人にとってはゴミとさほど違いはない困ったちゃんたちということだ。

 一般人はVRで見れば無料だというのもあるだろう。


 そんな超ぜいたく品をよくもこれだけのものを集めたというのはにわかに信じがたい。

 ご丁寧に全てが保存加工をされており、数百年、数千年だろうともその美しさを保ち続けるようにされている。

 よほどの変わり者だったのだろう。


「どうすんだよ、これ」


 トーマに美術品を見て美しいと感じる感情フィーリングはあっても、それらを所有して鑑賞するという高尚さ(ノヴィリティ)は持ち合わせていなかった。

 漫然と見ている分には良いが、これをいつまでも飾り付けることに意義を感じない。


 売るにしても問題がある。

 海賊規定に則って、ここで手に入れたものは全てトーマたちのものなのだが、そこは自由にならないのだからままならないものだ。


「あら、いいものばかりじゃない」


 安全が確認されたからユリアもスーツを着て美術品を見ていた。

 彼女の方は美術品に意義を見つけられるタイプであるらしい。


「わかるのか?」

「一応ね」

「シリウスに飾るか?」

「まさか、ツテあるからそっちに頼んで売るわ」

「あるのかよ、ツテ」

「……ちょっとね」


 ユリアの声には、やや歯切れの悪さがあるように思えた。

 あまり言いたくないというような感情が見て取れる。

 トーマは追及するかどうか考えて目を細め、美術品を見ているユリアを目で追った。 


 彼女はぱっと見で目の前にあるでたらめな色の羅列としか思えない絵画が誰それの作品で、どのような文化的価値があるのかを滔々と語る。

 あるいは見事としか言いようのない彫刻を見て、これは習作で作者からしたら駄作だろうと評論家のようなことを言い。

 でも美しいから良いものね、と見た目だけを褒める一般的な感性を口にする。


 その行動を見る度に、トーマは彼女の姿がまるで霧の中にぼやけていくように感じた。

 彼女は一体どういう人物であるのかをまるで知らないことに気が付かされるのだ。

 パズルをしていて、形はあっているのにピースの柄が合わないような、そんな感覚。


「なあ、あんたは一体何者なんだ?」


 気がつけばそう聞いていた。


 サザンカ・インダストリアルの女社長のユリア・サザンカ。

 それ以上のことをトーマは知らない。

 帝国に反するような望みを持ち、どこからかヒェミィのような人材を連れて来て、死への道を歩ませる。

 それなのにトーマの妹や弟には銀河帝国中央の良い学校への編入を福利厚生として与えてくれた。


 今更ながら聞くのは、遅いかもしれないが聞いた。

 いや今だからこそ聞けるのかもしれない。


 一か月近くを共に過ごした同僚ならば、少しくらいは話してももらえるかもしれないと思ったからだ。

 時間にして一か月は短いかもしれないが、宇宙に置いて時間の長さを論ずることはナンセンスだろう。

 銀河標準時刻での一か月は地球の一か月とそう変わらないが、ある宙域では一か月は一年だったり、十年百年だったりする。


 長さも短さも場所次第で、仲の良さなんてものは数値化しようもないものであるならば、そんなものを気にするのは銀河帝国的にはナンセンス。

 トーマの感覚的には短いものの、そういう後押しと聞きたい衝動には逆らえなかった。


「気になる?」

「ああ。やりたいだけ、ってのも本心かもしれないが、そろそろ腹を割って話してもいいんじゃないか? 俺はあんたの好きなものも嫌いなものも知らない」


 何を言われようとも今更、逃げるようなことはしないから、とそこに置いてあった美術品を脇にどけて続ける。


「……ヒェミィと話したみたいに?」

「そうだ。知らないより、知っておいた方が動きやすいこともあるし配慮だってできるからな」

「そうね……」


 そっとユリアはどこか遠くを見るように美術品の額縁をその指先でなぞる。


「わたしは何者でもないわ。ただ忘れていないだけの亡霊」


 すっと緑の視線がトーマを見据える。


「銀河統一の為に滅ぼされた国の王女。それがわたし」


 軽く微笑みながら嘘のようなことを彼女は言って、彫刻に指を這わせる。

 それが嘘なのか判断できないが、トーマは続ける。


「……復讐が目的か?」

「ある意味ではそうかもね。でも、あなたに言ったことも本当。やりたいからやってるの」


 壁があるからそれを壊したい。

 そこにある自由を知ってもらいたいのだと彼女は美術品の一つを手に取る。

 それは小さな外画で、コロニーの空を飛ぶ鳥を描いたものだった。


「この世界はもっと自由で良いと思うのよ」


 駄作ね、と彼女は言って絵画を無重力の中に放流した。

 まるで本物の鳥のように絵画は飛んでいき、壁にぶつかって止まった。


 ●


 銀河帝国首都。

 帝国中央部に位置する巨大コロニー。

 それは今現在も拡張を続け、いくつも恒星、数多の銀河を呑み込む巨人であった。


 その深い場所に元老院はある。

 数百年前の銀河帝国統一時、初代皇帝とともに尽力した者たち。

 彼らは長命処理により、現在もこの首都奥深くに存在する元老院にて歴代皇帝の治世にて力を尽くしていた。


 普段は小動もしない闇に包まれた空間に鎮座する彼らは、ただ一つの映像にその目を向けている。

 その映像とは、異形の機体が台本を覆したレースの映像ではなく、サザンカ・インダストリアルの社長であるユリア・サザンカが映っているレース後の映像だった。

 スカルフェイスという機体について理路整然とそれらしい説明をしているインタビュー映像を彼らは食い入るように見つめている。


「彼女だ」

「間違いない」

「王族であれば、確かに長命処理はしているか」

「であれば」

「そうだ」

「おそらくは」

「復讐だ」

「動き出したのだ」

「過去の亡霊が」


 深い闇の中で蠢くものどもにとって、銀河戦国時代は歴史などではなく昨日の出来事。

 当然、滅ぼした国の王族などについては覚えている。

 いくら記録を隠して、全てのアイデンティティを奪い、銀河帝国標準規格化と教化によって上書きしながらも彼らはいつでも恐れていた。


 復讐。

 それによる分裂。

 かつての凄惨な時代を。


 銀河戦国時代におきた戦争でいったいどれだけの銀河が滅び、どれだけの人間が死んでいったのか。

 この虚無しかない宇宙が悲鳴で満ちるのではないかと思うほどだった。


「消さなければ」

「消さなければ」

「統一は絶対だ」

「分裂する者を赦してはならない」

「我らは一つであらねばならない」

「もう二度とあのような戦乱を起こしてはならないのだ」


 ただの数字が、数字に見えない。

 そこに血の通った人々の姿が見えてしまうほどに彼らは聡明であったが故に。


 未だに昨日を引きずる者どもが闇の中で蠢きだす。

 そのことに未だ、誰も気がついてはいなかった。


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