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第14話 宇宙海賊の襲撃

 アラートの正体はすぐにモニターに表示される。

 五隻の艦艇がこちらに向かってきていた。


 すぐにトーマは船が発するエネルギー周波数をスキャンして、軍のデータベースで照合をかける。

 一致あり。ただし帝国犯罪データベースの方で。


 今、トーマたちに向かってきているのは、レスルセン宙域で幾度も資源船を襲っている宇宙海賊団バッカニアの艦艇だ。


『ひぇぇ、海賊ぅぅ?! し、しぬぅぅぅ』

「大丈夫だ。何とかする」


 怯えて蹲るヒェミィのウィンドウを脇に寄せながら、持ってきていた武装コンテナを開く。

 

 排出された武装は、対艦用エネルギー砲クルヴェット。

 長大な射程と超強力な威力を有する砲。

 その威力からウェアクローズ単体のエネルギーコアでは賄いきれないため、武装そのものにウェアクローズのエネルギーコアが内蔵されている。

 巨大な砲身は、マニュピレーターで保持しきれないため、宇宙空間かまたは低重力下でしか使用できない。


 マニュピレーターと直結モジュールを接続し、クルヴェットの射撃システムがオンラインになる。

 すぐにそれを切った。


「さて……」


 まだ距離はあるが射程内。

 海賊相手には警告する必要もない。

 人を殺すことへの躊躇なんてものもとっくの昔に通り過ぎている。

 軍に入った時にこの種の葛藤は済ませてしまった。


 そうしなければ死ぬのだからやらなければならない。

 自己保存を盾として自分の戦闘を正当化する。

 今やそこに採掘艇とヒェミィを守るという大義すら与えられている。

 躊躇う必要も葛藤を感じる責任もない。


「五隻相手だからな、二隻くらいは減らしたいところだ」


 横一列に並んだ横陣のうち真ん中から左の船に狙いをつける。

 システムではなくマニュアルでカーソルを合わせてトリガーを引く。


 圧縮されたエネルギーが光線となって宇宙を流星のように突き抜けていった。

 システムロックによって相手にロックオン警報がなく、唐突な射撃に相手は大層慌てたらしい。

 回避機動をとろうとするが遅い。

 トリガーを引いて着弾まではほとんど一瞬。


 真正面から通常モードから戦闘モードになるシールドを貫通し海賊船を一隻爆散させる。


 何よりも人の死はこんなにも容易い。

 航宙船やコロニーではわずかな外壁の穴が全てを終わらせることもある。

 ボタン一つどころの話ではなく、本当に簡単に人は死に過ぎるのだ。


 軍にいれば、嫌でもそれに慣れてしまう。

 だってここにはかつてはあったはずの地獄がない。


 誰かの喉を掻き切った時に噴き出す赤いペイント。

 撃ち殺されたあとに、焼かれて灰として折り重なる男女。

 道端で後頭部から紅い花を咲かせた子供。


 生々しい戦いという名の粘度を持った赤い景色は、今やこの宇宙のどこにも存在しない。

 ボタンを押してトリガーを引けば、人は消滅する。

 そこに存在したという証すら何も残らないのがこの時代だ。


 ウェアクローズや戦艦に乗り、大口径の砲や大威力のエネルギービームが飛び交う現代の戦場に生々しさはどこにもない。

 あるのは無臭の殺意、鋼鉄の寒々しさ、数字の無音さ、それと宇宙が持つ虚無だけだ。

 殺したという感触も感慨も葛藤も死語と成り果てた。


 それがトーマが未だこの世界で戦いに身を浸していられる理由。

 死は見えているが見えないものであるからだ。


「相変わらずの威力だ」


 今度はもうバレているため、クルヴェットの射撃システムをオンラインにする。

 船が爆発して浮足立っている一隻に向けてロックオンからの射撃。

 回避機動で多少逸れるが、砲の一撃は海賊船の下部を溶解させていった。


 それで船の脚も止まる。

 そこに続けざまにもう一発を叩き込んで二隻を鎮めると同時に、クルヴェットとの接続を解除。

 単発式のエネルギーライフルと近接用のブレードを接続しスラスターを噴かす。


「さて、行こうか」


 レーダーを確認。

 他に見えている海賊船はない。

 陽動で別方向から来るかは常に警戒しつつ、ようやくトーマに対して抵抗に海賊船からの射撃が来る。 

 アルトエーラは律儀にロックオン警報を出す。


 一瞬の静寂にトーマは唇を舐めた。

 心の中で一を数えるよりも速く、フットペダルを蹴る。

 上昇、足の下をエネルギービームが抜けていく。


 頭を押し付けるGの感覚に耐えながら操縦桿を前に目いっぱい倒した。

 加速度そのままに方向転換。

 上昇から直進へとアルトエーラはトーマの要求通りに追従する。


 相手に撃たれたくなければどこへ行けばいいか。

 簡単だ。

 懐に飛び込んでしまえばいい。

 軍で学んだことの一つだ。

 アルトエーラの速力であれば、初撃さえ躱してしまえば相手の懐に飛び込める。


 そうやって近づいて単発ライフルを敵の艦橋へ向けてトリガーを引く。

 ここまで至近距離であれば、シールドは無意味だ。


「残り二隻」


 弧を描くように敵船の周囲を回りながら、敵の射撃を躱す。


「ウェアを出してこないのか?」


 海賊船ならウェアローズを積んでいるものだ。

 そう思っていると、タイミングよくアルトエーラのAIが敵ウェアクローズの反応を告げる。

 五機。

 こちらを取り囲むように向かって来る。


「来たな。じゃあ、こうだ」


 先ほど艦橋を破壊した敵船のモジュールにマニュピレーターモジュールを接続する。


『艦艇モジュールが接続されました』

「武装として登録」

『艦艇モジュールを武装として登録』

「さあて」


 左腕にくっつけるように《《敵船を装備する》》。

 アルトエーラはあらゆるモジュールに接続できるように統一された接続モジュールを持っている。

 これがアルトエーラの自由度の高さのからくりだ。


 同一規格のモジュールであるならば、それが何であろうとも接続可能。

 今、接続したような艦船だろうとも。

 この機体が本当に優れているところは、この汎用性を実現しているOSオペレーティングシステムとAIだ。

 技術革新によってもたらされた汎用性が百年現役を実現した。


「全砲門解放、一斉射撃」

『FIRE』


 艦船のエネルギー砲全てを即座に撃ち放つ。

 突然の艦艇射撃に反応しきれなかったウェアクローズが宇宙の塵になった。


 宇宙で戦っている時の良いところは、敵の悲鳴が聞こえないところだ。

 何かしら叫んでいたとしても通信回線を閉じていれば無音。

 これもまた葛藤を失くし、罪悪感を持たせないことに一役買っている。


「そら、もう一発」


 さらに船のエネルギーの大半を費やして一隻沈める。

 その頃には弾幕をかいくぐってウェアクローズが接近してきた。


「じゃあ、こうだ」


 船のスラスターを起動。

 こん棒のように船をぶん回す。

 まとめて来ていた三機のウェアクローズが面白い様に船にぶつかって小惑星に叩き込まれた。


「接続解除」


 変な使い方のおかげで接続していた船もぶっ壊れた。

 残りは一隻と一機。


 警告。


「おっと」


 機体直上から真っすぐにウェアクローズが突っ込んできた。

 海賊仕様の改造ウェアクローズだ。

 元はなんの機体なのかはデザインが変わっていてわかりにくいが、数世代前の骨董品だろうことはエネルギーコアの周波数からわかった。


 敵はエネルギーブレードを抜き放つ。

 こちらも受ける構えとしてブレードを繰り出した。


 宇宙に剣光が散る。

 エネルギーブレード同士が干渉し弾かれるが、遠ざかる直前に姿勢制御してウェアクローズを蹴っ飛ばす。

 そのままトドメとライフルで狙おうとするが、その前に敵が投擲したブレードがライフルに突き刺さる。


 蹴られた瞬間には投擲していたらしい。


「なかなかやるな」


 だが、軍での任務に比べたら甘い。

 数千の宇宙怪獣に囲まれたこともあるし、凄腕の宇宙傭兵を要する海賊共に単騎で挑まされたこともある。

 これくらいどうということはない。


 ブレードの突き刺さったライフルが爆発する前に投げ捨る。

 爆発の背後から敵がブレードを構えて突っ込んできた。


 ほんのわずかに軸をずらす。

 ブレードが数十メートル先を通り過ぎていくとともに、相手の頭部に膝を叩き込んだ。

 破壊されるメインカメラ。

 そのまま流れるように背中からブレードをコックピットに突き入れた。


「これでウェアクローズの方は終わりだな」


 全機撃墜。

 ここまで来れば、敵は逃げようとするか。


『ひゃあああああ!? こないでええええ!!』


 ヒェミィの悲鳴。

 どうやら最後に残った一隻は採掘艇だけでもと思ったようで、満身創痍のまま突っ込んでいっていた。


「逃がすかよ」


 先ほどコックピットだけを貫いて機能停止させたウェアクローズを脚部と接続する。

 敵をサーフボードのように接続し、その敵の推力と自前の推力を合わせて即席のブースターとして使う。

 二機分の出力があれば、先行する艦艇にも追いつける。


 そのまま敵艦艇の艦橋にブレードで薙ぎ払う。


「宙域スキャン」

『敵性反応なし』

「戦闘終了。終わったぞ、ヒェミィ。……ヒェミィ?」


 応答がない。


「おい、応答しろ! くそ」


 レーダーに異常はない。

 何が起きたのかとすぐに採掘艇へとトーマは急いだ。



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