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第19話 壊滅

 もちろん都市船シリウス号の接近を小惑星基地にいるバッカニア海賊団は感知している。

 宇宙海賊というハグレモノをやってはいるが、汚れた金を税金として支払っているれっきとした帝国臣民でもある。

 セキュリティクリアランスは低いが、帝国ネットワークへのアクセス権もデータベースへの照会権も持っている。


 船乗りとして宇宙を行く者であるため船舶登録データベースに照会可能。

 結果、接近中の機影が超大型船シリウスであることを確認。

 どう対応するかを協議していた。


「お頭! 襲いましょうぜ! あんなデカイ船一隻! きっと良い金になる!」


 部下の一人の言葉をお頭と呼ばれた巨漢のサイボーグは聞いていた。

 これ見よがしに武器腕を見せつけるのは、敵と部下を威圧するためである。

 宇宙海賊は船を拿捕し、侵入、立ちふさがる邪魔ものを排除してから交渉をするため、こういった外見にわかる恐怖を貼り付ける。

 この頭目の場合は巨大な爪だ。

 ヒュージ・クロー。バッカニア海賊団における頭目の通り名だった。


 ギザついた爪を撫でながらクローは、空間に投影された情報を吟味する。


 サザンカ・インダストリアルという小規模な会社の所有船であり、それ以外に所有している船はない。

 契約している傭兵もいないどころかあれほど巨大な船を有しているのに従業員は三人という零細だ。


 正直金目のものは持っていないだろうが、あの船は良い。

 巨大な船だ。

 まるで海を泳ぐ鯨のようでとても美しい。


 ヒュージ・クローは粗暴な見た目で芸術などとは無縁そうではあるがその実、美しいものに目がない。

 それは宝石だとか金銀財宝だとかもそうであるが、エネルギーコアの素材であるヴィスニウムをこっそりと採掘しているのもそれが理由だ。

 ヴィスニウムは真空中で非常に美しい結晶構造をとる。


 そんな好き者であるところのクローは、この船を手に入れたいと考えた。


「良し、あの船をいただいちまうぞ、野郎ども!」

「「「おおおおお!!」」」


 部下どもと共に船に乗り込んでいく。

 その数はざっと五十隻。

 型式も年代も何もかもがバラバラな色とりどりの船が続々と小惑星基地から出発していく。

 誰が一番にあの船へ辿り着くか、競争を始めている者すらいる。

 海賊にありがちな通信内容はいつだってやれ女だ、お宝だと下品で下世話なもの。


「船はなるべく傷つけるんじゃねえぞ」


 そんな通信にクローは厳命を叩きつける。

 せっかく美しい船なのだ、壊してしまってはもったいない。

 通信では部下たちが、でたでた、いつものと肩をすくめて笑っている。


「そろそろです」


 そんなことを告げるのは副官として使っている男だった。

 レーダーとセンサーの類が言うには第一陣が射程距離に入る。

 攻撃が開始されることだろう。

 海賊の戦いはいつだって警告なしだ。とにかく撃ってから。

 その後のことは、その時に考える。

 刹那的享楽さに支えられた戦闘思考は、しかしこの時代においては有効だ。


 何事も警告と認証要求を発せざるを得ない現代の知的な機械ハイテクノロジーマシンたちは、この手の不意打ちを行うと次への判断が遅れることが多い。

 今回も海賊の流儀に則って警告などせず、手順を省略さっさと撃つべしを実行しようとした。

 その前に艦隊にロックオン警報が鳴り響く。


 敵船からのレーダー照射であり、銃口を突きつけられているという合図。

 回避を命じる前に、シリウス号から莫大な本数のエネルギービームが放たれた。


 ●


 開戦の一撃を敵に譲るなんてことをユリア・サザンカは赦さない。

 彼女は寡兵であるこちらが主導権を握るべきであることを理解していたし、先制攻撃が専売特許である海賊共を調子に乗せさせないことの重要性も把握していた。


「こっちから一発かますわよ! マザー!」

『命令受諾。ママの権限により都市船シリウス号の全砲門を解放。照準補正、追尾角1.00で固定、ロックオン確定』

「はい、撃って!」


 戦闘行動の承認を求める表示に掌を叩きつけて認証。

 シリウス号建造時にありとあらゆる都市船や廃コロニーから移植した合計何門あるのかも把握していない砲が全て起動。

 ロックオン完了と同時に一斉射撃。

 色彩統一もされていない継ぎ接ぎを象徴するエネルギービームが虹のように宇宙を引き裂いて敵船団へと殺到する。


 普段から不意打ち先制攻撃をしてきた海賊たちにとって相手に先制攻撃をされるということは初体験だ。

 よって回避できた幸運かつ優れた判断力を持つ船はごくわずか。

 ただ一撃で海賊船団は半壊した。


 その事実を艦の後詰めとして出撃していたトーマは、コックピットでレーダーに映る減った船影の数を確認していた。


「俺の出番はなさそうだな」

『いいえ、出番はありそうです』


 マザー・シリウスのミニホログラムが網膜投影されたので、身体を起こす。


「そうか?」


 戦域のレーダー図を見ていても特に問題になりそうなものは見られない。


『演算結果、こちらの一隻が防衛網を突破する可能性がわずかながら存在します』

「どれくらいだ?」

『一パーセントほどです』


 それは備える必要があるのかと思える数字であるが、マザー・シリウスは対応してほしいとプランを送りつけて来た。


「了解した」


 トーマは送られたプランをストレージのダストシュートに叩き込み、アルトエーラを可能性がある一隻へと向かわせた。

 ある直感がトーマを動かしている。

 マザー・シリウスは高い演算能力を有しているが、海賊と戦いの経験がないようだ。


 突撃してきているのならば、それは囮。

 近づけるところまで近づき、ウェアクローズを出して乗り込もうとしてくるだろう。

 相手にとってはこちらに入り込めば勝ちなのだ。

 海賊という連中はそういうサイボーグどもであると嫌というほど海兵隊の連中に叩き込まれたことがある。

 文字通り、身体に叩き込まれた。


『トーマ? 何をしているのですか? 母のプランでは』

「相手のウェアが出てくるはずだ。出られると面倒だから、その前に叩く」


 輝く虹のビームの中を飛ぶのは些か以上に恐ろしい。

 しかし、マザー・シリウスの放つビームはアルトエーラには当たらない。

 当たらないルートを勝手に表示してくれている。


 コロニー管理級AIのサポートを受けている以上、適当にしたって敵の攻撃にもビームにも当たらない。

 彼女の演算能力であれば敵船団を攻撃しながら、アルトエーラの軌道計算など赤子の手を捻るようなものだ。


 予定通りトーマはこちらへ突っ込んでくる船の進路上へ到達した。

 対艦砲クルヴェットで狙い撃つ。

 ただでさえシリウスからの攻撃で手一杯のところにクルヴェットでの一撃は避けようがない。

 敵艦は轟沈。

 しかし、生じた粉塵を引き裂くように巨大な爪を装備したウェアクローズが現れた。


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