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第20話 一騎打ち

「よくもやってくれたな」


 ヒュージ・クローは目の前に現れたアルトエーラを見て忌々し気に喚き散らす。

 先制攻撃を赦した挙句、想定以上の火力で船団は一瞬で壊滅した。

 たった一隻の巨大船にできることじゃない。

 あのビームの物量は、クローにコロニーを相手にした若い頃の過ちを思い出させた。


 屈辱だった。

 自分には海賊としての才能があり、なんでもできると驕っていた天狗の鼻をコロニーの防衛システムはいともたやすくへし折って粉々にしてくれたのだ。

 どうにかこうにか死にかけてこの爪を手に入れてからは慎重に海賊を行うようになり、今や辺境の地でそこそこの規模の海賊団を率いることができている。


 逆に考えればいい。

 ここで仲間の多くを失ったとて、あの船を手に入れられさえすればおつりがくるというものだ。

 五十隻の船団を簡単に屠ることができるような船ならば、今以上の成功を約束してくれるに違いない。


 そこでクローが取った手段が、己の船を囮にして敵船への侵入だった。

 巨大な船ほど中に入ってしまえばもろいことを海賊経験からよく知っている。


 近づけるところまで近づき、撃墜されたふりをして自爆。

 その爆発に乗じてウェアクローズで一気に近づいて船を奪う。そんな算段を立てていた。

 しかし、気がつかれ自分一人だけがウェアクローズで脱出する羽目になっている。


 だが、まだだ。

 まだ取り返せる。


旧型のウェア(アルトエーラ)だ。こっちは最新のウェアに乗ってんだ。性能差で勝てる」


 クローは頭の中で展開を思い描いていた。

 戦いながら船に接近。

 敵を撃破してそのまま乗り込む。

 そして美しい船を手に入れる。


 そこに負けるなどという不安はない。


「オレは、負けなしなんだよ」


 海賊としてウェアクローズに乗り込んだその時からクローは負けたことがない。

 敗北は死を意味する海賊として今まで生き延びて来たのがその証だ。

 自分は強いのだと知っている。


「見せてやろうぜ、相棒(タロン)


 威嚇するようにじゃきんじゃきんとウェアクローズ――タロンに装備した爪を見せつけた。


 対するトーマは冷静に敵をモニターの中のタロンを見据えている。

 これ見よがしに見せつけられている巨大な爪。

 右腕にかぶせるように形作られた巨大な爪を有するガントレットのような武装は、如何にも警戒してくださいと言わんばかりだ。


「何かあるんだろうな」


 海賊という手合いは正々堂々という行為から最も遠い生き物だ。

 彼らにとっての正々堂々とは卑怯を交えた一方的な戦いという意味合いを持つ。

 基本として騙し討ちや不意打ちを戦術の根幹に配置する。

 弱い相手にはそのまま行くが、強そうな相手にはこぞってこれをするのだ。

 

 つまり何かを企んでいるのは明白で、これ見よがしに近接をすると見せつけている爪はフェイクだろうとトーマは推測する。

 何をするのかを完璧に想像することはできない。


 現行のウェアクローズには、アルトエーラにはない機能がある。

 モジュール化によってアルトエーラが更なる汎用性を獲得したように、現行機はさらなる技術発展による汎用性の獲得を持って新時代のウェアクローズとして採用された。

 アルトエーラの汎用性がどんなものにも繋がるというものであるならば、現行機の汎用性とは汎用性そのものを創り出すことにある。


 タロンが巨大な爪を振り上げる。

 その瞬間、トーマはフットペダルを蹴っ飛ばし、最大出力にて上昇を図った。


 同時にタロンの何も持っていない左腕にビームライフルが生まれ、エネルギービームが放たれる。

 一瞬前までアルトエーラの胴があった空間をビームが通り過ぎていった。


「ほら見ろ、やっぱりな」


 アルトエーラがカジュアルスーツなら、現行機は何にでも着替えられる魔法の服だ。


 現行機はどのような場面でも使える汎用性を《《創出》》する。

 簡単に言えば、その時々の戦闘に耐えうる武装や装甲を生成する3Dプリンターのようなものを内蔵している。

 アルトエーラの長所であったモジュール統一はそのままに、場面に合わせたコーディネートが行えるようなシステムが追加されたのだ。


 対艦砲(クルヴェット)を向け放つが、タロンは即座にブースターを増設し加速してクルヴェットの一撃を躱す。

 ならば持ってきたライフルとの同時射撃で退路を塞ごうとするが、対艦砲の一撃は避けられ、ライフルによる通常のビームはエネルギー反射率を高めた装甲が作り出され弾かれる。

 そのうちに戦闘補助AIが学習し、クルヴェットのスペックデータでも拾ってこられたら対クルヴェット用の装甲に置き換わることだろう。


 そうなればクルヴェットは意味をなさなくなる。

 現行機は、時間をかければかけるほど攻略不能になっていく機体だ。

 今後百年は語り継がれるだろう。


「こいつに勝たなきゃいけないんだよな」


 二重の意味で。

 その事実に思わず嘆息する。

 エネルギーコアの出力もここ数十年で上がっているため、旧型のアルトエーラはいくら全力でブースターを噴かしたところでいずれ追いつかれる。


「機動力もだめ、攻撃力も、防御力も負けてる」


 さて、勝ち目はいかほどか?

 AIならば即座に降伏を進めてくるが。


「パイロットってのはそれじゃ駄目だからな」


 例えスペックで負けていても勝つ。


「どうやら乗ってる奴の腕はそう高いわけじゃないらしい」


 緒戦でまき散らされた大量のデブリ――バッカニア海賊団の船ども――をくぐりり抜ける時の飛び方を見ればおおよその実力は見えた。

 スムーズに飛んでいるように見えるが、ひっきりなしに姿勢制御スラスターを噴かしているのは減点だ。

 あんな飛び方をしていれば、上官からは半殺しにされてしまう。


『勝てるんでしょうね』


 シリウスからの通信にトーマはにやりと返す。


「ああ、勝てるよ」


 トーマは踏み込んでいたフットペダルを離した。

 推力を失い慣性のみがアルトエーラを前に進める。

 相対的に見ると止まったようにも感じるほどの制動。


 タロンはねらい目だと思ったのか、ライフルを向ける。

 その瞬間、背後へとぐっと操縦桿を倒すと共にフットペダルを踏み込む。

 制動からの急発進による後方への直進。


 当然、同一軌道で追いかけて来ていたタロンのコックピットでは、けたたましい接近警報が鳴り響く。


「ええい、煩い!」


 近づいてくるのならば好都合というものだ。

 不意打ちは失敗したが、この爪はどんなものでも引き裂くだけの力を持っている。

 すれ違いざまに食らわせてやればそれで終わりだ。


「終わりだぜ、旧型!」


 タロンが鋭い爪を突き出す。


「甘いな」


 その瞬間を待っていたとばかりにトーマは幾度も操作コマンドを連打。

 無理だと機体制御補助AIが叫ぶが、無視しマニュアルでアルトエーラの全機動をコントロールする。


 ほんの紙一重の距離。

 超越的な機体操作により、爪は何もない空間を引き裂いた。


「は?」


 当事者でなければただ躱しただけに見えただろうが、タロンに乗っていたクローにはまるでアルトエーラが爪をすり抜けたように見えていた。

 一瞬、何が起きたのか理解を拒む。

 AIが警報を発した時には遅い。


 宇宙を斬り裂くブレードが首を落としていた。

 続けざまに放たれた一撃は静かにタロンのコックピットを貫く。


「終わりだ」


 悲鳴もなければ爆発も起きない。

 静寂の宇宙で戦闘の終了を告げるのは、数字のみ。


『該当宙域での生命反応および機械反応、戦闘継続意志ゼロを確認。戦闘工程の全てを完了と判断。戦闘終了をママが宣言します』


 ゼロ。

 宇宙において戦闘の終了とはこの数字をもって告げられる。


 こうしてバッカニア海賊団は静寂の中で壊滅した。


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